〈Case5〉相談者プロフィール:マリさん(仮名)
- 年齢:43歳
- 職業:夫婦でビストロを経営
- 開業年数:11年
- 店舗:住宅街にある18席ほどの小さなビストロ
- 人気料理:煮込み料理、自家製ローストビーフ
- ワイン:フランスワイン中心。ソムリエのマリさんがセレクト
- 客層:30~50代の常連客が中心
- 悩み:店の魅力を生かした新しい売上の柱を作りたい
テイクアウトでワインも販売できたら・・・
コロナ禍をきっかけに、マリさんのお店ではテイクアウトを始めました。
最初は慣れないことばかりでしたが、今ではクリスマスだけでなく、家族の記念日などで、多くの常連客が利用してくれるようになっています。
実は、テイクアウトを始めるとき、マリさんにはひそかに考えていたことがありました。
マリさんワインも、一緒に販売できたらいいのに。
そのとき近所の行政書士に相談したところ、飲食スペースとは区分された販売場が必要と言われました。
ただ当時のマリさんには、店内にそんな場所を確保する方法が思い浮かびませんでした。
店内は18席しかない小さなビストロです。
店頭に、今あるワインセラーと別で販売コーナーを作るほどの余裕はありません。
結局、そのときはワインの持ち帰り販売をあきらめることにしました。
最近、こんな声を聞くようになりました
ところが最近、テイクアウトを利用する若いお客さんから、こんなことを言われるようになりました。
「Uber Eatsとか、やらないんですか?」
たしかに、近くの飲食店でも、デリバリーサービスを利用する店が増えています。
店内営業だけでは、今後、売上を大きく伸ばすのにも限界があります。
一方で、マリさんのお店の魅力は、料理だけではありません。
「この軽めの赤は、前菜からメインまで合わせられますよ。」
「この煮込みなら、熟成感あるシャルドネもおすすめです。」
自分が選ぶワインもこの店の価値だとひそかに自負しています。



デリバリーやるなら、料理と一緒に、うちのワインも買えるようにしたい
デリバリーを始めるにあたり、酒販免許はとれそう?
マリさんの疑問
店の奥には、小さな事務所スペースがあります。
今は備品を置いていますが、片付ければ、小さいセラーを置くぐらいの余裕はありそうです。



店頭じゃなくて、事務所にデリバリー用のワインセラーを置いて、販売場にしてもいいんでしょうか?



店頭でなければ申請できないわけではありません。
事務所スペースでも、飲食スペースと明確に区分し、販売用の酒類や帳簿を別に管理できるのであれば、事務所スペースを販売場として申請できる可能性があります。



その場合、必要なのは一般酒類小売業免許ですか?



店頭や電話で注文を受ける場合は、一般酒類小売業免許でまず大丈夫ですが、注文の受け方によっては、通信販売酒類小売業免許が必要な場合もあります。
ここからは、マリさんと一緒に確認してみましょう
店内で料理と一緒にワインを提供する場合は、酒販免許は必要ありません。
① 料理と一緒なら、ワインもそのまま配達できる?



料理と一緒に届けるのであれば、飲食店営業の範囲でワインも販売できませんか?



料理と一緒であっても、お客さんが自宅で飲むためのワインを販売する場合には、酒類販売業免許が必要なんです。
お客さんが自宅など店外で飲むためのワインを販売する場合には、たとえ料理と一緒であっても、酒類販売業免許が必要です。
店内でワインを提供することと、未開栓のボトルを販売して持ち帰ってもらったり、配達したりすることは、酒税法上、別の扱いになります。
ワインをテイクアウトやデリバリーで販売するには、まず酒類の販売場を定め、その販売場について酒類販売業免許を受ける必要があります。
また、店内提供用のワインと販売用のワインは、区分けして在庫管理する必要があります。
② Uber Eatsを使うなら、通信販売の免許が必要?



Uber Eatsはアプリから注文を受けますよね。
インターネット注文みたいなものだから、一般酒類小売業免許ではなく、通信販売酒類小売業免許ではないのですか?



アプリを使うからといって、必ず通信販売酒類小売業免許になるわけではありません。
どの地域のお客さんを対象に販売するのかが判断の基準になります。
通信販売酒類小売業免許の対象となるのは、インターネットやカタログなどで販売条件を示し、2都道府県以上の広範な地域の消費者を対象に注文を受ける販売です。
一方、インターネットを利用していても、販売場と同じ都道府県内や、販売場が近隣エリア(商圏)を対象とする販売であれば、一般酒類小売業免許の対象になります。
つまり、
Uber Eatsを利用する=通信販売酒類小売業免許
と単純に決まるわけではありません。
Uber Eats上で設定される配達エリアや、実際にどの地域から注文を受ける仕組みにするかで変わってきます。
③ Uber Eatsなどの配達員にワインを渡しても大丈夫?



お店のスタッフではなく、Uber Eatsの配達員さんが届けることに問題はありませんか?



誰が運ぶかだけで、免許の種類が決まるわけではありません。
大切なのは、マリさんのお店が販売者として注文を受け、販売や在庫をきちんと管理できる仕組みになっているかです。
自店のスタッフが届ける場合も、デリバリーサービスの配達員に委託する場合も、ワインを販売するのはマリさんのお店です。
そのため、販売場における受注、代金の決済、商品の引渡し、年齢確認、帳簿や在庫の管理などを、どのような仕組みで行うのかを整理しておく必要があります。
ここは、利用するデリバリーサービス側が酒類の取り扱いに対応しているかも含め、事前に確認したいところです。
④ 川を挟んだお隣の県にも届けられる?



店の近くを流れる川を渡ると、すぐお隣の県なんです。
県境を越えて販売しようとする場合、通信販売酒類小売業免許も必要になりますか?



県境を越えるという理由だけで、直ちに通信販売になるわけではありません。
②でも説明しましたが、販売場が近隣エリア(商圏)を対象とする販売であれば、一般酒類小売業免許で大丈夫な場合もあります。
以前は、「県をまたぐなら通信販売酒類小売業免許が必要なのでは」と思われたりしていましたが、現在、国税庁は、「県を跨がる(2都道府県以上の)電話やインターネット等による受注販売であっても、一般的に自己の販売場の近隣エリア(商圏)であれば、一般酒類小売業免許の対象となる」と明示しています。
したがって、川を挟んだすぐ隣の市が別の県にあったとしても、それだけで通信販売酒類小売業免許が必要になるわけではありません。



では、配達地域を近隣に限定すれば、一般酒類小売業免許でできる可能性があるんですね。



そうですね。
ただし、「近隣」に当たる範囲や、アプリ上でどこまで注文を受けられる設定になっているかは、申請前に確認しておいた方がよいです。
マリさんの場合、まず確認しておきたいこと
マリさんが料理とワインのデリバリーを始めるには、まず次の点を具体的にしていく必要があります。
- 事務所スペースを、飲食用のワインと区分された販売場として管理できるか
- Uber Eatsなど、利用するデリバリーサービスが酒類販売に対応しているか
- アプリ上で注文を受ける地域をどこまでに設定するか
- 一般酒類小売業免許の範囲で販売するのか、広域への販売も見据えるのか
- 受注、年齢確認、代金決済、商品の引渡しをどのように管理するか
「デリバリーだから通販免許」「県境を越えるから通販免許」と、配達方法や県境だけで判断することはできません。
どこに販売場を置き、誰を対象に、どのような仕組みで注文を受け、どこまで届けるのか。
マリさんのお店に合った販売方法を考えたうえで、必要な免許を整理していく必要があります。
まとめ:どの地域の消費者を対象に販売するのか
今回のマリさんのケースには、判断に迷いやすい点がいくつかありました。
- Uber Eatsなど、インターネット上のデリバリーサービスを使うから通信販売酒類小売業免許?
- 県境を越えた地域に配達するなら通信販売酒類小売業免許?
- 配達を自店のスタッフでなく、外部の人に頼む場合にどうなる?
しかし、酒税法のポイントは、きわめてシンプルです。
- 2都道府県以上の広い範囲の消費者を対象
→ 通信販売酒類小売業免許 - 販売場の近隣エリア(商圏)を対象
→ 一般酒類小売業免許
この2点が免許区分を考える際の大きなポイントになります。
一般酒類小売業免許と通信販売酒類小売業免許を分ける大きなポイントは、どの地域の消費者を対象に販売するのかという点です。
そもそもマリさんは、以前「店頭に販売コーナーを作るスペースがない」という理由で、持ち帰り販売そのものをあきらめていました。
けれど、販売場は必ずしも、お客さんが商品を手に取る店頭スペースである必要はありません。
飲食店部分と明確に区分し、販売用のワインの仕入れ・売上・在庫などを別に管理できるのであれば、店の奥にある事務所スペースを販売場として申請できる可能性があります。
大切なのは、場所の広さだけでなく、飲食用のワインと販売用のワインを混在させず、販売場として適切に管理できるかです。
そして、マリさんが一般酒類小売業免許を取得できれば、料理のデリバリーだけでなく、以前あきらめたテイクアウト時のワインの持ち帰り販売にも対応できる可能性があります。
料理に合わせて選んだワインを、自宅でも楽しんでもらう――。それは、新しい売上の柱になるだけでなく、マリさんのお店らしさを、店の外にも届けることにつながるかもしれません。
いずれにせよ、お店の営業形態や配達エリアに合った方法を整理したうえで、必要な免許を見極めて申請することが大切です。
もし酒販免許の区分や販売場の設け方について迷われた場合は、お気軽にご相談ください。
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