はじめに
前回の記事では、国税庁(税務署)が公表している「酒類販売業免許申請の手引」における「資本等の額」の意味と計算方法について解説しました。
では、その数字を使って、税務署では実際にどのように経営基礎要件を判定するのでしょうか。
今回は、「資本等の額」が700万円の架空の会社を例に、「ハ」と「ニ」の判定方法を具体的に見ていきます。
※ 今回解説する「ハ」「ニ」の判定は、法人の経営基礎要件に関するものです。
個人事業主や設立間もない事業者については、確認方法が異なるため、こちらの記事で解説しています。


まずは「ハ」の判定を見てみよう
酒税法第10条第10号 ハ
最終事業年度の繰越損失 > 資本等の額
➡ この場合、「ハ」に該当します。
それでは、資本等の額が700万円の会社を例に、繰越損失が変わった場合を見てみましょう。
ケース① 繰越損失699万円
| 資本等の額 | 繰越損失 | 結果 |
| 700万円 | 699万円 | ○ 資本等の額を超えていない |
➡ 「ハ」には該当しません。
ケース② 繰越損失700万円
| 資本等の額 | 繰越損失 | 結果 |
| 700万円 | 700万円 | ○ 資本等の額と同額 (=まだ超えていない) |
➡ この場合も「ハ」には該当しません。
国税庁の手引では、「超える」とされているため、資本等の額と同額であれば、この基準には該当しません。
ケース③ 繰越損失701万円
| 資本等の額 | 繰越損失 | 結果 |
| 700万円 | 701万円 | ✕ 資本等の額を超えている |
➡ 「ハ」に該当します。
資本等の額を1円でも超えると、「ハ」に該当します。
ここでポイントになるのは、
「以上」ではなく、「超える」という基準で判定されることです。
次に「ニ」の判定を見てみよう
酒税法第10条第10号 ニ
直前3事業年度すべてで
当期純損失 > 資本等の額 ×20%
➡ この場合、「ニ」に該当します。
「ニ」では、直前3事業年度の当期純損失が、それぞれの事業年度の資本等の額の20%を超えているかどうかを確認します。
ここでは便宜上、比較を分かりやすくするために、「資本等の額」を毎年700万円に固定して考えます(実際には、会社の業績などによって資本等の額は毎年変動します)。
そのため、毎年比較する基準は、
700万円 × 20%=140万円
となります。
つまり、当期純損失が140万円まではこの基準には該当せず、141万円から基準を超えることになります。
※ 国税庁の手引では「超える」とされているため、20%と同額であれば、この基準には該当しません。
ケース① 1年だけ20%を超えた場合
| 年度 | 資本等の額 | 20% | 当期純損失 | 結果 |
| 3年前 | 700万円 | 140万円 | 139万円 | ○ 基準内 |
| 2年前 | 700万円 | 140万円 | 140万円 | ○ 基準内 (20%と同額) |
| 前期 | 700万円 | 140万円 | 141万円 | ✕ 基準を超えている |
➡ 「ニ」には該当しません。
1年だけ基準を超えていても、「3期連続」ではないためです。
ケース② 2年連続で20%を超えた場合
| 年度 | 資本等の額 | 20% | 当期純損失 | 結果 |
| 3年前 | 700万円 | 140万円 | 141万円 | ✕ 基準を超えている |
| 2年前 | 700万円 | 140万円 | 150万円 | ✕ 基準を超えている |
| 前期 | 700万円 | 140万円 | 139万円 | ○ 基準内 |
➡ この場合も「ニ」には該当しません。
2年連続ではありますが、3期連続ではないためです。
ケース③ 3年連続で20%を超えた場合
| 年度 | 資本等の額 | 20% | 当期純損失 | 結果 |
| 3年前 | 700万円 | 140万円 | 141万円 | ✕ 基準を超えている |
| 2年前 | 700万円 | 140万円 | 150万円 | ✕ 基準を超えている |
| 前期 | 700万円 | 140万円 | 145万円 | ✕ 基準を超えている |
➡ 「ニ」に該当します。
3事業年度すべてで、当期純損失が資本等の額の20%を超えているためです。
「ハ」と「ニ」は別々に判定され、どちらか一方でも該当すると要件を満たしません
「ハ」は、最終事業年度の繰越損失を確認する基準です。
一方、「ニ」は、過去3事業年度の当期純損失を確認する基準です。
この2つは、それぞれ別の基準として判定されます。
そして重要なのは、「ハ」と「ニ」の両方に該当した場合だけ問題になるのではない、ということです。
「ハ」または「ニ」のどちらか一方にでも該当すると、経営の基礎が薄弱であると判断され、この経営基礎要件を満たさないことになります。
そのため、
- 「ハ」には該当しないが、「ニ」には該当する
- 「ニ」には該当しないが、「ハ」には該当する
という場合も、経営基礎要件を満たさないという判定になります。
酒販免許申請では、「ハ」と「ニ」の両方について、それぞれ基準に該当しないことを確認する必要があります。
まとめ:「ハ」「ニ」のどちらにも該当しないことが必要
酒販免許の経営基礎要件では、
- 「ハ」で、最終事業年度の繰越損失を確認する
- 「ニ」で、過去3事業年度の当期純損失を確認する
という2つの基準で判定します。
「ハ」と「ニ」は別々に判定され、どちらか一方にでも該当すると、この経営基礎要件を満たさないことになります。
したがって、経営基礎要件を満たすためには、「ハ」と「ニ」のどちらにも該当しないことが必要です。
手引きの文章だけでは分かりにくい基準ですが、具体的な数字に当てはめると、どこが判定の境界になるのかが見えやすくなります。
あわせて読みたい

酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら
酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。
酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。
当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。
\まずはお気軽にお問合せください/

