【Case11・前編】越境ECで日本ワインを海外へ―通信販売酒類小売業免許でできる?

外国人観光客に日本ワインを説明している
目次

〈Case11〉相談者プロフィール:ナオさん(仮名)

  • 年齢:42歳
  • 職業:小さなワインショップのオーナー
  • 開業年数:6年
  • 店舗:長野市内で実店舗と自社ECショップを運営
  • 取扱商品:長野周辺の小規模ワイナリーのワインが中心
  • 保有免許:一般酒類小売業免許、通信販売酒類小売業免許
  • 客層:30~50代のワイン愛好家、訪日外国人客
  • 悩み:海外の一般消費者から注文を受けた場合、現在の免許で販売してよいのか分からない

海外から届いた「もう一度飲みたい」というメール

ナオさんは、長野の地元生産者のワインを中心に扱う、小さなワインショップを経営しています。

実店舗での販売に加え、数年前から自社のECショップも運営し、国内各地のお客様へワインを発送しています。

最近では、店舗を訪れる外国人観光客も増えてきました。日本のお土産として、地元のワインを数本購入して帰国する人もいます。

ある日、以前来店した海外のお客様から、英語でメールが届きました。

「先日おすすめしてもらって買って帰ったワインが、とても美味しかったです。」
「あなたのオンラインショップで注文して、海外の自宅へ送ってもらえますか?送料は別に支払います。」

ナオさんは、その問い合わせをとてもうれしく思いました。

日本ワインに興味を持ってくれた海外のお客様に、帰国後も商品を届けられたら、店にとってもワイナリーにとっても、新しい可能性が広がりそうです。

一方で、酒販免許について疑問が浮かびました。

ナオさん

海外のお客様でも、個人へのインターネット販売なら、今持っている通信販売酒類小売業免許で販売できるのでは?

ナオさんは、すでに通信販売酒類小売業免許を取得しています。

国内の一般消費者へECサイトを通じて販売できるのであれば、同じように注文を受けて海外へ発送する場合も、同じ免許でよいように思えます。

ここからは、ナオさんと一緒に確認してみましょう

越境ECも「通信販売」ではあるけれど

越境ECとは、インターネットを通じて、海外の消費者に商品を販売する取引です。

ECサイトで注文を受け、代金を決済し、商品を購入者の自宅へ発送する。

この流れだけを見ると、確かに一般的な通信販売と同じように思えます。

そのため、

海外の個人への販売
  
小売
    
通信販売酒類小売業免許

と考えたくなります。

日本国内の取引であれば、この考え方は自然です。

国内の一般消費者や飲食店へ酒類を販売する場合は小売業免許、国内の酒販業者へ販売する場合は卸売業免許というように、通常は販売相手が誰かを基準に免許区分を考えるからです。

ナオさん

海外のお客様も一般消費者だから、ECサイトで注文を受ける場合は、今の通販免許でできるのですか?

🍷行政書士

一般的な取引感覚ではそう考えてしまうのもムリはないのですが、実は酒販免許制度は、国内向けと海外向け販売では、同じ考え方で整理されていないのです。

越境ECも販売方法としてはインターネットを用いた通信販売なので、「通信販売酒類小売業免許」で対応できそうに思えますが、酒販免許上は、国内向けの通信販売と同じ区分ではありません。

越境ECで取得すべきは「輸出酒類卸売業免許」

結論から言うと、越境ECで、海外の一般消費者に酒類を販売する場合は、「通信販売酒類小売業免許」ではなく、「輸出酒類卸売業免許」を取得することになります。

ここで、多くの方が疑問に思われるのが、

「個人のお客様への販売なのに、なぜ『卸売業免許』なの?」

ということです。

一般的に「卸売」と聞くと、酒販店やインポーターなど、事業者同士の取引を思い浮かべます。

海外の個人がECサイトからワインを1本、2本と購入する取引は、通常の感覚では卸売とは思えません。

ナオさん

輸出酒類 “卸売業” 免許という名前だから、海外のインポーターや酒販店へ売るための免許ではないのですか?

🍷行政書士

名前だけを見ると、そう感じますよね。
実は、国内取引と輸出取引では、免許の『分類の考え方』が少し違います。

🍷行政書士

そのヒントが、国税庁の『酒類卸売業免許申請の手引』に書かれています。一緒に見てみましょう。

注目したいのは「自己が輸出する酒類」という文言

国税庁の「酒類卸売業免許申請の手引」の5ページ目には、輸出入酒類卸売業免許について、次のように説明されています。

輸出入酒類卸売業免許とは、自己が輸出する酒類、自己が輸入する酒類又は自己が輸出入する酒類を卸売することができる酒類卸売業免許をいいます。

ナオさん

あ、「自己が輸出する酒類」って書かれていますね!

🍷行政書士

そうなんです。ここが最大のポイントです。

ちなみに、この手引きでは『輸出入酒類卸売業免許』という一つの名称で説明されていますが、実際には輸出酒類卸売業免許と輸入酒類卸売業免許は、それぞれ別の免許です。

手引きでは、両方をまとめて説明するために『自己が輸出する酒類』『自己が輸入する酒類』という表現が並んでいるんですね。

その中でも、今回のナオさんのケースで注目したいのが『自己が輸出する酒類』という文言です。

🍷行政書士

ここでは、相手が海外のインポーター(事業者)なのか、個人の一般消費者なのかという区分はありません。

つまり、日本の店舗から海外の自宅へ直接ワインを送る越境ECも、この定義に含まれると整理されています。

だから、個人向けの越境ECであっても、名前に『卸売』と付く輸出酒類卸売業免許が必要になるんですよ。

ナオさん

個人向けだから小売と考えるのではなく、自分が日本から輸出する酒類かどうかを見るのですね。

🍷行政書士

そうです。
輸出酒類卸売業免許は、その名称だけで判断せず、一つの固有の免許区分として理解した方が分かりやすいかもしれませんね。

「越境EC=通信販売酒類小売業免許」ではない

通信販売酒類小売業免許は、インターネットやカタログなどを利用して、広い地域の消費者へ酒類を販売するための小売業免許です。

しかし、この免許は、国内の消費者を対象とする通信販売を前提としています。

そのため、ECサイトを利用して注文を受けるという共通点だけで、

ネット販売だから通信販売酒類小売業免許

と判断することはできません。

重要なのは、販売方法だけではなく、

  • 商品を国内へ発送するのか、海外へ輸出するのか
  • 販売者自身が輸出する取引なのか
  • どのような販売計画になっているのか

という取引全体の形です。

ここでいう「販売者自身が輸出する取引」とは、酒税法上の「自己が輸出する酒類」に該当する取引かどうか、という意味です。

ナオさんが現在持っている通信販売酒類小売業免許は、国内向けのEC販売には必要な免許です。

一方、海外の消費者へ自らワインを輸出して販売する越境ECでは、輸出酒類卸売業免許の取得を検討することになります。

前編まとめ:越境ECは、「通信販売」ではなく「輸出」として考える

越境ECは、インターネットを通じて海外の一般消費者へ商品を販売する取引です。

そのため、通常の感覚では、「通信販売酒類小売業免許」で対応できるように思えるかもしれません。

しかし、酒販免許上は、国内向けの通信販売と、日本から海外へ酒類を輸出する取引は、異なる考え方で整理されています。

輸出酒類卸売業免許の定義で注目したいのは、「自己が輸出する酒類」という文言です。

海外の酒販業者へ販売する場合だけでなく、海外の一般消費者へ直接発送する越境ECについても、自ら酒類を輸出するのであれば、「輸出酒類卸売業免許」を検討することになります。

ナオさん

単にネット販売かどうかではなく、国内販売なのか、自己が輸出する取引なのかまでを確認する必要があるのですね

🍷行政書士

そのとおりです。
次回は、輸入したワインを国内で販売する場合と比較しながら、この少し分かりにくい免許の建付けを整理してみましょう。

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酒類販売業免許の手続きは、公的書類の収集をはじめ、要件を満たしているかどうかの税務署との事前確認、そして申請書一式の作成など、想像以上に時間と労力がかかります。

当事務所では、ワイン業界に詳しい行政書士が自ら、お客様が本業の準備に専念できるよう、面倒な行政手続きをトータルでサポートいたします。

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この記事を書いた人

横浜の酒類販売業免許専門の行政書士。
「桜並木行政書士オフィス」を運営。
20年以上にわたり、ワインインポーターで輸入貿易実務や販促・企画業務など幅広く経験し、その現場経験を活かして、ワインビジネスを実務と法律の両面からサポートします。

■保有資格
J.S.A.ソムリエ
WSET® Level 3 Award in Wines

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