【酒販店の角打ち】店内でお酒を飲んでもらうと「飲食店営業」になる?―昔ながらの角打ちから考える境界線

昭和の酒屋併設型角打ち
目次

はじめに:酒屋で買ったお酒を、その場で一杯

「角打ち」と聞くと、どのようなお店を思い浮かべるでしょうか。

最近では、ワインショップに試飲カウンターが併設されていたり、日本酒をグラスで少しずつ楽しめたりする、スタイリッシュな「角打ち」も増えています。

しかし、角打ちの原点は、もっと素朴なものです。

酒屋で買ったお酒を持ち帰らず、その店先や店の一角で一杯飲んで帰る。

冷蔵庫から瓶ビールやカップ酒を選び、おつまみが欲しければ、店で売っている袋菓子や缶詰を買う。

いわば、「酒を飲みに店へ行く」というより、「酒屋で買った酒を、その場で飲んで帰る」というスタイルです。

角打ち文化が特に根付いた地域の一つとして知られる北九州では、製鉄業の発展とともに、仕事を終えた労働者が酒屋の店先で酒を飲む文化が広がったとされています。

こうして考えると、昔ながらの角打ちは、現在私たちがイメージする「飲食店」とは少し違って見えます。

では、酒販店が店内でお酒を飲めるようにしたら、どこから「飲食店営業」になるのでしょうか。

今回は、昔ながらの角打ちを出発点に、酒販店と飲食店の境界を考えてみます。

「角打ち」という名前だけでは、営業許可の要否は決まらない

最初に押さえておきたいのは、「角打ち」という法律上の営業区分があるわけではないということです。

同じ「角打ち」と呼ばれていても、その営業形態はさまざまです。

昔ながらの酒屋のように、販売した瓶ビールやカップ酒を店の一角で飲めるだけのところもあります。

一方、現在では、

  • 客が購入した缶ワインなどを、その場で飲めるようにする
  • セルフ式のワインサーバーで、有料試飲ができるようにする
  • 店員がワインをグラスに注いで提供する
  • 専用のカウンターや座席を設ける
  • チーズや簡単なおつまみを提供する

といった、さまざまなスタイルがあります。

こうした形も広い意味で「角打ち」と呼ばれることがありますが、食品衛生法上、すべてが同じ扱いになるとは限りません。

大切なのは「角打ちと名乗っているか」ではなく、その店が実際に何をしているのかです。

そもそも「飲食店営業」とは?

これまでの記事では、飲食店が持ち帰り用のお酒を販売する場合について見てきました。この場合には、店内で提供する酒とは別に、酒類販売業免許が必要になります。

では、反対に、すでに酒販免許を持って営業している酒販店が、店内でお酒を飲めるようにする場合はどうでしょうか。

この場合、まず考えたいのは、その営業形態が食品衛生法上の「飲食店営業」に当たるのか、という点です。

食品衛生法では、公衆衛生に与える影響が著しい営業について、営業許可制度を設けています。

その許可業種の一つが「飲食店営業」です。

食品衛生法施行令では、飲食店営業を、「食品を調理し、又は設備を設けて客に飲食させる営業」と定義しています。

ここで注意したいのが、「食品を調理し」の後に、「又は設備を設けて客に飲食させる営業」と続いていることです。

つまり、「料理をしなければ飲食店営業にはならない」とは限りません。

お酒しか扱わない場合であっても、その営業形態によっては飲食店営業に該当することがあります。

酒屋の店先で飲むだけでも「飲食店営業」?

ここで、昔ながらの角打ちに戻ってみましょう。

酒屋で瓶ビールやカップ酒を買った。

家まで持ち帰らず、その場で飲む。


飲み終わったら、ごみを捨てて帰る。

これだけでも「設備を設けて客に飲食させる営業」になるのでしょうか。

この点について参考になるのが、営業許可制度の見直しに際して、厚生労働省が各自治体からの質問に回答した資料です。

「設備を設けて客に飲食させる営業」とは具体的にどのような営業なのか、という自治体からの質問に対して、厚生労働省は、

「調理行為の発生しない、単なる場所の提供は飲食店営業の許可を要しません」

と回答しています。

したがって、「店内で客が飲食している」=「必ず飲食店営業許可が必要」という単純な関係ではありません

酒販店で商品として購入した酒を客がその場で飲んでいるだけであれば、「単なる場所の提供」にとどまる場合も考えられます。

ただし、どこまでが「単なる場所の提供」なのかについて、全国一律の細かな線引きが示されているわけではありません。

栓を抜いたら?グラスを貸したら?カウンターを置いたら?

では、少しずつ営業形態を変えてみましょう。

酒屋で買った缶ビールや缶ワインを、客が自分で開けてその場で飲む。

ここから、

  • 店主が瓶の栓を抜いてあげたら?
  • コップやグラスを用意したら?
  • セルフ式のワインサーバーを設置したら?
  • 店員がグラスにワインを注いで提供したら?
  • 飲食用のカウンターや座席を設けたら?
  • 袋菓子や缶詰を商品として売るのではなく、皿に盛って提供したら?

と、営業形態を変えていくことができます。

こうして並べてみると、同じ「角打ち」と呼ばれる営業でも、店側がどこまで設備やサービスを用意するのかによって、その姿は大きく異なることが分かります。

しかし、

  • 「栓を抜いたら飲食店営業」
  • 「グラスを用意したら飲食店営業」
  • 「カウンターを設置したら飲食店営業」

といった、個々の行為だけで許可の要否を判断する全国一律の基準が示されているわけではありません。

実際にどのような設備を設け、どのような方法で酒や食品を提供するのかという営業形態を具体的に見て判断する必要があります。

なお、酒販免許の説明では、店内で開栓して提供する酒と、未開栓のまま持ち帰り用として販売する酒を対比して説明することがあります。

しかし、「開栓したかどうか」自体が、食品衛生法上の飲食店営業を判断する基準というわけではありません。

酒税法と食品衛生法では、それぞれ異なる観点から営業を考える必要があります。

セルフ式なら「単なる場所の提供」になる?

最近のワインショップでは、セルフ式のワインサーバーを設置し、客自身がワインをグラスに注いで有料試飲できる店舗もあります。

では、店員が注がず、客が自分で操作するのであれば「単なる場所の提供」になるのでしょうか。

これについても、「セルフ式なら飲食店営業には該当しない」という全国一律の基準は確認できません。

店側が飲用のための専用設備を設置し、グラスなどを用意して有料で酒を提供する場合には、昔ながらの酒屋で「買った商品をその場で飲む」形とは営業の仕組みが異なります。

実際、有料試飲を行うために飲食店営業許可を取得しているワイナリーなどもあります。

したがって、「セルフだから」「店員が注がないから」といった一つの要素だけで判断せず、実際の提供方法をもとに管轄保健所へ確認する必要があります。

飲食店営業に該当する場合、どのような設備が必要?

飲食店営業に該当する場合には、食品衛生法に基づく施設基準を満たす必要があります。

食品衛生法では、厚生労働省令で施設基準の基本となる基準を示し、その基準を参酌して、都道府県などが条例で営業施設の基準を定めています。

また、飲食店営業のうち、既製品を開封して盛り付ける、半製品を加熱するといった簡易な調理のみを行う営業については、施設基準の一部を緩和できる仕組みがあります。

厚生労働省は、その具体例として、既製品のアルコール飲料などを提供する営業も挙げています。

そのため、ワインをグラスで提供することを中心とし、簡単なおつまみを提供する程度の営業であれば、「簡易な営業」として、通常の飲食店よりも一部の施設基準が緩和されると考えて良さそうです。

一方、簡易な営業であっても、従業者用の手洗い設備や、使用する器具・食器などに応じた洗浄設備が不要になるわけではありません。

また、飲食店営業を行う場合には、施設ごとに食品衛生責任者を選任する必要があります。

角打ちで予定している酒や食品の提供方法によって必要となる設備も変わります。

設備工事を予定している場合には、どのような営業を行うのかを整理したうえで、工事を始める前に管轄保健所へ相談しておくとよいでしょう。

具体的な設備や判断は、営業する地域で確認を

食品衛生法という全国共通の法律があり、国が施設基準の基本となる基準を示しています。その基準を踏まえて、都道府県などが条例で営業施設の基準を定めています。

そのため、基本的な考え方には共通する部分がありますが、実際に予定している営業内容でどのような設備が必要になるかは、営業する地域の基準を確認する必要があります。

また、「単なる場所の提供」にとどまるのか、それとも飲食店営業に該当するのか判断が難しい営業形態もあります。

そのため、「別の地域の酒屋がこの方法で角打ちをしているから、自分の店でも同じようにできる」とは限りません。

特に、セルフ式のワインサーバー、有料試飲、グラスでの提供、簡単なおつまみなどを予定している場合には、

  • どの酒を、どのような単位で提供するのか
  • 客自身が商品を開けるのか、店側が提供するのか
  • グラスや食器を使用するのか
  • カウンターや座席などを設置するのか
  • 食品をどこまで取り扱うのか

といった営業方法を具体的にしてから、管轄保健所に確認することが大切です。

まとめ:「角打ちだから」ではなく、実際に何をするのかで考える

角打ちの原点に立ち戻ると、その姿はとてもシンプルです。

酒屋で買った酒を、持ち帰らず、その場で一杯飲んで帰る。

そこから、グラスを用意したり、専用のサーバーを設置したり、店員が酒を注いだり、おつまみを提供したりと、さまざまな営業形態へ広がってきました。

現在では、そのどれもが「角打ち」と呼ばれることがあります。

しかし、食品衛生法上の扱いまで同じとは限りません。

そして、その途中に、「ここを越えたら必ず飲食店営業」という全国共通の一本の線が引かれているわけでもありません。

だからこそ、「角打ちをやりたい」という段階からもう一歩進んで、実際にどのような方法で酒や食品を提供したいのかを具体的にすることが大切です。

  • 昔ながらの酒屋の店先飲みなのか。
  • 購入した商品を飲めるスペースを設けるのか。
  • セルフ式の有料試飲を行うのか。
  • 店員がグラスで酒を提供するのか。
  • 簡単なおつまみまで提供するのか。

営業の形が見えてくれば、必要となる許可や設備についても、管轄保健所へ具体的に確認しやすくなります。

こちらの記事では、酒販店が角打ちや有料試飲を取り入れる場合に、セルフ式にするのか店員が提供するのか、おつまみも提供するのか、店内をどのように使うのかなどを、具体的な営業形態から検討しています。


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この記事を書いた人

横浜の酒類販売業免許専門の行政書士。
「桜並木行政書士オフィス」を運営。
20年以上にわたり、ワインインポーターで輸入貿易実務や販促・企画業務などを経験。現場経験と法律の両面からワインビジネスをサポートします。

■保有資格
J.S.A.ソムリエ
WSET® Level 3 Award in Wines

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