はじめに:酒販免許を取ったら、今までのレジ管理のままで大丈夫?
飲食店が酒販を兼業すると、一つの事業者の中に「飲食店として扱う酒類」と「酒類小売業者として扱う酒類」という二つの流れが生まれます。そのため、免許取得後も両者を区分して管理することが重要になります。
飲食店では、日頃からレジやPOSを使って売上を管理しているお店も多いでしょう。
- 「今日はワインが何杯出たか」
- 「ボトルワインの売上はいくらだったか」
- 「どのワインがよく売れているか」
- 「ドリンクの原価率はどのくらいか」
こうした数字は、飲食店を経営していくうえで大切な情報です。
では、飲食店が一般酒類小売業免許を取得して、店内で提供するワインとは別に、未開栓のボトルを持ち帰り用として販売するようになったらどうでしょうか。
これまで使っていたレジやPOSを、そのまま使うことはできるのでしょうか。
結論からいえば、酒販免許を取得したからといって、新しいPOSを導入しなければならないわけではありません。
大切なのは、どのシステムを使うかよりも、「酒販を始めた後に必要となる数字を、現在の仕組みから取り出せるか」ということです。
今回は、飲食店が酒販を始めるときに知っておきたい酒類の記帳や販売数量等報告と、POSを使った管理の考え方について見ていきます。
飲食店でも、もともと酒類についての記帳義務はある
まず押さえておきたいのは、飲食店は酒販免許を取得するまで、酒類について何の記録義務もなかったわけではないということです。
酒場や料理店などで酒類を提供する場合にも、酒税法上、酒類の仕入れや提供等について記帳が必要となります。
一方、酒販免許を取得すると、酒類販売業者として、酒類の仕入れや販売について必要な事項を帳簿に記載するとともに、毎年度、酒類の販売数量等について税務署へ報告する必要があります。
酒類販売業者の帳簿では、酒類の品目や税率の適用区分ごとに、仕入数量・仕入価格・仕入年月日・仕入先などを記録します。
販売についても、販売数量・販売価格・販売年月日などを記録することが求められています。
つまり、飲食店が酒販免許を取得すると、これまでの店舗経営のための売上管理に加えて、「酒類販売業者として、何をどれだけ販売したのかを把握する」という視点が、より重要になってきます。
酒販を始めると、年1回の「販売数量等報告」が加わる
酒販免許を受けた酒類販売業者は、毎年「酒類の販売数量等報告書」を提出します。
ここで注意したいのは、この報告が単なる「年間売上高の報告」ではないことです。
必要になるのは、酒類の販売数量などです。
また、年度末である3月31日時点で所持している酒類の数量についても把握しておく必要があります。
そのため、「今年はワインが300万円売れた」という売上金額が分かるだけでは、酒販に必要な管理としては十分とは限りません。
何を、どれだけ販売したのか。
そして、年度末にどれだけ在庫が残っているのか。
こうした数量の情報も必要になります。
ここが、飲食店として行ってきた売上管理と、酒販を始めた後の管理との大きな違いの一つです。
飲食店の「売上管理」と酒販の「数量管理」は目的が違う
飲食店のレジでは、たとえば次のような分類が使われているかもしれません。
- フード
- ソフトドリンク
- グラスワイン
- ボトルワイン
- 赤ワイン
- 白ワイン
- スパークリングワイン
これらは、店舗の売上や商品構成を見るためにはとても便利な分類です。
しかし、酒販免許を取得した後には、それとは少し違った情報も必要になります。
たとえば、750mlのワインを10本販売したとします。
売上管理だけであれば、「ワイン10本 35,000円」と分かれば十分かもしれません。
一方、酒類の販売数量を把握するためには、
750ml × 10本 = 7,500ml
つまり、
7.5リットル
と数量に換算できる必要があります。
750mlだけでなく、375mlのハーフボトルや1,500mlのマグナムボトルなどを扱っていれば、それぞれの容量を踏まえて集計しなければなりません。
そのため、酒販を始める場合には、商品ごとの「販売価格」だけでなく、容量や販売本数を把握できるようにしておく必要があります。
お店の商品分類と、酒税法上の「品目」は同じとは限らない
もう一つ注意したいのが、酒類の分類です。
ワインショップや飲食店では、
「赤ワイン」
「白ワイン」
「スパークリングワイン」
「デザートワイン」
「クラフトビール」
といった分類を使うことが多いでしょう。
しかし、これらは必ずしも酒税法上の「品目」と同じではありません。
たとえば、一般に「ワイン」と呼ばれている酒類でも、酒税法上は「果実酒」や「甘味果実酒」などに分かれます。
また、「クラフトビール」という名称で販売されている商品についても、酒税法上必ず「ビール」に分類されるとは限りません。原料や製造方法などによっては、「発泡酒」など別の品目に該当するものもあります。
つまり、店舗で使う商品カテゴリーと、酒税法上の品目は、別の情報として考えておく必要があります。
酒販を始める際には、「赤ワイン」「白ワイン」「クラフトビール」といった普段の商品分類だけでなく、それぞれの商品が酒税法上どの品目に該当するのかを確認できるようにしておくと、販売数量等報告の際にも集計しやすくなります。
飲食と酒販のデータを分けて管理する
飲食店が酒販を兼業する場合には、飲食用の酒類と販売用の酒類を区分して管理することが重要です。
たとえば、同じ銘柄のワインを店内でも提供し、持ち帰り用としても販売する場合でも、飲食用として仕入れたワインは飲食用の在庫として管理し、販売用として仕入れたワインは酒販用の在庫として管理する、というように、それぞれの流れを区別して考えます。
この区分は、レジやPOSで売上を記録するときにも必要です。
同じワインであっても、店内でグラスやボトルとして提供したものと、酒販として未開栓のまま販売したものを区別できなければ、あとから「酒販として何本販売したのか」を正確に取り出すことが難しくなります。
そのため、POSを使う場合にも、飲食としての売上と酒販としての売上を区別して集計できるようにしておくことがポイントになります。
そこで役立つのがPOS―そもそもPOSとは?
ここで登場するのが「POS」です。
POSとは、Point of Sale の略で、日本語では一般に「販売時点情報管理」と呼ばれています。
POSというと、スーパーなどで商品のバーコードを読み取るレジを思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、POSの本質はバーコードを読み取ることではありません。
「何が、いつ、いくらで、いくつ売れたのか」を、販売した時点で記録し、データとして管理する仕組みと考えると分かりやすいでしょう。
そのためにすべての商品にJANコードを貼る必要があるわけではありません。
商品にもともと付いているJANコードを読み取る方法もあれば、お店独自の商品コードやバーコードを設定する方法もあります。
また、タブレットの画面に登録された商品ボタンをタップしたり、スマートフォンやタブレットのカメラでバーコードを読み取ったりするタイプのPOSもあります。
大切なのは「どう入力するか」ではなく、販売した情報を、後から必要な形で取り出せるかどうかです。
酒販報告から逆算して、どんなデータを管理する?
では、飲食店が酒販を始める場合、どのような情報を管理できるようにしておくとよいのでしょうか。
一例として、次のような情報が考えられます。
| 管理しておきたい情報 | 何のために使う? | 具体的な管理イメージ・ポイント |
| 商品名・商品コード | 商品の識別 | 単品(SKU)ごとの管理 |
| 店舗の商品カテゴリー | 日常の売上・商品管理 | 赤・白・スパークリング等の店内分類 |
| 酒税法上の品目 | 酒販に必要な集計 | 果実酒、甘味果実酒、発泡酒等 |
| 1本あたりの容量 | リットル換算 | 750ml、375ml、1,500ml等 |
| 販売単位・数量 | 販売数量の把握 | 本数やケース入数を把握し、容量へ換算 |
| 飲食/酒販の区分 | 酒販数量の抽出 | 店内提供分と持ち帰り販売分を区分 |
| 仕入・在庫情報 | 帳簿・在庫管理 | 仕入数量・仕入先・仕入日・仕入価格などを記録 |
| 3月末在庫 | 販売数量等報告 | 3月31日時点の在庫数量を把握 |
もちろん、これらすべてをPOSの商品マスターに登録しなければならない、という意味ではありません。
POSで管理する部分もあれば、在庫管理システムや会計システム、表計算ソフトなどを組み合わせて管理する方法もあります。
店舗の規模や取扱商品数によって、使いやすい方法は異なります。
重要なのは、「POSに何を入れるか」ではなく、「最終的に必要な数字を取り出せる仕組みになっているか」ということです。
たとえば、現在使用しているPOSで「飲食」と「物販」を部門別に集計でき、商品ごとの販売本数も取り出せるのであれば、酒販を始めたからといって、必ずしもPOSそのものを入れ替える必要はないでしょう。
一方、売上金額しか残らず、どの商品を何本販売したのか分からない仕組みであれば、酒販を始める前に管理方法を見直した方がよいかもしれません。
POSだけですべてを管理する必要はない
ここまで読むと、「酒販免許を取るなら、高機能なPOSを導入しなければいけないの?」と思われるかもしれません。
しかし、POSの導入そのものが酒販免許の要件になっているわけではありません。
小規模な店舗であれば、現在使用しているレジと表計算ソフトを組み合わせる方法も考えられます。
一方、取扱商品が多かったり、飲食と物販の両方で同じ銘柄を扱ったりする店舗では、POSの商品管理や部門管理、在庫管理などの機能を利用した方が、日々の作業を効率化できる場合もあるでしょう。
酒販を始めるから新しいシステムを導入する、と考えるのではなく、まず、酒販を始めた後にどんなデータが必要になるのかを確認する。
そのうえで、現在使っているレジやPOSで対応できるのかを確認する。
足りない部分があれば、設定変更や別の管理方法を検討する。
この順番で考える方が現実的です。
4月になってから、1年分の販売データを拾い直さないために
酒類の販売数量等報告書は、毎年4月30日までに提出します。
もし4月になって初めて、
「昨年度、果実酒を何リットル販売したのだろう」
「750mlと375mlのワインを、それぞれ何本売ったのだろう」
と調べ始めることになれば、1年分の販売データをさかのぼって集計しなければなりません。
商品数が多い店舗では、かなりの作業になるでしょう。
国税庁では、販売数量等報告書をe-Taxで提出できるほか、販売数量報告書等作成補助ツールや一括入力用のExcelデータも提供しています。
だからこそ、報告書を提出する段階になって初めて数字を作るのではなく、日々の販売管理から、酒販の報告につながるデータを残しておくという考え方が大切になります。
まとめ:POSを選ぶ前に「最後に必要な数字」を確認しよう
飲食店が酒販免許を取得して持ち帰り販売を始めると、これまでの飲食店経営のための売上管理に加えて、酒類販売業者としての記帳や販売数量等報告を意識する必要があります。
そのときに大切なのは、最初から「どのPOSを導入するか」を考えることではありません。
まず、酒販を始めたら、何を記帳・報告する必要があるのかを確認する。
そのためには、日々どのようなデータを残しておく必要があるのかを考える。
そして、現在使っているPOSやレジ、在庫管理の仕組みから、その数字を取り出せるかを確認する。
この順番で考えると分かりやすいでしょう。
酒販免許を取得することは、単に「持ち帰り用のワインをレジで売れるようになる」ということではありません。
免許取得後の記帳や報告まで見据えて、飲食と酒販を区分しながら、日々の販売データをどのように管理していくのか。
酒販を始める前に、現在使っているレジやPOSの設定を一度確認しておくと安心です。
酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら
酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。
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