〈Case15-⑥〉登場人物と二人の計画
・46歳、メーカー勤務(事務職)
・事務やWeb作業が得意
・実家は元洋食店で、現在は父が弁当・惣菜の販売を続けている
・かつての客席スペースは、現在ほぼ物置になっている
・土日休み
・46歳、中学時代からのアキさんの友人
・飲食店勤務
・ソムリエ資格あり
・ワインの商品知識や飲食業界での経験がある
・土日は仕事だが、平日に休みを取れることが多い
・自宅で長く洋食店を営んできた
・現在は洋食店は閉め、店頭で弁当と惣菜の持ち帰り販売をしている
・販売場となる建物の所有者
・本業を続けながら、副業でワイン販売を始めたい
・資金は二人で出す予定
・商品選定や仕入れはリエさん、Webや事務はアキさんが中心
・販売場は、アキさんの親が所有する元洋食店の客席スペースを使う予定
「ここを使えばいい」と思っていたけれど
第5話では、アキさんとリエさんは、お父さんが以前洋食店として使っていたスペースを、ワイン通販の拠点として使うことを考えました。
元客席だった場所を片づければ、ワインの保管場所や梱包・発送のためのスペースも確保できそうです。
ところが、そこでお父さんから思いがけない提案がありました。
「せっかくここにワインを置くんだったら、俺の店でも売ってやろうか?」
今も弁当や惣菜を買いに来る近所のお客さんがいます。洋食店時代からの常連さんは、洋風オードブルを頼むこともあります。
ハンバーグや洋風総菜を買って帰る人なら、ワインも一緒に買ってくれるかもしれません。
アキさんとリエさんにも、悪くないアイデアに思えました。
「父の店で売る」って、どういうこと?
後日、二人は行政書士にその話をしました。
🍷行政書士それは、お父さまがお二人の会社からワインを仕入れて、ご自分の商品として販売するということですか?



いえ、そこまで考えていませんでした。
すぐ横に会社のワインがあるから、弁当や惣菜のお客さんで欲しい人がいたら、父が売ってくれるくらいのつもりで……。



あの店のお惣菜を買いに来る人なら、ワインも一緒に買ってくれるかもしれないよねって話になったんです。
二人にとっては、ほんの数メートル先に置いてあるワインを、お父さんが代わりに売ってくれるだけ。
そんな感覚でした。



そういうことであれば、お父さまの弁当・惣菜販売とは分けて考える必要がありますね。
ワインは会社の商品ですから、代金もお父さまの事業の売上とは区分して、会社の売上として会計・管理することになります。



父の店がワインを売るんじゃなくて、父が会社の販売を手伝う、ということですね。



そういう整理ですね。
ただ、そうすると今度は、別の問題が出てきます。
会社が売るなら、「通販だけ」ではなくなる?



弁当やお惣菜を買いに来たお客さまが、その場でワインを選んで購入するのであれば、会社が店頭でもワインを販売することになります。



あ……通販だけじゃなくなるんですね。
二人が当初考えていたのは、インターネットで注文を受け、ワインを発送する通販専門のショップでした。
そのため、取得する酒販免許も通信販売酒類小売業免許を想定していました。
通信販売酒類小売業免許は、通信手段によって広い地域の消費者などから注文を受けて酒類を販売するための免許です。
ところが、お父さんの提案を取り入れると、販売方法が一つ増えます。
販売場でお客さんから注文を受け、その場で酒類を販売するのであれば、一般酒類小売業免許を考えることになります。
つまり、
「ネットで注文を受けて発送する」
という当初の計画に、
「店頭に来たお客さんにも販売する」
という販売方法が加わったのです。
そこまでして、一般小売も必要?
ここで、アキさんが少し考え込みました。



一般酒類小売業免許も追加するとなると、申請費用も増えるんですか?



お弁当やお惣菜を買いに来る人が、どれくらいワインまで買ってくれるか……。そこまでして免許を増やす必要あるかな?



一般酒類小売業免許と通信販売酒類小売業免許を、同じ販売場で同時に申請するのであれば、税務署に納める登録免許税は変わりません。
酒類小売業免許の登録免許税は3万円です。



じゃあ、一般小売も一緒に申請したからといって、税務署に払うお金が増えるわけではないんですね。



そうですね。
ただし、行政書士に申請を依頼する場合は、一般小売と通信販売の両方を申請すると、報酬が追加になることが一般的です。



ただ、一般酒類小売業免許があれば、お父さまのお客さまに販売するだけではなく、将来この場所で週末だけワインを販売したり、近所の飲食店に店内提供用のワインを販売したりすることもできます。
飲食店が店内で提供するためのお酒を販売するのは、酒販免許上は卸売ではなく小売です。



それなら、当面のコストだけでなく、この先の使い方も含めて決めた方がいいね。
最初は、インターネット通販だけを考えていた二人。
けれど、実際に使える場所があり、そこには今も近所のお客さんがやって来ます。
将来、週末だけワインショップを開く。
近隣の飲食店から注文を受ける。
そんな展開も、少しずつ現実味を帯びてきました。


では、父の弁当屋の商品として売るなら?



参考までに教えてほしいのですが、もしアキのお父さんが、弁当屋の商品としてワインを売る場合はどうなるんですか?



その場合は、お父さま自身が酒類を小売することになりますから、お父さま側にも酒類小売業免許が必要になります。
それに、会社がお父さまへ再販売用のワインを販売することになるので、会社側では卸売業免許の問題も出てきます。



それは、ちょっと大げさですね。
父にワイン屋を始めてもらいたいわけじゃないので(笑)



やっぱり、会社の商品を、会社の売上として売る方がよさそうだね。
お父さんの「売ってやろうか」という一言。
誰の商品を、誰が、誰の売上として販売するのかによって、必要となる免許まで変わってきます。
二人は、お父さん自身の事業としてワインを販売するのではなく、会社の商品を会社の売上として販売する方向で考えることにしました。
同じ建物に、父の店と会社のワインショップ
ただし、一般酒類小売業免許も考えるとなると、もう一つ整理しておきたいことがあります。
お父さんは今も同じ建物で、弁当や惣菜を作って販売しています。
以前の洋食店の入口から入ると弁当や惣菜が並び、お客さんは商品を選んで、昔から使っているレジで会計します。
厨房も引き続きお父さんが使っています。
一方、アキさんたちが会社で使おうとしているのは、物置になっていた元客席部分です。
そこにワイン棚やセラーを置き、梱包・発送の作業もする予定です。



同じ建物の中で、お父さまの事業と会社の酒類販売を行うのであれば、二つの営業が混ざってしまわないように考える必要があります。
場所の区分だけではありません。
- ワインの在庫は会社のものとして管理する。
- ワインの売上も会社の売上として区分する。
- どの部分を会社の販売場として使うのか。
第5話で考えた店の使い方を、今度は酒類の販売場という視点から見直す必要がありそうです。
「通販の拠点」から、「小さなワインショップ」へ
最初に二人が考えていたのは、元客席スペースをワイン通販の拠点にすることでした。
ワインを保管する
注文が入ったら梱包する
そして発送する
ところが、お父さんの一言から、少し違う姿が見えてきました。
- ネットで注文を受けるだけではなく、店頭に来たお客さんにもワインを販売する。
- 将来は週末だけ店を開くこともできるかもしれない。
- 近所の飲食店への販売につながることもあるかもしれない。
「ワイン通販を始めたい」
というところから始まった計画が、少しずつ二人らしいワインショップの形になってきました。
ただ、販売方法が見えてくると、次に考えなければならないのは、その中身です。
- どんなワインを、どこから、どれくらい仕入れるのか。
- 最初にどれくらいの在庫を持つのか。
- 設備や仕入れ、開業後の運転資金として、いくら必要なのか。
会社を設立するための資本金を決めるためにも、そろそろ事業を数字で考える必要があります。
次回は、二人のワインショップの仕入れ・在庫・必要資金を具体的に考えていきます。


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