〈Case8〉相談者プロフィール:マルコさん(仮名)
- 年齢:48歳
- 出身:イタリア北部
- 家族:日本人の妻と二人暮らし
- 来日のきっかけ:妻の地元、瀬戸内の地方都市の穏やかな気候と人の温かさに惹かれて、数年前に移住
- 職業:夫婦で小さなパン店を経営
- 営業:木曜から日曜まで
- 店の特徴:フォカッチャやチャバタなど、食事系パンが中心
- 人気商品:オリーブ入りフォカッチャ、具材たっぷりのパニーニ、チーズパン
- 店舗:住宅街の路面店。小さなテラス席あり
- 相談:故郷のワインをパンと一緒に紹介し、希望するお客さんにはボトルでも販売したい
「このワイン、買って帰れませんか?」
週末の午後。
焼きたてのフォカッチャの香りが漂うテラス席で、数組のお客さんがパンとグラスワインを楽しんでいました。マルコさんは、毎週末、その時々にパンに合わせて選んだ、赤と白のワイン各1種類と、泡(プロセッコ)をグラスで提供しています。オリーブを練り込んだフォカッチャ、具材たっぷりのパニーニ、チーズを使った焼きたてパン・・・。
焼き立てパンにワインを合わせる楽しみをお客さんにも味わってほしいからです。
イタリアでは、パンとワインは特別な日のものではありません。家族や友人と食卓を囲む、ごく普通の暮らしの一部です。
そんな食文化も含めて提供できたら――。
そんな思いから始めた週末限定サービスでした。
ところが最近、口コミで評判が広がり、小さなテラス席は常に満席。
せっかく来てくれた常連客からは、こんな声をかけられることが増えてきました。
「テラス席はまだまだ空きそうにないね・・・。家で食べるから、パンと一緒にワインもボトルで売ってよ」
「今日、友人が来るときに、このパンと一緒に出したいんでワインを分けてもらえませんか?」
近所には、スーパーやコンビニがあり、ワインも置いてはあるものの、イタリアワインはほとんどなく、自分のパンに合わせたいワインも見当たりません。
マルコさんうちのパンに合うワインを、数本ずつでも置くことはできない?



グラスでの提供は飲食店営業許可の範囲でできますが、未開栓のボトルをそのまま売るとなると、話は別なんです。
ここからは、マルコさんと一緒に確認してみましょう
マルコさんのお店では、パンを購入したお客さんがテラス席で食事を楽しめるよう、週末限定でグラスワインを提供しています。
こうした店内やテラス席でのワインの提供は、飲食店営業許可のもと、その場で飲んでもらうために提供している限り、酒販免許は必要ありません。
一方、お客さんが家に持ち帰るために、未開栓のボトルを販売する場合は、法律上は別の扱いになります。
では、お客さんの希望に応じて、未開封のボトルワインを販売するには、どうすればよいのでしょうか。
ボトル販売には「一般酒類小売業免許」が必要
パン屋の一角であっても、ボトルを販売するためには「一般酒類小売業免許」が必要になります。
その取得は、「パン屋だから難しい」ということはありません。
ただし、
- どこを販売場とするのか
- ワインをどのように保管するのか
- 継続的に販売できる体制があるか
といった点を整理して書面に落とし込む必要があります。



パンの隣に、棚を置いてワインを並べるだけじゃダメなんですか?



ワインを必ず店頭に並べなければならない、というわけではありません。
ワインの棚やセラーをバックヤードや事務所に置き、そこを酒類販売場として申請する方法もあります。
大切なのは、酒類を他の商品と区分して保管し、仕入れや販売数量をきちんと管理できる体制を整えることです。
自分でワイン輸入もできる?



僕はイタリアのワイナリーに知り合いが多いので、いずれは自分で輸入できたら、とも思っているんですが……



マルコさんのお店で売るだけなら、「一般酒類小売業免許」で輸入もできますよ。ただ、小さなお店の場合は、輸入したワインをどこに保管するのかも考えておく必要があります。
マルコさんが輸入したワインを、ご自身のパン屋さんで販売するだけであれば、今回の「一般酒類小売業免許」の範囲で対応できます。
ただし、小さな店舗では、輸入したワインの保管場所も考えておく必要があります。店舗内に十分なスペースがない場合は、別に倉庫を借りて蔵置所として届け出る方法もあります。
一方、輸入したワインを他の酒販店や飲食店へ販売(卸売)する場合は、「輸入酒類卸売業免許」が必要になります。輸入そのものに特別な免許が必要なわけではなく、販売先によって必要な免許が変わるという点がポイントです。
また、将来パンとワインのセットを全国に向けて販売するようになれば、その時点で「通信販売酒類小売業免許」も検討することになります。
今回は、自分のお店で販売することが前提ですので、そこまで心配する必要はありません。
まずはパン屋さんでの販売から始めて、事業が広がった段階で必要な免許を追加していくという考え方でも十分対応できます。
パン屋だからこそ生まれる、新しい提案
もし免許を取得できれば、
- 北イタリアを楽しむフェア
- トスカーナの食卓セット
- フリウリのオレンジワインに合わせるパン
- クリスマスにぴったり。フランチャコルタセット
など、ワインに合わせたパンの提案もできるので、創作意欲も湧きそうです。
まとめ:大切なのは、「何を売るか」だけではない
今回のマルコさんのケースは、単にワインを販売したいわけではありません。
彼が届けたいのは、故郷で当たり前だった「パンとワインのある食卓」です。
その思いを形にするには、店内でグラスで提供することと、ボトルを販売することの違いを知り、必要な免許を整えることが大切です。
「自分のパンに合うワインも一緒に届けたい」
そんな、食文化を届けたいという想いから、新しいワインビジネスが始まることもあるのです。
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