酒類販売業免許では、「人的要件」「場所的要件」に加え、「経営基礎要件」も確認されます。
経営基礎要件とは、簡単にいえば、「お酒のビジネスを適切に、継続して運営できるだけの経営基盤があるか」を確認するものです。財務状況だけでなく、これまでの経歴や経営能力、事業を運営するための体制なども確認されます。
今回は、実務の現場で特に注意が必要なポイントと対策を整理して解説します。
| 確認されるポイント | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 財務状況 | 預貯金・資金計画・納税状況など | 決算書・財務内容・納税状況など |
| 経歴・経営能力 | 申請者本人の職歴・経営経験・知識など | 役員等の経歴・経営能力、法人としての事業経験など |
| 事業計画・体制 | 事業計画・運営体制 | 事業計画・組織体制など |
「資金面(財務状態)」のポイント:個人と法人の違い
まずは「資金」の話です。税務署では、事業を継続して運営できるだけの財務基盤があるかどうかを確認します。
個人の場合に確認される主なポイント
個人の場合は、法人のような決算書はありませんが、主に以下の4つのポイントを中心に審査されます。
① 資金力・財務状況
預貯金の残高証明書、開業資金の調達状況(自己資金か融資か)、他の事業収入、借入金の状況などから、総合的に「資金力」を見られます。
② 税金の滞納がないか
国税や地方税の納税状況も確認されます。
申請時点で滞納がある場合は、経営基礎要件の審査上問題となるため、事前に納税状況を確認しておく必要があります。
③ 過去の事業経歴
これまでの事業経験や経営実績、過去に廃業した経歴があるかどうかが確認されます。
④ 破産手続と復権の状況
破産手続開始の決定を受け、まだ復権を得ていない場合は、免許の要件を満たしません。過去に破産手続を受けていても、すでに復権している場合は、この欠格事由には該当しません。
法人は決算書から財務状況を確認
法人の場合は、直近の決算書をもとに財務状況が確認されます。
酒販免許申請で決算書のどこを確認するのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

財務状況に大きな問題がないか
最終事業年度の確定決算において、繰越損失が資本等の額を上回っている場合は、原則として経営基礎要件を満たさないと判断されます。分かりやすくいえば、会社の財務状態に大きな問題がないかが確認されます。
ここでいう「資本等の額」は、決算書の純資産合計とは異なる酒販免許独自の判定上の金額です。詳しい計算方法はこちらの記事で解説しています。

直近3事業年度の決算内容
直近3事業年度すべてにおいて、各事業年度の欠損額が資本等の額の20%を超えている場合は、原則として経営基礎要件を満たさないと判断されます。
実際にどの数字を使って判定するのかは、具体例を使ってこちらの記事で解説しています。

新設法人の場合は決算書がないため、「設立時の資本金の額」と、具体的な収支予測を書いた「事業計画書」の内容が非常に重要になります。
「経験面(職歴)」のポイント:小売と卸売の違い
次に「経験」です。酒類販売業では、適切に事業を運営できる経験や知識があるかも確認されます。
経歴・経営能力の審査では、申請者や法人の役員等がこれまでどのような業務・経営に携わってきたかなどをもとに、酒類販売業を適正に経営できる知識・能力があるかが確認されます。法人の場合は、個々の経歴だけでなく、法人としてどのような経験・体制を備えているかという視点も重要になります。
小売免許(店舗・ネット通販・飲食店への販売)の場合
酒類販売に関する経験がある場合は、その内容を履歴書などで具体的に示します。酒類販売の経験がない場合でも、それだけで要件を満たさないというわけではなく、これまでの職歴や経営経験、酒類に関する知識などを踏まえて判断されます。
酒類業務の経験
酒類の製造業または販売業に直接従事した経験が通算おおむね3年以上ある場合など、一定の経歴があり、酒類に関する知識や記帳能力等を備えている場合には、国税庁の通達上、原則として経歴・経営能力等の基準を満たすものとして取り扱われます。
ただし、経験年数だけで機械的に判断されるものではなく、具体的な職務内容や経営経験、事業体制なども含めて確認されます。
この「おおむね3年以上」という基準は、すべての酒販免許で一律に求められる必須条件というわけではありません。
実務経験がない場合や、酒類業界での経験が3年に満たない場合にどのように考えるのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

酒販経験だけで判断されるわけではない
酒類業界での経験だけでなく、これまでの職歴や経営経験、担当してきた業務、酒類に関する知識なども踏まえて、酒類販売業を適正に経営できるかが判断されます。
卸売免許の場合:「洋酒卸」と「輸出入卸」で重視される経験の違い
卸売免許では、「洋酒卸」と「輸出入卸」で、経歴・経営能力に関する通達上の基準が異なります。
洋酒卸売業免許
国内での酒類流通や販売に関する経験がより重視されます。
輸出入酒類卸売業免許
輸出入酒類卸売業免許では、一般酒類小売業や洋酒卸売業のような「おおむね3年以上」といった具体的な経歴基準は示されていません。これまでの経験などから、酒類の卸売業を適正に経営するための十分な知識・能力があるかが確認されます。
例えば、すでに別商材の輸入ビジネスを行っている会社が新たにワイン輸入部門を立ち上げる場合には、これまでの貿易実務や既存事業の運営経験なども、その会社の経歴・経営能力を説明する材料になり得ます。
「法人」ならではの注意点と事前対策
経営基礎要件は個人・法人のどちらにも適用されますが、法人の場合は決算書や組織体制など、会社特有の確認事項が増えます。特に規模の大きな会社や、他業種から新しく参入する場合は、以下の点に事前の注意が必要です。
決算要件をクリアできるか(財務のタイミング)
税務署は「前期末の決算書」をベースに審査します。そのため、財務状態(債務超過など)が悪いからといって、期中に慌てて増資をしてもその期の申請には間に合いません。
「今期中に増資(または役員借入金の免除など)を行って自己資本を厚くし、次の決算(新しい期)を迎えてから申請に臨む」といった、中長期的な計画が必要になります。
定款の事業目的に酒類事業が書かれているか
定款(および履歴事項全部証明書)の事業目的に、「酒類の小売及び通信販売業/酒類の輸出入卸」といった文言が入っている必要があります。
入っていない場合は、事前に株主総会を開いて目的変更の登記手続きを済ませておかなければなりません。
事業計画と酒類事業への参入理由
税務署に対して「なぜ今、新しくお酒の事業を始めるのか」という動機や経営方針を、事業計画書等を通じて筋道立てて説明できる必要があります。
あわせて、どのような商品を、どのような仕入先から仕入れ、誰に、どのような方法で販売するのか、どの程度の売上や経費を見込んでいるのかなど、事業計画全体に無理がないかも確認されます。
酒販免許申請で作成する収支計画の考え方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

法人の場合「役員全員」の経歴チェックが必要
規模の大きな会社や、グループ企業、社外取締役が複数いる法人になると、経歴のチェックが隠れた大仕事になります。
規模の大きな会社や、グループ企業、社外取締役が複数いる法人になると、役員関係の確認や書類準備が隠れた大仕事になることがあります。法人申請では、監査役を含む役員全員について履歴書の提出が求められるほか、免許要件誓約書でも役員等について欠格事由に該当しないことを確認します。
ただし、役員全員の履歴書を提出することと、役員全員に酒類販売の経験が必要であることは別の問題です。
役員等に経験者がいない場合は?
自社の役員に酒類販売の経験者がいない場合でも、それだけで経営基礎要件を満たさないというわけではありません。これまでの経営経験や職務内容、酒類に関する知識、法人としての事業経験や運営体制などを踏まえて、酒類販売業を適正に経営できる知識・能力があるかを確認していく必要があります。
なお、酒類業界で経験のある従業員等がいる場合に、その経験を審査上どのように評価するかは、その者の立場や事業への関与の仕方などによって個別に確認する必要があります。
まとめ:経営基礎要件は「中長期的な戦略」が鍵になる
酒類販売業免許の4要件の中でも、経営基礎要件には、財務状況やこれまでの経験など、短期間では整えにくい内容も含まれます。
決算内容や事業経験といった過去の積み重ねも確認されるため、申請のタイミングや事業計画を含め、早い段階から検討しておくことが大切です。
申請書類を作成する段階になって初めて問題が見つかることもあります。酒類販売業への新規参入を検討する際は、事業計画を立てる段階から財務状況や経験、運営体制を確認しておくことが、スムーズな申請準備につながります。
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