はじめに:「役員全員の履歴書」が必要ということは……?
法人で酒販免許を申請する場合、申請書には、監査役を含む役員全員の履歴書を添付します。
そこで気になるのが、
「代表取締役だけではなく、取締役全員に酒販経験が必要なの?」
「酒販事業に関係しない社外取締役や監査役も対象になる?」
「会社案内に載っている執行役員はどうなる?」
といった点ではないでしょうか。
特に役員の多い法人では、「役員全員」といっても、実際に誰まで含まれるのか分かりにくいことがあります。
また、役員全員について履歴書を提出することと、役員全員に酒販経験が求められることは同じではありません。
今回は、法人で酒販免許を申請する場合に、誰について履歴書を提出するのか、そして役員の経験がどのように経営能力の審査につながるのかを整理します。
法人の場合は、監査役を含む「役員全員」の履歴書を提出する
国税庁の「一般酒類小売業免許申請の手引」では、法人が申請する場合、監査役を含む役員全員について、それぞれの住所と職歴を記載した履歴書を添付することとされています。
履歴書に記載する職歴も、単に勤務先の名称と在職期間だけではありません。
勤務した会社名や業種に加えて、「担当業務内容」まで記載します。
これは一般酒類小売業免許だけの話ではなく、酒類卸売業免許についても、法人の場合には役員の経歴が確認されます。
したがって、
「酒販事業を担当する取締役だけ」
「代表取締役と常勤役員だけ」
というわけではありません。
法人で申請する場合には、まず誰がその法人の役員なのかを確認することが必要になります。
「役員全員」とは誰?―社外・非常勤・監査役も確認する
ここで注意したいのが、会社の中で実際に酒販事業を担当するかどうかと、「役員」に該当するかどうかは別の問題だということです。
たとえば取締役であれば、常勤・非常勤、社内・社外を問わず、また実際に酒販事業を担当するかどうかにかかわらず、役員として確認する必要があります。
また、国税庁の手引が明記しているとおり、監査役も含まれます。
そのため、法人の酒販免許申請を準備するときには、社内の組織図や会社案内だけを見るのではなく、法人の登記事項証明書で役員を確認しておくことが大切です。
「執行役員」は役員?―会社の肩書だけでは判断できない
少し紛らわしいのが「執行役員」です。
会社によっては、
- 「常務執行役員」
- 「営業担当執行役員」
- 「海外事業担当執行役員」
といった肩書を設けていることがあります。
名前には「役員」と付いていますが、一般に「執行役員」は、会社法に定められた機関ではなく、会社が任意に設けている役職です。
そのため、「執行役員」という肩書が付いているだけで、会社法上の役員になるわけではありません。
一方で、「取締役兼執行役員」のように、取締役と執行役員を兼ねている人もいます。
この場合は、執行役員だからではなく、取締役であるため役員に含まれることになります。
つまり、「役員全員」を確認するときには、会社案内や名刺に書かれた肩書だけでは判断できない場合があります。
まず登記事項証明書を確認して、法律上どのような立場にある人なのかを確認すると分かりやすいでしょう。
なお、会社法上の「執行役」と、会社が任意に設ける「執行役員」は別のものです。
指名委員会等設置会社など、通常とは異なる機関設計の法人については個別の確認が必要です。
「支配人」も、一般に使われる意味とは少し違う
酒販免許の手続では、役員とは別に「支配人」という言葉が出てくることがあります。
ここでいう支配人は、ホテルや店舗などで一般に「支配人」「店長」「責任者」と呼ばれている人を広く指すものではありません。
会社法や商法には、営業主に代わって営業に関する広い権限を持つ「支配人」という制度が定められています。
そして国税庁の酒販免許の手引でも、「支配人は、支配人登記をした者に限ります」とされています。
したがって、社内で「支配人」という肩書を使っているだけで、酒販免許上の支配人として扱われるわけではありません。
酒販免許では、この支配人についても、免許要件誓約書や経歴・経営能力に関する規定の中に登場します。
法人の登記事項証明書を確認する際には、役員だけではなく、支配人の登記がないかも確認しておくとよいでしょう。
では、役員全員に酒販経験が必要なの?
役員全員の履歴書を提出するからといって、役員全員がそれぞれ一定年数の酒販経験を持っていなければならない、という意味ではありません。
前回の記事で見たように、酒販免許における経験は、酒税法第10条第10号の「経営の基礎」に関する審査の一部です。
一般酒類小売業免許について、国税庁の法令解釈通達では、申請者が、経験その他から判断して、適正に酒類小売業を経営するための十分な知識・能力を有する者、またはそのような者が主体となって組織する法人であることが求められています。
法人の役員が複数いる場合、それぞれが同じ経験を持っているとは限りません。
たとえば、
- 代表取締役は長年会社を経営してきた
- ある取締役は酒類販売会社で営業や仕入れを経験してきた
- 別の取締役は経理・財務を担当してきた
- 監査役には酒販経験がない
といった法人もあるでしょう。
この場合に、酒販経験のない役員がいるという理由だけで、直ちに経営能力がないと判断されるわけではありません。
誰が酒類についての知識・経験を持っているのか、誰が会社経営や事業運営の経験を持っているのかなど、それぞれの役員の経歴を踏まえて、法人として酒類販売業を適正に経営できる知識・能力を備えているかが審査されます。
ただし、「酒販経験のある役員が一人いれば必ず要件を満たす」といった一律の基準が公表されているわけではありません。
具体的な役員構成や経歴、取得する免許などによって判断されるため、個別の確認が必要です。
代表取締役に酒販経験がなくても申請できる?
ここまでの話から分かるように、代表取締役本人に一定年数の酒販経験がなければ法人として申請できない、という一律の要件ではありません。
代表取締役自身には酒類業界での勤務経験がなくても、他の役員に酒類販売についての経験・知識がある場合や、代表者自身に別の事業での経営経験がある場合など、それぞれの経歴を踏まえて法人としての経営能力を検討することになります。
もっとも、「経験者を一人取締役にしておけば大丈夫」ということでもありません。
大切なのは、形式的に経験者の名前が役員に入っているかではなく、その法人が実際に酒類販売業を適正に運営できる知識・能力を備えているかという点です。
まとめ:役員全員に同じ酒販経験が必要なわけではない
法人で酒販免許を申請する場合には、監査役を含む役員全員について履歴書を提出します。
しかし、それは役員全員に同じ酒販経験を求めるという意味ではありません。
大切なのは、「役員全員に酒販経験があるか」ではなく、その法人が、これから行う酒類販売業を適正に運営できる知識・能力を備えているかということです。
そのため、法人で申請する場合には、役員それぞれがこれまでどのような仕事をしてきたのか、その経験が酒類販売事業にどのようにつながるのかを整理しておくことが大切です。
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