【ワインショップ開業シリーズ③】「実店舗 vs ECショップ 」― メリット・デメリット徹底比較 ―

左側はワインショップの実店舗、右側はECショップ

前回は、ワインショップ開業に必要な資金について、開業スタイル別にお伝えしました。

今回は、多くの方が最初に迷うポイント「実店舗にするか、ECショップにするか」について、ワインショップならではの視点も交えながら掘り下げます。タイトルには「メリット・デメリット」とありますが、実際は優劣の話ではありません。どちらにも利点と課題があり、大切なのは自分のコンセプトやライフスタイル、資金状況に合った選択をすることです。前回の資金の話と合わせて読んでいただくと、より具体的なイメージが持てると思います。

目次

実店舗とECショップ」まずその前提を整理する

実店舗とECショップは、単に「リアルかオンラインか」の違いではありません。集客の仕組み、必要なスキル、初期投資、日々の業務内容、そのすべてが異なります

他方、両者に共通するワインショップ特有の事情として、商品の見せ方・伝え方が売上に直結するという点があります。ワインは味を試してから買うことができない商品です。しかも同じ品種・同じ産地であっても、生産者が違えば味わいは変わります。さらに同じ生産者のワインでも、その年の気象条件などによって出来栄えは大きく変わります。そうした背景をもふまえて、「このワインはこういう味わいです」と言葉で伝えられるかどうかが、お客様の購買判断を左右します。だからこそ「どう伝えるか」がどちらの形態においても勝負の分かれ目になるのです。

実店舗を構える場合

実店舗のメリット

① お客様と直接コミュニケーションができる

ワインショップの醍醐味のひとつは、お客様との会話です。「今日はどんな料理に合わせたいですか?」「予算はどのくらいですか?」といったやり取りを通じて、お客様一人ひとりに合ったワインを提案できるのは、実店舗ならではの強みです。

こうした体験の積み重ねがリピーターを生み、口コミにつながります。

② 取り扱い商品の制限がない

後ほど「4|酒類販売免許の観点から見た違い」で詳しく説明しますが、通信販売酒類小売業免許と異なり、実店舗に必要な一般酒類小売業免許では、国産ワインを含むすべての酒類を販売することができます。大手メーカーのワインも、日本酒も、ウイスキーも、免許の範囲内であれば自由に品揃えできるのは、実店舗ならではの利点です。

③ ワインを「体験」として売ることができる

店内の空間、ワインセラーの佇まい、グラスに注がれたときの色合い。実店舗は、ワインという商品をただ販売するだけでなく、文化や体験として届ける場所になります。

テイスティングイベントや産地別のワイン会、生産者来日イベントなども開催しやすく、コミュニティづくりにも発展します。

④ 信頼感・安心感がある

「ちゃんとお店がある」という事実は、初めてのお客様に対して大きな安心感を与えます。特に高額ワインや贈答用ワインを買う際、お客様は「信頼できるお店かどうか」を重視します。

実店舗のデメリット

① 初期費用・固定費が高い

前回お伝えしたように、実店舗は物件取得費・内装工事費・設備費など、まとまった初期投資が必要です。さらに家賃・光熱費・保険料などの固定費が毎月かかります。

② 場所に縛られる

商圏が店舗の立地に限定されます。どれだけ良いワインを揃えていても、お客様が来店できる範囲にしかアプローチできません。立地選びが売上を大きく左右します。

③ 営業時間の制約がある

店を開けている間は基本的に店頭に立つ必要があります。一人で運営する場合、仕入れ・イベント準備・SNS発信などとの両立が体力的にきつくなることもあります。

④ ワインを保管するための設備維持・管理コストが必要

これはワインショップ特有のデメリットです。業務用ワインセラーや空調管理は、設置して終わりではなく、維持・管理のコストが継続的にかかります。夏場の電気代は特に注意が必要です。

ECショップの場合

ECショップのメリット

① 初期費用を抑えてスタートできる

店舗の内装費や家賃がかからない分、オンラインショップは比較的少ない資金でスタートできます。在宅で運営できるため、固定費も抑えやすいです。

② 全国・24時間販売できる

地理的な制約がなく、全国のワイン好きにアプローチできます。お客様が自分の都合の良い時間に注文できるのもECショップならではの強みです。

③ 在庫リスクをコントロールしやすい

実店舗では見栄えのためにある程度の在庫量が必要ですが、ECショップでは必要最小限の在庫からスタートすることも可能です。前回もお伝えしましたが、ECショップでは「注文を受けてから仕入れる」スタイルを前提に商品ページを作成することができます。仕入元の在庫切れリスクさえうまく管理できれば、手元に在庫を抱えることなく商品ラインナップを充実させられるのは、ECショップならではの大きな利点です。

④ ウェブデザイナーでなくても開業できる

「ECサイトを作るのは難しそう」と感じる方も多いですが、現在はノーコードで使えるプラットフォームが充実しています。代表的なものをご紹介します。

BASE(ベイス)は、デザインの知識がなくてもテンプレートを選ぶだけでショップページが完成します。月額費用ゼロ(売上に応じた手数料制)で始められるため、初期リスクを最小限に抑えたい方に向いています。

Shopify(ショッピファイ)は、世界中で使われているECプラットフォームで、デザインの自由度が高く、機能も豊富です。ある程度使いこなすまでに習得コストはかかりますが、本格的なECショップを目指すなら選択肢に入ります。

楽天市場・Amazonは集客力が圧倒的ですが、出店費用や手数料が高く、競合も多いため、価格競争に巻き込まれやすい点は注意が必要です。また、独自のブランドイメージを構築しにくいという側面もあります。ワイン専門店としての世界観を大切にしたいなら、最初から楽天・Amazonに頼りすぎない方がいいでしょう。

ワインショップのEC運用としては、自社サイト(BASEやShopifyで構築)を「本店」とし、VIVINO(世界最大級のワイン検索・評価コミュニティアプリ)や楽天市場、Amazonなどのプラットフォームを集客窓口として活用する方法が考えられます。自社サイトで顧客との関係を構築しながら、各プラットフォームで認知度向上や新規顧客の獲得を図るイメージです。

ECショップのデメリット

① 集客を自分で作らなければならない

実店舗であれば通りがかりのお客様が入ってくることもありますが、ECショップはサイトへの流入を自分で作る必要があります。SNS運用、SEO対策、広告など、継続的な情報発信が必要です。

開業直後は特に認知度がゼロからのスタートになるため、売上が安定するまでの期間は覚悟が必要です。

② お客様との関係構築に工夫が必要

一度購入していただいても、二度目につながるとは限りません。実店舗のような対面接客ができない分、お客様との信頼関係を築くには意識的な工夫が必要です。 商品ページの読み物としての充実度、メルマガでの産地や生産者ストーリーの発信、SNSでの日常的なワイン情報の共有など、画面越しでも「このお店から買いたい」と思っていただける関係を丁寧に積み上げていくことが、ECショップ長期運営の鍵になります。

③ ワインを「伝える力」がすべて

実店舗なら会話で補えることも、ECではテキストと画像だけで伝えなければなりません。ここがワインECの最大の難関です。

ワインの産地、生産者のこだわり、味わいの特徴、合わせる料理の提案…これらを魅力的に文章で表現する力が、オンラインショップの売上を左右します。ワインの知識があることは前提として、デザインや文章力、表現力など、対面販売とは違うセンスやスキルが問われます

④ 商品画像の「質」も問われる

ワインは見た目の美しさも購買動機のひとつです。ECショップでは、ボトル画像のクオリティが売上に直結します。

ここで重要になるのが、仕入先からクリアなボトル画像を取得できるかどうかです。インポーターによっては高解像度の商品画像データを提供してくれるところもありますが、そうでないところも少なくありません。インポーターのホームページから簡単に取得できる場合もあれば、そもそも全商品を随時ホームページに掲載していないところもあります。

さらに、ホームページに画像が掲載されていても、ヴィンテージが異なっていたり、ラベルデザインが微妙に変わっていたりすることは往々にしてあります。そのたびに実際に商品を仕入れてからボトル撮影を行い、ボトル形に切り抜いて…となると、時間も手間もかかるうえ、商品ページ全体のクオリティにもばらつきが出てしまいます。

できれば取引を始める前の段階で、生産者から高画質の画像を取り寄せているかどうかを確認しておくことをおすすめします。

また、仕入先が生産者情報やワイン情報(土壌・ブドウ品種・醸造方法など)を充実させているかどうかも、ECショップ運営における重要な選定ポイントです。情報が豊富なインポーターと取引することで商品説明ページのコンテンツが充実し、ワイン好きのお客様の購買意欲を刺激しやすくなります。

⑤ 配送・梱包の手間がかかる

注文ごとに梱包・発送対応が必要です。ワインは割れ物なので、梱包には特に気を使う必要があります。特に夏場はクール便対応も必要になり、送料・資材費が増加します。注文が増えるほど作業量も増えるため、スケール時の体制づくりを早めに考えておくと良いでしょう。

酒類販売免許の観点から見た違い

行政書士として一点補足すると、実店舗とECショップでは、必要な酒販免許の種類が異なります

実店舗での販売(店頭での対面販売)には一般酒類小売業免許が必要です。一方、インターネットを通じた通信販売には通信販売酒類小売業免許が必要になります。

「実店舗を開いたから、ネットでも売れるだろう」と思いがちですが、それぞれ別の免許です。両方やりたい場合は、両方の免許を取得する必要があります。

また、通信販売酒類小売業免許で販売できるお酒には制限があり、国産酒は年間課税移出数量3,000キロリットル未満の製造者のお酒に限られます。国産ワインを通販したい場合、ワイナリーから「果実酒の製造免許を持つ3,000キロリットル未満の製造者である」旨の証明書を発行してもらう必要があります。大手メーカーの国産ワインは通販できないため、品揃えを考える際は注意が必要です。なお、輸入ワインはこの制限が適用されないため、輸入ワイン専門のECショップであれば比較的自由に品揃えができます。

※ インターネット上では、大手メーカーの国産ワインやビールが販売されているのを見かけます。しかし、これは酒類販売業免許制度の変遷により、現在では新規取得できない内容の免許を保有している酒販店が存在するためです。

そのため、既存の酒販店が販売できている酒類であっても、新たに通信販売酒類小売業免許を取得する場合には、同じように取り扱えるとは限りません。開業時には「他のお店が販売しているから大丈夫」と考えず、自分の免許で取り扱える範囲を確認することが大切です。

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結局どちらを選ぶ?

ここまで見てきたように、一概にどちらが良いとは言えませんが、一応の判断の目安をお伝えします。

実店舗が向いている方

  • お客様との直接のやり取りにやりがいを感じる
  • 地域に根ざしたコミュニティを作りたい
  • ある程度の開業資金を確保できている
  • 立地条件の良い物件を見つけられた

ECショップが向いている方

  • まずリスクを抑えてスタートしたい
  • 文章を書くこと・情報発信が好き
  • 全国のワイン好きにアプローチしたい
  • 輸入ワインを中心に品揃えしたい

また、最初はECショップでスタートして、ブランドと資金が育ってきたタイミングで実店舗を出すという順番も、リスク管理の観点からは合理的な選択です。

まとめ:結局、自分に合うスタイルはどちらか

実店舗とECショップ、どちらにも魅力と課題があります。大切なのは「どちらが流行っているか」ではなく、自分のコンセプト・強み・ライフスタイルに合った形を選ぶことです。

そして、どちらの形態を選ぶにしても、酒販免許の取得は必須です。なかには、開業後になって「やりたかった販売方法が免許の範囲外だった」と気づくケースもあります。免許の種類を間違えると、せっかくの開業準備が振り出しに戻ってしまうこともあるため、自分のビジネスモデルに合った免許を事前に正しく把握しておくことが、スムーズな開業への第一歩になります。迷ったときは、ぜひお気軽にご相談ください。

ワインショップ開業ガイド

ワインショップを開業したい方に向けて、開業準備から仕入れ、販売、集客までを順番に解説しています。

■ 開業準備

■ 商品・販売

■ 店舗運営

■ EC・集客

■ ブランディング

酒類販売業免許の手続きは、公的書類の収集をはじめ、要件を満たしているかどうかの税務署との事前確認、そして申請書一式の作成など、想像以上に時間と労力がかかります。

当事務所では、ワイン業界に詳しい行政書士が自ら、お客様が本業の準備に専念できるよう、面倒な行政手続きをトータルでサポートいたします。

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この記事を書いた人

横浜の酒類販売業免許専門の行政書士。
「桜並木行政書士オフィス」を運営。
20年以上にわたり、ワインインポーターで輸入貿易実務や販促・企画業務など幅広く経験し、その現場経験を活かして、ワインビジネスを実務と法律の両面からサポートします。

■保有資格
J.S.A.ソムリエ
WSET® Level 3 Award in Wines

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