〈Case15-⑤〉登場人物と二人の計画
・46歳、メーカー勤務(事務職)
・事務やWeb作業が得意
・実家は元洋食店で、現在は父が弁当・惣菜の販売を続けている
・かつての客席スペースは、現在ほぼ物置になっている
・土日休み
・46歳、中学時代からのアキさんの友人
・飲食店勤務
・ソムリエ資格あり
・ワインの商品知識や飲食業界での経験がある
・土日は仕事だが、平日に休みを取れることが多い
・自宅で長く洋食店を営んできた
・現在は洋食店は閉め、店頭で弁当と惣菜の持ち帰り販売をしている
・販売場となる建物の所有者
・本業を続けながら、副業でワインのネット販売を始めたい
・資金は二人で出す予定
・商品選定や仕入れはリエさん、Webや事務はアキさんが中心
・販売場は、アキさんの親が所有する元洋食店の客席スペースを使う予定
「ここを使えばいい」と思っていたけれど
第4話では、アキさんとリエさんが、勤務先の副業に関するルールを確認し、会社の形や三人の役割について話し合いました。
二人で出資し、二人で経営するため、合同会社をつくる方向で話を進めています。
アキさんのお父さんにも少し出資してもらい、アキさんとリエさんが日常の業務を中心になって行う。
会社の形も、少しずつ見えてきました。
ただし、会社を設立する前に、もう少し具体的にしておきたいことがあります。
その一つが、ワインを販売する場所です。
二人が販売場として考えているのは、アキさんのお父さんが以前、小さな洋食店を営んでいたスペース。
現在も奥の厨房で弁当や惣菜を作っていますが、以前の客席部分は、ほとんど物置になっています。
ある日、アキさんとリエさんは、お父さんと一緒にその場所を見ながら、ワイン通販を始めたあとの使い方を考えてみることにしました。
ワインは、どこに置く?
アキさんこの荷物を片づければ、結構広いよね。ここにワインを置けるんじゃない?



置けると思う。でも夏場はこのままじゃ厳しいかな。
かなり暑くなるでしょ。
あと、できたらセラーも置きたいね。
ワインを通販で販売するなら、商品を保管する場所が必要です。
棚を置くだけではなく、夏場の温度管理も考えなければなりません。



エアコンだったら使ってくれていいよ。



ありがとう。
でも一日中つけるから電気代が相当かさむね。
家賃はともかく、光熱費は負担割合を決めておかないとね。



細かいことは追々でいいよ。



いや、こういうことは最初に決めておかないと。
お金のことを曖昧にしないって、お父さんが言ってたことじゃない。
今度はアキさんが、それをお父さんに返す番になりました。
家賃がかからなくても、場所の費用はゼロではない
お父さんは、空いている場所を使うだけなのだから、家賃はいらないと言っています。
それでも、会社がその場所を使って事業をするなら、考えておくことはいくつもあります。
- ワインを保管するための空調。
- 商品を置く棚や保管設備。
- 梱包するための作業台。
- 段ボールや緩衝材などの資材を置く場所。
- パソコンやプリンターを使うための電気や通信環境。
とくに、お父さんの弁当・惣菜販売と同じ建物を使う以上、どの部分を会社が使い、どの部分をお父さんが使うのかも整理しておいた方がよさそうです。
会社専用で使う設備なら、その費用は分かりやすいでしょう。
一方、電気や通信設備など、建物全体で使うものはどうするのか。
家賃がかからないからといって、販売場にかかる費用が何もないわけではありません。
二人は、必要になりそうな設備や費用も書き出しておくことにしました。
お父さんの店と、会社の販売場
もう一つ整理しておきたいのが、会社がその場所をどのような形で使うのかです。
建物の所有者は、お父さんです。
そして、お父さん自身も同じ建物で弁当・惣菜の販売を続けています。
お父さんが会社に出資することと、会社がその建物を販売場として使うことは、同じ話ではありません。
- 家賃を払って借りるのか。
- 無償で使わせてもらうのか。
- どの範囲を会社が使うのか。
会社がその場所を使用できる関係を整理し、実際の使い方も分かるようにしておく必要があります。



じゃあ、お父さんの弁当やお惣菜の方で使う場所と、私たちが使う場所を分けて考えた方がいいね。



俺は厨房と、弁当や惣菜の販売スペースさえあればいいよ。
こっちはほとんど使ってないから。
以前は、お客さんが食事をしていたスペース。
今は入口近くに弁当や惣菜を並べ、以前から使っていたレジで会計するだけになり、元客席の大部分は物置になっています。
少しずつ、ワイン通販の店らしくなってきた



この壁側にワインを置いて、奥の方を梱包する場所にしたらどう?



いいね。ワインは種類ごとに分けて置きたいな。
セラーは奥の方がいいかな。入荷したものと、発送するものもごちゃごちゃにならないようにしたいし。



プリンターはこの辺かな。送り状とか納品書も出すでしょ。
何もなかったところに、少しずつ仕事をする場所が見えてきます。
ワインが届く。
商品を確認して保管する。
注文が入る。
商品を取り出して梱包する。
そして発送する。
「ここでワインを売る」と考えるだけでは見えなかったことも、実際の仕事の流れを想像すると具体的になってきました。
元客席だった場所には、弁当や惣菜を買いに来たお客さんからも見える壁際にワインの棚を置くことになりそうです。リエさんが、その辺りを見ながら言いました。



ここにワインが並んだら、結構いい感じになりそうですね。
お父さんも、入口の方からその場所を眺めました。



そうだな。
弁当や惣菜を買いに来た客からも見えるな。
せっかくここにワイン置くんだったら、俺の店でも売ってやろうか?



え、いいの?



レジの近くにも何本か置いとけばいいよ。
で、欲しいって人がいたら、弁当や惣菜と一緒に売ってやるよ。



それ、いいですね!
実際に手に取って見てもらえるし、ネット以外の売り上げも期待できそう。



お弁当やお惣菜を買いに来た人がワインも買ってくれたら、それもいい宣伝になるかもね♪
三人は、すっかり盛り上がりました。
「父の店でも売ることになりました」
後日、アキさんとリエさんは、販売場について話し合った内容を行政書士に伝えました。
使う場所はだいたい決まったこと。
ワインの保管には空調が必要になりそうなこと。
お父さんの弁当・惣菜販売で使う部分とは、できるだけ分けて使うつもりであること。
そして、アキさんが付け加えました。



それと、父のお店でもワインを売ってもらおうかって話になったんです。



お父さまのお店でも、ですか?



はい。お弁当やお惣菜を買いに来るお客さんもいるので、何本か置いて売ってもらえばいいんじゃないかって。
二人にとっては、販売の機会が増える、ちょっとしたアイデアのつもりでした。
ところが、行政書士は少し違うところを確認しました。



なるほど。
では、その『お父さまのお店で売る』というのが、どういう販売なのかを一度整理しましょう。



どういう販売……ですか?
「父の店で売る」。
何気ない一言ですが、考えてみると、いくつかの形がありそうです。
- 誰がワインを仕入れるのか。
- 誰の商品として保管するのか。
- 誰がお客さんに販売するのか。
- そして、どこを販売場とするのか。
それによって、必要となる酒販免許の考え方も変わってきます。
次回は、お父さんの「俺の店でも売ってやろうか?」という一言から、ネット通販だけのつもりだった二人の「売り方」をもう一度考えてみます。


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