〈Case15-④〉登場人物と二人の計画
・46歳、メーカー勤務(事務職)
・事務やWeb作業が得意
・実家は元洋食店で、現在は父が弁当・惣菜の販売を続けている
・かつての客席スペースは、現在ほぼ物置になっている
・土日休み
・46歳、中学時代からのアキさんの友人
・飲食店勤務
・ソムリエ資格あり
・ワインの商品知識や飲食業界での経験がある
・土日は仕事だが、平日に休みを取れることが多い
・自宅で長く洋食店を営んできた
・現在は洋食店は閉め、店頭で弁当と惣菜の持ち帰り販売をしている
・販売場となる建物の所有者
・本業を続けながら、副業でワインのネット販売を始めたい
・資金は二人で出す予定
・商品選定や仕入れはリエさん、Webや事務はアキさんが中心
・販売場は、アキさんの親が所有する元洋食店の客席スペースを使う予定
第3話では、アキさんとリエさんが二人で会社をつくり、アキさんのお父さんにも少し出資してもらう案が出てきました。
例えば、アキさん45%、リエさん45%、お父さん10%。
二人が対等に事業に関わりながら、長く自分で商売をしてきたお父さんにも加わってもらう形です。
ただし、出資割合を決めただけでは会社はできません。
株式会社にするのか、合同会社にするのか。
誰が会社を代表するのか。
三人は、それぞれどのような立場で会社に関わるのか。
そして、アキさんとリエさんにはもう一つ確認しておかなければならないことがありました。
「副業OK」なら、会社の役員になっても大丈夫?
🍷行政書士会社の形を決める前に、一つ確認しておきましょう。
お二人とも、勤務先では副業が認められているんですよね?



はい。会社でも副業している人はいます。



私の勤務先も副業は禁止されていません。
二人とも副業は禁止されていませんが、会社を設立して経営に関わる場合の扱いまでは、まだ確認していませんでした。
ただ、「副業が認められている」ことと、自分で会社を設立し、その会社の経営に関わることが、勤務先でまったく同じように扱われるとは限りません。



就業規則をもう一度確認してみてくださいね。副業について届出や許可が必要になっていないか。
それから、ほかの会社の役員になる場合について、別の規定が置かれていないかも見ておきましょう。
特にリエさんは、今のお仕事もワインと関係があります。
勤務先と同じ仕入先を使うつもりなら、そのことも伝えておいた方がいいかもしれませんね。
二人は、それぞれ勤務先の就業規則と社内手続を確認することにしました。
数日後。アキさんは必要な届出をすれば問題ないことを確認。
リエさんも、会社設立と役員就任、仕入先のことを勤務先に確認し、手続を済ませました。
これで、ようやく会社の形を具体的に考えられそうです。
株式会社か、合同会社か
前回の相談で、二人は株式会社と合同会社の違いについて説明を受けていました。
株式会社は設立登記の登録免許税が最低15万円で、設立時の定款について公証人の認証も必要です。
一方、合同会社の登録免許税は最低6万円で、定款の公証人による認証は必要ありません。
設立にかかる費用だけを見れば、合同会社の方が小さく始めやすいといえます。



私たちは最初から大きな会社にするわけじゃないし、できるだけ開業資金はワインの仕入れや設備に使いたいよね。



私も合同会社でいいと思う。
二人とも出資して、二人とも経営に関わるという形にも合っていそうだし。
もちろん、設立費用だけで会社の形を決めるものではありません。
- 将来、外部から出資を受けたいのか。
- 会社をどのくらい大きくしたいのか。
- 誰が経営に参加し、どのように意思決定するのか。
そうしたことも考える必要があります。
二人は話し合った結果、今回は合同会社として始める方向で進めることにしました。
三人で出資するなら、会社での役割はどうする?
会社の形が決まると、次は三人の役割です。
アキさんとリエさんは、それぞれ同じ金額を出資する。
お父さんにも、その半分より少ない金額を出資してもらう。
割合にすれば、
アキさん 45%
リエさん 45%
お父さん 10%
というイメージです。
ただし、合同会社では、単純に「出資割合=会社での発言力」ではありません。
誰が業務を執行するのか、誰が会社を代表するのか、どのように意思決定するのか。
定款で決める内容も含め、三人の役割を整理する必要があります。



お父さまにも10%出資してもらうとして、お父さまには会社の経営にも日常的に関わってもらう予定ですか?



いや、基本的には私たち二人でやっていくつもりです。
父には父の弁当・惣菜の仕事がありますし。



でも、何かあったときには相談したいです。
合同会社では、出資して会社に加わる人を「社員」と呼びます。
お父さんにも出資してもらうのであれば、お父さんも会社の社員になります。
ただし、三人が同じように日常の業務を担当しなければならない、ということではありません。



お父さまにも社員として加わってもらいつつ、ワイン通販の日常的な業務はお二人が中心になって行うのですね。
その場合は、誰が会社の業務を執行するのか、お父さまにはどのような立場で関わってもらうのかをきちんと設計して、定款に含めておきましょう。
お父さんにも出資してもらい、会社の一員として加わってもらう。
一方、ワインの商品選定や仕入れ、ECサイトの運営、受注管理など、日常的な業務はアキさんとリエさんが中心になって行う。
そしてお父さんには、長く商売をしてきた経験を生かして、必要なときに二人が相談できる存在になってもらう。
「誰がいくら出すか」だけではなく、「誰が何をするのか」。
三人の会社の形が、少しずつ見えてきました。
では、誰が会社を代表する?
次に二人が考えたのは、会社の代表です。



これはアキでいいんじゃない?
会社の場所もアキの実家にするんだし。



え、私が代表になるのはいいんだけど……
代表者って、何か特別な責任がついて回ったりするの?
会社の「代表」と聞くと、アキさんは少し身構えました。



合同会社の代表社員は、会社を代表して契約などを行う立場になります。
ただ、『代表社員だから会社の債務をすべて個人で負担する』という意味ではありません。今回のような合同会社の社員は、原則として出資額を限度とする有限責任です。
「ただし、代表社員には会社を代表する権限がありますから、単に名前だけ代表にしておけばいい、というものでもありません。
誰が契約をするのか、誰が銀行や取引先との手続きをするのかなど、実際の運営も考えて決めた方がいいです。



責任が全部私一人に来る、ということではないけど、会社の窓口になる立場ではあるってことですね。



そう考えると分かりやすいと思います。
アキさんは事務やECサイト、受注管理を担当する予定です。
一方、リエさんはワインの商品選定や仕入れ、商品情報作成やSNSを中心に担当する予定です。
二人は、日常の経営にはともに関わりながら、会社の代表はアキさんとする方向で考えることにしました。
ただ、代表者を決めたからといって、アキさんだけの会社になるわけではありません。
- どのような事項を二人で決めるのか。
- 仕入れについてリエさんにどこまで任せるのか。
- 一定額以上の支出は二人で相談するのか。
そうした会社としてのルールも、実際に事業を始めるまでに考えておくことになりました。
資本金はいくらにする?
会社をつくるとなると、もう一つ決めなければならないのが資本金です。



45%、45%、10%という割合は考えたけど、そもそも全部でいくら出すかは決めてなかったね。



ワインを仕入れるお金もいるし、棚とか梱包資材とか、いろいろ必要になるよね。
資本金は、単に会社を設立するためだけのお金ではありません。
会社を始めれば、ワインの仕入れ、保管設備、ECサイト、梱包資材など、営業開始前からさまざまな支出が発生します。
二人は、必要な開業資金を一度洗い出したうえで、資本金を決めることにしました。
ここでは、「いくらであれば酒販免許が取れるか」という発想で金額を決めません。
この会社が実際にワインを仕入れ、販売を始めるまでに、いくら必要なのか。
そこから考えていくことにします。
会社の「目的」には何を書く?
会社を設立するには、会社がどのような事業を行うのかも決めなければなりません。
二人がまず考えているのは、インターネットを利用したワインの販売です。
ただ、将来はワイン会などのイベント開催や、それに伴うワイン関連の情報発信もしてみたい。
リエさんからは、いつか自分たちで輸入したワインも扱ってみたい、という話まで出ました。



定款には、設立時にはまだ行わない事業でも、将来行う可能性があるものを記載できます。
ワインの輸入やイベント開催も、今の段階で事業目的に入れておくことはできますよ。
ただし、実際に酒類を販売するときには、販売先や販売方法に応じた酒販免許が別途必要になります。
この会社で、何をしたいのか。
二人は改めて、自分たちのワインビジネスについて考えることになりました。
会社ができれば、すぐ酒販免許を申請できる?
会社の形、三人の役割、代表者、会社の目的。
さらに、これから必要となる資金も整理したうえで、資本金を決める必要があります。
それらが決まれば、定款を作成し、出資を行って、合同会社の設立登記へ進みます。
設立登記は自分たちで行うこともできますが、登記手続を専門家に依頼する場合は司法書士の業務になります。
今回は、必要な事項を整理したうえで会社を設立し、設立後の合同会社を申請者として酒販免許を申請する予定です。



じゃあ、会社をつくる前に、もう少し事業の中身を具体的にしておいた方がよさそうですね。



そうですね。まずは、実際にワインを販売する場所をもう少し具体的に考えてみましょう。
お父さまの元店舗スペースを使う予定でしたよね。



はい。父も使っていいと言っています。
でも、その建物では今も、お父さんが弁当や惣菜を作って販売しています。
- どこからどこまでを会社が使うのか。
- ワインはどこに保管するのか。
- 注文を受けたワインはどこで梱包し、発送するのか。
- 夏場の温度管理はどうするのか。
- 電気代などの費用は誰が負担するのか。
「父の店の空いているところを使えばいい」
そう考えていた場所も、実際にワイン販売の拠点として考えてみると、決めておくことがいくつもありそうです。
次回は、三人で実際の場所を見ながら、ワイン通販の「販売場」を具体的に考えていきます。


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