ワインショップを開業しようと考えたとき、多くの人がまず気にするのが「どこに店を出すか」です。
駅前の一等地が良いのか、住宅街が良いのか、それとも郊外なのか。
しかし、ワインショップの場合、必ずしも「人通りの多い場所」が正解とは限りません。
むしろ、どのような形でワインを販売したいのかによって、選ぶべき場所は大きく変わります。
今回は、ワインショップの立地について考えてみたいと思います。
「駅前に出店」は本当に正しい?
一般的な小売店では、立地は非常に重要です。
コンビニやドラッグストア、スーパーなどは、できるだけ多くの人の目に触れる場所に出店することで売上を伸ばします。
しかし、ワイン専門店は少し事情が異なります。
ワインを購入するお客様は、「たまたま通りかかったから買う」というよりも、「あの店でワインを選びたい」と目的を持って来店するケースが少なくありません。
特に、日本ワイン専門店や自然派ワイン専門店のように専門性を打ち出す業態では、その傾向が強くなります。
もちろん駅前立地にもメリットはありますが、「駅前だから成功する」というほど単純ではないのが、ワインショップの難しくも面白いところです。
どんな販売スタイルを目指すかで場所は変わる
ワインショップには、様々なやり方・スタイルがあるからこそ、開業場所を考える前に、「誰に、どのように売るのか」を考えることが大切です。
EC販売を中心にする場合
ネットショップが中心であれば、必ずしも人通りの多い場所に店舗を構える必要はありません。
自宅の一部や郊外の小規模な事務所からスタートすることも可能です。
その分、家賃などの固定費を抑えることができ、開業初期の負担も軽くなります。
実店舗販売を中心にする場合
一方で、実店舗を中心に運営する場合は考え方が変わります。
ワインは重く、まとめ買いされることも多いため、意外と重要なのが駐車場です。周囲が住宅街でも駐車場が確保できる場所であれば、十分に商売になる可能性があります。
また、実店舗の場合は「お店のコンセプトと街の雰囲気が合っているか」も重要です。
築年数や周辺環境も含めて、「このお店だから買いたい」と思ってもらえる場所かどうかを意識してみると良いでしょう。
角打ちを併設する場合
店内で試飲やグラス販売を行う「角打ち」を想定しているなら、人通りの多い場所や飲食店街との相性が良くなります。仕事帰りのお客様や飲食店利用者の流れを取り込めるためです。
飲食店向け販売を重視する場合
飲食店への販売や配達を重視するなら、飲食店が集まるエリアに近い方が効率的です。時には、近隣の飲食店オーナーや担当者がお店までワインを見に来てくれることもあるかもしれません。
また、飲食店との距離が近ければ、納品だけでなく、情報交換や共同企画などの関係も築きやすくなります。例えば、近隣飲食店と連携して、BYO(Bring Your Own:ワインの持ち込みサービス)などの企画を実現できる可能性もあります。
このように、「どこに出店するか」より先に、「誰に売るか」を考えることが重要です。
そして候補地が見えてきたら、次は実際の物件選びです。
ここがポイント
住宅街での開業を考えている場合は、都市計画法上の「用途地域」にも注意が必要です。
例えば、第一種低層住居専用地域では、店舗営業や角打ち営業が制限されるケースがあります。
事前に自治体の建築指導課などで確認しておくと安心です。
物件選びで見落とされがちなポイント
候補地が決まったら、次は物件選びです。
しかし実際には、家賃や駅からの距離ばかりに目が向き、ワインショップに特有の大切なポイントを見落としてしまうことがあります。
競合店との距離感
物件を探していると、近くに既存のワインショップがあることもあります。
一般的な小売業では競合店が近いことを敬遠しがちですが、ワイン専門店の場合は必ずしもそうとは言えません。扱うジャンルや価格帯、コンセプトが異なれば、むしろお互いにそのエリアのワイン文化を盛り上げて相乗効果を押し上げる存在になることもあります。
大切なのは、「同じお客様を奪い合うことにならないか」を考えることです。
商品の搬入動線
物件探しで見落とされがちなのが、商品の搬入です。ワインはケース単位で仕入れることが多く、1ケースでもかなりの重量になります。
そのため、
- エレベーターのない2階以上の物件
- 段差などにより、台車が使いにくい物件
- 搬入口が狭い物件
などは、日々の業務に大きな負担を与える可能性があります。
実際には、おしゃれな内装や駅からの距離よりも、毎日の搬入作業のしやすさの方が重要になることもあります。
ワインを守る設備環境
搬入動線と同じくらい重要なのが、ワインを保管する環境です。
ワインセラーや空調設備を長時間稼働させることになるため、電気容量が十分かどうかは確認しておきたいポイントです。
また、日当たりや断熱性も意外と重要です。
ガラス張りの見栄えの良い物件でも、西日が強く差し込む環境では冷房負荷が大きくなり、光による品質劣化のリスクも高まります。せっかく店内のワインを美しく陳列しても、午後からずっとロールカーテンを引いて、日差しを遮断しなければならないのでは、営業的にももったいないです。
開業後に後悔しないためにも、商品の動線に加え、「電気容量」「断熱性」「日当たり」あたりも確認しておきたいところです。
自宅開業という選択肢
初期費用を抑えたい方にとって、自宅の一室を販売場として開業する方法も現実的な選択肢のひとつです。賃料がかからない分、資金繰りの面では大きなメリットがあります。
ただし、酒販免許の観点からはいくつか注意点があります。
賃貸物件の場合は、オーナーから酒類販売目的で使用することについての承諾が必要になります。また、分譲マンションの場合は、管理規約や管理組合の承認が問題になるケースもあります。
さらに、自宅の一部を販売場として使用する場合は、住居部分と販売場部分が明確に区画されていることが求められます。
自宅兼店舗で新規に開業を検討している方は、酒販免許申請、物件契約や内装工事を進める前に必ず確認しておくことをおすすめします。
関連記事 ※ 酒類販売業免許の「場所的要件」については、こちらのページを併せてご参照ください。

開業後を見据えた物件選び
開業時の物件選びは、酒販免許を取得できれば終わりではありません。
将来の事業展開や移転の可能性も含めて考えておくことで、後々の負担を減らせる場合があります。
また、「まずはEC販売だけで小さく始め、軌道に乗ったら実店舗も構えたい」と考えている場合でも、開業場所は単なる「仮の場所」と考えない方がよいかもしれません。お客様との関係ができてから移転すると、商圏や客層が変わってしまうこともあります。
将来の事業展開をある程度イメージしたうえで最初の場所を選ぶことが、結果として長く安定した経営につながることもあります。
さらに、移転を予定している場合も注意が必要です。酒販免許は販売場ごとに付与されるため、移転する際には税務署で「移転の許可申請」手続きが必要になります。その手続きは、新規取得と同じくらいの手間と審査期間を要します。
「移転先の物件に許可がなかなか下りないから、販売をしばらく中断せざるを得ない・・・」ということのないよう、物件契約の前の段階から、税務署や行政書士に相談して進める方が安心でしょう。
小さく始めて接点を増やす
もし私がこれからワインショップを開業するならどうするかを想像してみました。
おそらく最初から駅前の一等地に出店しようとはしないでしょう。やはり家賃負担の問題は大きいからです。
まずはEC販売を軸とし、小規模な事務所や店舗でスタートすると思います。そしてSNSなどを活用しながら、お客様への発信と接点づくりを探ります。
ただし、オンラインだけでは限界もあるでしょう。
そしたら、新たなお客様に自店のワインの味を知ってもらうために、マルシェなどへのイベント出展を考えるかもしれません。
ある程度認知が進んだら、お客様と直接交流できる場として、試飲会やイベントの自社開催を検討すると思います。近年は駅近のレンタルスペースや貸会議室が増えており、時間単位で利用できる施設も数多くあります。水回りも含め、設備の整った会場も多く、試飲会やワインセミナーには十分な環境です。
例えば、近隣飲食店向けとして無料試飲商談会、一般消費者向けには有料試飲会という形で、少し時間をずらして開催できれば開栓したワインを有効活用しながら多くのお客様と交流できそうです。
またイベント会場に関しては、ワインスクールなどが会場レンタルを行っているケースもあります。ワインイベント向けの設備や備品が整っているため、運営面での安心感があります。
さらに、インポーターとのタイアップで、生産者を招いたイベントなどが実現できれば、集客や情報発信の面でも大きな強みになるでしょう。
ここがポイント
試飲会と即売会を同時に行う場合には酒販免許上の注意が必要です。
酒販免許は場所ごとに付与されるため、通常の販売場とは異なる会場で酒類を販売する場合には、原則として「期限付酒類小売業免許」が必要になります。
一方、当日は試飲のみを行い、その場で注文を受け付けて後日自店から発送する方法であれば、一般的にはイベント会場での酒類販売には当たらないと考えられています。ただし、注文方法や決済のタイミングによって判断が分かれることもありますので、事前に確認しておくことをおすすめします。
まとめ:場所選びは、ワインショップづくりの第一歩
ワインショップの開業場所に絶対的な正解はありません。
駅前だから成功するわけでもなければ、住宅街だから失敗するわけでもありません。
大切なのは、「どんなお客様に、どのような形でワインを届けたいのか」を先に考えることです。場所は、その実現手段のひとつに過ぎません。
店舗は後からでも作れます。しかし、お客様との信頼関係は一朝一夕には作れません。
だからこそ、物件探しの前に、「自分はどんなワインショップを作りたいのか」を考えてみることをおすすめします。
ワインショップ開業ガイド
ワインショップを開業したい方に向けて、開業準備から仕入れ、販売、集客までを順番に解説しています。
■ 開業準備
- 「コンセプト設計から始めよう」― どんなお店にする?―
- 「開業資金はどれくらい必要?」― 初期在庫や設備投資のリアル ―
- 「開業場所はどこが良い?」― ワインショップの立地は、売り方によって正解が変わる ―
- 「ワインショップは何本売れば食べていける?」― 自宅EC販売から逆算してみた ―
■ 商品・販売
- 「ワインショップの仕入れはどうする?」― インポーター、卸売業者、直輸入…どれを選ぶ? ―
- 「日本ワインを扱う場合のポイント」― ワイナリーとの関係づくりが仕入れを左右する ―
- 飲食店向け販売は「卸売」じゃない―ワインショップ経営を支える「もう一つの販路」 ―
■ 店舗運営
- 「実店舗 vs ECショップ 」― メリット・デメリット徹底比較 ―
- 「角打ち併設の可能性」― 有料試飲が生み出す価値と課題 ―
- 「スタッフ採用と店舗運営」― 人を雇うのは「忙しくなったとき」ではない? ―
■ EC・集客
■ ブランディング
酒類販売業免許の手続きは、公的書類の収集をはじめ、要件を満たしているかどうかの税務署との事前確認、そして申請書一式の作成など、想像以上に時間と労力がかかります。
当事務所では、ワイン業界に詳しい行政書士が自ら、お客様が本業の準備に専念できるよう、面倒な行政手続きをトータルでサポートいたします。
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