〈Case15-③〉登場人物と二人の計画
・46歳、メーカー勤務(事務職)
・事務やWeb作業が得意
・実家は元洋食店で、現在は父が弁当・惣菜の販売を続けている
・かつての客席スペースは、現在ほぼ物置になっている
・土日休み
・46歳、中学時代からのアキさんの友人
・飲食店勤務
・ソムリエ資格あり
・ワインの商品知識や飲食業界での経験がある
・土日は仕事だが、平日に休みを取れることが多い
・自宅で長く洋食店を営んできた
・現在は洋食店は閉め、店頭で弁当と惣菜の持ち帰り販売をしている
・販売場となる建物の所有者
・本業を続けながら、副業でワインのネット販売を始めたい
・資金は二人で出す予定
・商品選定や仕入れはリエさん、Webや事務はアキさんが中心
・販売場は、アキさんの親が所有する元洋食店の客席スペースを使う予定
第2話では、アキさん一人の個人事業として始める方法を考えてみました。
しかし、二人が希望しているのは、どちらか一人の事業をもう一人が手伝う形ではありません。
資金も出し合い、経営についても一緒に考え、二人でワインショップを育てていきたい。
そこで出てきたのが、「会社をつくる」という選択肢です。
「最初は個人、あとから法人」ではダメ?
アキさんやっぱり最初から会社をつくるのは、少し大げさな気がします。
売れるかどうかも、まだ分からないし。



まずアキの個人事業で始めて、軌道に乗ってから会社にする方が安全じゃない?



もちろん、個人事業から始めて、後から法人にすることもできます。
ただ、酒販免許については注意が必要です。
アキさん個人が取得した酒販免許を、後から設立した会社がそのまま使えるわけではありません。
酒販免許には『法人成り』の場合の取扱いがありますが、法人を事業主体とする新たな免許申請と、個人で取得した免許の取消申請が必要になります。



じゃあ、最初に私が免許を取って、しばらくして会社にしたら、酒販免許の手続がもう一度必要になるんですね。



そういうことです。
近いうちに法人化することが最初から見えているのであれば、最初から法人で始める方法も含めて比較した方が良いと思います。
副業なのに会社をつくる?
会社と聞くと、二人には急に大ごとになったように感じられました。
今のところ、二人とも本業を辞めるつもりはありません。



会社を設立すれば、設立の手続だけでなく、その後も会社として会計や税務の手続が必要になります。社会保険についても確認が必要です。
ですから、「二人でやるから法人」と単純に決めることではありません。
ただ、前回考えたように、アキさん一人の個人事業にすると、お二人が希望している『二人で経営する』形とは少し違ってきます。



それなんですよね。
アキとは二人で一緒にワインショップをやりたいんです。
アキのショップを手伝いたいわけじゃないんです。



だったら会社にする場合についても、一度ちゃんと考えてみようか?
株式会社? 合同会社?



会社をつくるのであれば、株式会社と合同会社が主な候補になると思います。
まずは費用面を確認して見てみましょうか?



はい、それ大事です(笑)。
売上が立つかどうかもまだ分からないので。
株式会社と合同会社では、設立時に必要となる費用に違いがあります。
設立登記の登録免許税は、株式会社では最低15万円、合同会社では最低6万円。
また、株式会社では設立時の定款について公証人の認証を受ける必要がありますが、合同会社では必要ありません。
株式会社の定款認証には手数料がかかるため、設立時の費用だけを比べれば、合同会社の方が小さく始めやすいといえます。



9万円違って、株式会社には定款認証の費用もかかるんですね。
副業で始める私たちには結構大きいかも。



そうですね。ただ、違うのは設立費用だけではありません。
株式会社では、出資者である株主と、会社の経営を担う取締役という役割が分かれています。株主総会が必要で、会社の規模や機関設計によっては取締役会も設けます。
一方、合同会社では、出資者を「社員」と呼び、原則として社員自身が会社の経営を行います。ただし、定款で業務を行う社員を限定することもできます。ここでいう「社員」は、従業員という意味ではありません。



私たちは二人でお金を出しあって、二人とも経営に関わりたいので、合同会社も合いそうですね。



そうですね。
設立費用を抑えたいことも含めて、有力な選択肢だと思います。
ただ、誰が会社を代表するのか、どのように意思決定するのか、将来ほかの人から出資を受ける可能性があるのかなども考慮したうえで、会社の形を選んだ方がいいでしょう。
二人は、まだ株式会社か合同会社かを決めることはせず、まずは自分たちがどんな会社をつくりたいのかを考えてみることにしました。
「二人で半分ずつ」でいい?



どっちの会社にするにしても、私とリエで同じだけお金を出すのが一番分かりやすいよね。



うん。
二人のワインショップなんだから半分ずつでいいんじゃない?
二人にとって、「50:50」はごく自然な答えでした。
ただ、二人で会社を経営する場合、「同じだけ出せば公平」で終わらせず、意見が分かれたときにどうするかまで考えておく必要があります。



株式会社で二人が50:50の議決権を持つ場合、二人の意見が完全に分かれてしまうと、株主総会で決められない事項が出てくる可能性があります。
合同会社は株式会社とは意思決定の仕組みが異なり、定款で決められる部分もありますが、やはり二人の意見が分かれたときのルールは考えておいた方がいいでしょう。



私たち、中学からの友達ですよ(笑)



だからこそ、仲がいい今のうちに決めておくんです。
仕入れにいくら使うのか、利益をどう使うのか、事業を拡大するのか。
実際に商売を始めれば、意見が違う場面も出てくるかもしれません。
二人は、「半分ずつなら平等」としか考えていなかったことに気づきました。
お父さんに話してみると……
その日の夜、アキさんは父に会社の話をしました。



リエと会社にすることも考えてるんだけど、二人で半分ずつ出し合えばいいっていうほど単純じゃないみたい。
意見が割れたときのことも考えておいた方がいいんだって。



そりゃそうだろ。
友達同士だからって、お金のことを曖昧にするなって言っただろ。



だからって、51:49みたいにどっちかを多くするのも、私たちにはちょっと違う気がするんだよね。
少し考えて、お父さんが言いました。



だったら、俺も少し入ろうか?



お父さんが?



リエちゃんと二人でやるんだろ。
うちの店も使うんだし、俺も応援するつもりだから、少しくらいなら金を出してやってもいいぞ。
後日、アキさんはその話をリエさんに伝えました。
二人が同じ割合で出資し、そこにお父さんにも少し加わってもらう。
例えば、アキさん45%、リエさん45%、お父さん10%。
それなら、アキさんとリエさんが対等に事業を始めたいという二人の考えも変わりません。
ただ、三人目の出資者が加われば、それで問題がすべて解決するのでしょうか。
第三者を入れれば解決?



お父さまに出資してもらうことは、一つの方法ですね。
45%ずつなら、お二人が対等に出資する形も保てます。
ただ、お父さまの10%を、単に『50:50を避けるための10%』と考えない方がいいでしょう。
会社の形や意思決定のルールにもよりますが、お二人の意見が分かれたときには、お父さまの意見が重要になる場面も出てきます。
10%だから、会社への影響も小さいとは限りません。
それなら、お父さまには単に出資してもらうのか、それとも会社の経営にも関わってもらうのか。そこまで考えておいた方がいいと思います。



父はずっと自分で店をやってきたから、商売の経験は私たちよりずっとあります。



だったら、ただ10%持ってもらうだけじゃなくて、相談できる立場で入ってもらうのもいいかもしれないね。
二人にとって、お父さんは、単に「50:50を避けるための10%」ではありません。
長く洋食店を営み、今も弁当・惣菜の販売を続けてきた商売の経験があり、これからワインを販売する場所の所有者でもあります。
アキさんとリエさんが対等に事業を進めながら、お父さんにはどこまで会社に関わってもらうのか。
三人の役割も含めて、改めて考えることになりました。
場所を貸してもらうことと、出資は別の話
もう一つ、整理しておくことがあります。
お父さんは、以前洋食店として使っていたスペースを、ワイン通販の販売場として使っていいと言ってくれています。



父は家賃もいらないと言っています。
それも父の出資みたいに考えられますか?



今回は、出資とは別に考えましょう。
お父さまが会社に出す20万円は、会社の資本金になります。
一方、建物の一部を家賃なしで使わせてもらうことは、会社にとってありがたい支援ですが、今回の資本金には含めません。
建物の所有権はお父さまのままで、会社がその一部を借りて事業を行う、という関係になります。



この場合、家族の間でも、契約書を作った方がいいのでしょうか?



そうですね。
家賃を取らずに貸すことを『使用貸借』といいます。
どのスペースを、何のために、いつから使わせてもらうのか。
家賃は無料でも、電気代などの費用は誰が負担するのか。
そうした条件を、お父さまと会社の間で決めて、書面にしておくとよいでしょう。
酒販免許の申請でも、会社がその場所を販売場として使用できることを確認します。



家賃が無料でも、申請上は問題ないんですね?



家賃を支払うこと自体が、酒販免許の条件になっているわけではありません。無償で借りるのであれば、その事実をそのまま説明して構いません。
ただし、今回の場合は、お父さまのお弁当屋と、会社が営むワインショップが同じ建物に入ります。
そのため、どこからどこまでが会社の販売場なのか、販売や代金の管理がお父さまの事業ときちんと分かれているか、といった点も確認していく必要があります。
家賃がかからないことは、開業資金を抑えるうえで大きな利点です。
ただし、親子の間であっても、個人のお父さんと新しく設立する会社は別の存在です。
会社が使う場所や費用の負担を明確にしておくことは、酒販免許の申請だけでなく、開業後の事業運営にもつながります。
二人で会社をつくる。
そう決めても、会社の形が自動的に決まるわけではありません。
- 株式会社にするのか、合同会社にするのか。
- 誰がいくら出資するのか。
- 誰が会社を代表し、経営に関わるのか。
- 意見が分かれたときには、どうするのか。
- お父さんの建物を会社がどのような形で使うのか。
アキさんとリエさんは、「二人で会社をつくる」という選択肢を、少しずつ具体的な事業の形にしていくことになりました。
次回は、お父さんにも加わってもらい、三人がどのような会社をつくるのかをもう少し具体的に考えていきます。


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