はじめに:最近の「貸事務所」はいろいろある
自宅を販売場にするのは難しい。
かといって、酒販ビジネスを始めるためだけに一般的な事務所を借りるのは負担が大きい。
そんなとき、選択肢として考えられるのが、レンタルオフィスやシェアオフィスなどの貸事務所です。
最近では、住所だけを利用するものから、共有スペースを利用するもの、鍵付きの個室を借りるものまで、さまざまなサービスがあります。
では、このような場所を「販売場」として酒販免許を取得することはできるのでしょうか。
「レンタルオフィス」という名前だけでは判断できない
酒販免許では、「レンタルオフィスなら取得できる」「シェアオフィスなら取得できない」というように、サービスの名称だけで判断するわけではありません。
大切なのは、その場所が実際にどのような形で利用できるのかということです。 まずは、一般に使われている貸事務所を、大きく三つに分けて考えてみましょう。
バーチャルオフィスとは
住所利用や郵便物の受取りなどを中心とし、専用の執務スペースを持たないタイプです。
法人の本店所在地として利用できるサービスもありますが、「法人登記ができること」と「酒販免許の販売場として使用できること」は別の問題です。
シェアオフィスとは
複数の事業者が一つのオフィスを共有して利用するタイプです。
自由な席を利用するフリーアドレス型もあれば、固定席や専用区画が設けられているものもあり、サービスによって利用形態は大きく異なります。
レンタルオフィスとは
一つの施設の中に複数の事業者が入居しますが、それぞれが専用の個室などを借りて使用するタイプが一般的です。
ただし、「レンタルオフィス」と呼ばれていても実際の設備や契約形態はさまざまです。
| タイプ | 区画の形態 | 酒販免許の取得可能性 | 主なハードル・確認点 |
| バーチャル | 住所のみ(専用スペースなし) | 原則不可 | 実体のある販売場が存在しない |
| シェア(フリーアドレス) | 共有席・専用区画なし | 原則不可 | 他者との明確な区分ができない |
| シェア(固定席・専用区画型) | 固定席・専用区画あり | 個別判断 | 他者との区分、専用性、利用形態、契約形態 |
| レンタル | 鍵付き個室など | 条件付きで可能 | 区画の独立性、使用権原・転貸関係、契約形態、施設規約 |
上の表は、それぞれのオフィスの一般的な利用形態をもとに整理したものです。
税務署が「バーチャルオフィスは不可」「鍵付き個室なら可」といった形で、オフィスの名称ごとに一律の基準を示しているわけではありません。実際には、販売場の区画や利用形態、契約関係などを踏まえて個別に判断されます。
酒販免許で見るのは「名称」ではなく販売場の実態
酒販免許では、申請する販売場について、他の営業主体の営業と明確に区分されているかが確認されます。
そのため、
- 自分が継続して使用できる場所があるか
- 他の利用者との区分が明確か
- そこで実際に酒販事業を行えるのか
- 酒類の搬出入や必要な表示・標識の掲示など、事業運営に必要な行為がその場所で認められているか
といった実態から考える必要があります。
住所を借りるだけのバーチャルオフィスでは、実際に酒販事業を行う販売場が存在しないため、販売場として使用することは通常困難です。
一方、シェアオフィスやレンタルオフィスについては、具体的な区画や利用形態によって判断が変わります。
なかでも、固定席を持たないフリーアドレス型のシェアオフィスは、そもそも専用に区分された空間が存在しないため、販売場としては原則として認められにくいと考えられます。
もう一つ重要なのが、酒販免許申請上の「その場所を使う権利」
場所そのものに問題がなさそうでも、それだけで十分とは限りません。
レンタルオフィスでは、
建物所有者 レンタルオフィス運営会社 利用者
という転貸の形になっていることがあります。
酒販免許の申請では、申請者がその場所を販売場として確実に使用できることを確認する必要があります。
そのため、自分とレンタルオフィス運営会社との契約だけでなく、建物所有者から申請者まで、その場所を使用できる権利関係を確認できる資料が必要になることがあります。
たとえば、運営会社が建物所有者から物件を借りて利用者に転貸している場合には、所有者と運営会社との契約関係や、運営会社に転貸する権限があることを確認する必要が生じることがあります。
ただし、建物所有者と運営会社との契約書には、賃料など利用者には開示しにくい情報が含まれていることもあります。実際にどのような資料が必要になるかは、契約関係や申請内容によって異なります。
そのため、酒販免許の販売場として利用する予定であれば、契約前に、「免許申請の際に必要となった場合、所有者から自分まで、その場所を使用できる権利(使用権原)を確認できる資料を提供してもらえるか」を運営会社に確認しておくと安心です。
また、レンタルオフィスの契約は、賃貸借契約ではなく、「施設利用契約」「サービス利用契約」といった名目で結ばれていることも少なくありません。
その場合には、契約書の名称だけで判断するのではなく、申請者がその場所を販売場として継続して使用できることを、契約内容から確認できるかが問題になります。
契約上の位置づけがはっきりしない場合には、税務署への申請段階で追加の資料や説明を求められることもあります。
また、申請内容によっては、販売場の状況について現地確認が行われることも考えられます。
レンタルオフィスの場合には、そのような場合にも対応できる施設なのか、あらかじめ確かめておきたいところです。
こうしたことから、レンタルオフィス契約は「個室だから大丈夫」と安易に考えず、慎重に進めるほうが安心です。
「自宅住所を出したくないからバーチャルオフィス」は解決になる?
「自宅住所を出したくない」という理由から、事業上使用する住所としてバーチャルオフィスを検討する方もいるでしょう。
バーチャルオフィスの中には、その住所を法人の本店所在地として登記できるサービスもあります。
しかし、事業上使用する住所や法人の本店所在地をどこにするかということと、酒販免許の販売場をどこにするかは別の問題です。
酒類販売業免許は、法人の本店所在地ではなく、実際に酒類販売業を行う「販売場」ごとに受けます。
そのため、本店をバーチャルオフィスにしていても、自宅を酒販免許の販売場として申請するのであれば、販売場所在地は自宅になります。
「自宅住所を酒販事業に使いたくない」という目的でバーチャルオフィスを検討しているのであれば、それだけでは問題の解決にならないことに注意が必要です。
酒販免許が取れれば、それで問題ない?
ここでもう一つ考えておきたいのが、「酒販免許上使えること」と「事業の拠点として使いやすいこと」は必ずしも同じではないという点です。
レンタルオフィスを契約する前には、酒販免許以外の面からも確認しておきたいことがあります。
事業用口座を開設するときに問題はない?
金融機関によっては、口座開設時に事業実態や事業所の状況などを確認されることがあります。
レンタルオフィスやバーチャルオフィスの利用についても、金融機関によって取扱いが異なる場合があります。
利用を予定している金融機関がある場合には、口座開設に支障がないか事前に確認しておくと安心です。
商品の搬出入や宅配便の受け取りに問題はない?
酒販ビジネスでは、酒類そのものを外部倉庫に置いたとしても、サンプルや返品、書類などが届く可能性があります。不在時の宅配便・郵便物の受け取り対応や、一時保管場所があるかなども確認しておきたいところです。
また、販売場で酒類を保管する場合には、ケース単位の商品を台車などで搬出入することも考えられます。
共用廊下やエレベーターを使った荷物の搬出入が認められているか、利用できる時間帯に制限がないかなど、施設の利用規約も確認しておきましょう。
販売場として実際に使用できるスペースがある?
酒販免許の申請では、販売場の敷地や建物の配置、販売設備の状況などを明らかにします。
そのため、単に住所を使用できるだけでなく、その場所で予定している酒販事業を実際に行えるのかという視点も必要です。
個室の広さや設備、利用可能時間などが、自分の予定している事業内容に合っているかも契約前に確認しておきましょう。
必要な表示や標識を掲示できる?
酒類小売業では、販売場ごとに酒類販売管理者を選任し、販売場の公衆の見やすい場所に所定の標識を掲示する必要があります。
レンタルオフィスによっては、個室のドアや共用部分への掲示物について細かなルールが定められていることがあります。酒類販売管理者の標識など、酒販事業に必要な表示をどこに掲示できるのかも、あらかじめ確認しておきたいところです。
単に住所や個室を確保できればよいのではなく、実際にその場所を酒類販売の拠点として運営できるかという視点で確認することが大切です。
使いにくければ、後から別の場所へ移ればいい?
「まずは費用の安いレンタルオフィスで始めて、事業が軌道に乗ったら別の事務所へ移ればいい」と考えることもあるでしょう。
しかし、酒類販売業免許は販売場ごとに受ける免許です。
免許を受けた販売場を別の場所へ移す場合には、単に住所変更を届け出ればよいのではなく、あらかじめ販売場の移転許可を受ける必要があります。
もちろん、移転先についても販売場としての要件が確認されます。
そのため、「とりあえず使えそうな場所」で免許を取得するのではなく、現在の事業規模だけでなく、少し先の使い方まで考えて販売場を選んでおくことが大切です。
なお、同じ建物内での区画変更など、どの程度の変更が「販売場の移転」に当たるかは、具体的な状況によって判断が必要です。レンタルオフィス内で別の個室へ移る場合なども、自己判断で単なる住所変更として扱わず、事前に管轄の税務署へ確認しておくとよいでしょう。
まとめ:レンタルオフィスは「契約する前」の確認が大切
レンタルオフィスは、自宅以外の場所で小さく酒販ビジネスを始めたい人にとって、有力な選択肢になる場合があります。
ただし、販売場としての区分や使用権原などの要件を満たして初めて免許取得につながるものであり、「鍵付きの個室を借りれば大丈夫」というほど単純ではありません。
- その場所が販売場として明確に区分できるのか。
- 酒販事業に使用することが契約上認められているのか。
- 所有者から申請者まで、その場所を使用する権利関係を確認できるのか。
- 免許取得後も実際の事業拠点として無理なく使えるのか。
こうした点を確認してから契約することが大切です。
条件は施設や契約内容によって異なるため、判断が難しい場合には、契約前に管轄の税務署へ相談しておくとよいでしょう。
なお、知り合いの会社など、別の事業者が使用しているオフィスの一部を借りる「間借り」の場合には、使用権原だけでなく、同居先の営業との区分も問題になります。間借りで酒販免許を申請する場合については、こちらの記事で詳しく解説しています。

酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら
酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。
酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。
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