【酒販免許】「資本等の額」と「資本金等の額」はどう違う?―財務会計・法人税法との違いを整理する

財務会計、法人税法、酒税法からの考察
目次

はじめに:「資本等の額」は会計用語ではありません

前々回の記事では、酒販免許の経営基礎要件で用いられる「資本等の額」の意味や計算方法を解説しました。

前回の記事では、その数値を用いて経営基礎要件をどのように判定するのかを具体例で紹介しました。

その後、その記事を読んだ方から、「『資本等の額』って、会計や税務でいう資本金と何が違うの?」という質問をいただき、改めて調べてみることにしました。

ところが、財務会計の本を見ても、「資本等の額」という概念は出てきません。

さらに調べると、法人税法にはよく似た名前の「資本金等の額」という別の概念があることが分かりました。

名前はよく似ていますが、それぞれ目的も計算方法も異なります。

今回は、この3つの違いを整理してみます。

財務会計では「純資産」を見る

「純資産」とは、企業が所有する総資産から負債を差し引いた部分のことです。主に資本金、資本剰余金、利益剰余金などで構成されます。

貸借対照表では、「純資産」は次のような構成になっています。

純資産
├ 資本金
├ 資本剰余金
├ 利益剰余金
│ ├ 利益準備金
│ ├ 任意積立金
│ └ 繰越利益剰余金
└ 評価・換算差額等など

財務会計では、会社の財政状態を正しく表示することが目的です。

そのため、株主から払い込まれた資本だけでなく、会社が利益として積み上げた部分も含め、「純資産」として貸借対照表に表示されます。

法人税法では「資本金等の額」と「利益積立金額」を分けて考える

資本金等の額」とは、株主等から払い込まれた資本を基礎として、税法上の調整を加えた金額です。
一方、「利益積立金額」は、会社が事業活動によって積み上げた利益を税法上管理するための概念です。

法人税法では、財務会計とは少し異なる考え方を採っています。

資本金等の額
├ 株主等から払い込まれた資本
└ 税法上の調整項目

利益積立金額
└ 利益の蓄積

法人税法では、

  • 株主等から会社へ払い込まれた資本
  • 会社が事業活動によって積み上げた利益

別々の概念として管理します。

そのため、財務会計上はどちらも純資産に含まれますが、法人税法上は「資本金等の額」と「利益積立金額」に分けて取り扱われます。

ここでいう「資本金等の額」と「利益積立金額」は概念を分かりやすく示した簡略図です。

実際には、「資本金等の額」では、資本金・出資金を基礎として、組織再編や自己株式の取得などに伴う税法上の加減算が行われ、「利益積立金額」では、会計上の利益剰余金に対して、減価償却超過額や引当金の税務否認額など、税法上の加減算が行われます。

酒販免許では独自の「資本等の額」を計算する

資本等の額」とは、酒販免許の経営基礎要件を判定するために、酒税法で独自に定められた計算方法によって算出する金額です。

その「資本等の額」は、次のように計算されます。

資本等の額
├ 資本金
├ 資本剰余金
├ 利益剰余金
└ ▲ 繰越利益剰余金 (控除)

計算式で表すと、

資本金
+資本剰余金
+利益剰余金
−繰越利益剰余金
=資本等の額

となります。

では、なぜ「繰越利益剰余金」を差し引くのでしょうか。

酒税法や国税庁の手引きでは、計算方法は示されていますが、繰越利益剰余金を控除する理由までは説明されていません。

一方、財務会計上の利益剰余金には、利益準備金や任意積立金のほか、まだ株主総会などで処分が決まっていない繰越利益剰余金も含まれます。

そのため、酒販免許では、こうした未処分の利益を除外し、利益剰余金のうち、株主総会などで処分が確定した部分を反映した金額を「資本等の額」として用いているものと考えられます。

このように算定した「資本等の額」を、酒販免許の経営基礎要件の判定に用います。

3つの違いを整理すると

財務会計法人税法酒税法(酒販免許)
基本概念純資産資本金等の額・利益積立金額資本等の額
主な目的会社の財政状態を表示する税務上の資本と利益を区分して管理する酒販免許の経営基礎要件を判定する
利益剰余金純資産に含まれる利益積立金額として管理含む
(ただし繰越利益剰余金は控除)
貸借対照表にその名称で表示されるか××

3つは「何を見るか」が違う

ここまで見てくると、それぞれが見ているものの違いが分かります。

  • 財務会計
    会社全体の純資産を見る。
  • 法人税法
    株主が会社に入れた資本と、会社が事業で稼いだ利益を分けて考える。
  • 酒税法(酒販免許)
    酒販免許の経営基礎要件を判定するために、貸借対照表の項目を用いて独自の「資本等の額」を計算する。

名前はよく似ていますが、目的が異なれば、用いる数字も異なるということです。

まとめ

酒販免許で使われる「資本等の額」は、貸借対照表にそのまま載っている数字ではありません。

また、法人税法の「資本金等の額」とも異なる概念です。

今回のように、財務会計・法人税法・酒税法を並べて見てみると、それぞれが異なる目的で制度を設計していることが分かります。

酒販免許では、このような酒税法独自の「資本等の額」を用いて経営基礎要件を判定します。

そのため、「資本等の額」がどのような考え方で算定されるのかを理解しておくと、前回の記事で解説した計算方法も、より理解しやすくなるでしょう。


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この記事を書いた人

横浜の酒類販売業免許専門の行政書士。
「桜並木行政書士オフィス」を運営。
20年以上にわたり、ワインインポーターで輸入貿易実務や販促・企画業務などを経験。現場経験と法律の両面からワインビジネスをサポートします。

■保有資格
J.S.A.ソムリエ
WSET® Level 3 Award in Wines

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