はじめに
前回の記事では、自宅で「無店舗型」の酒販ビジネスを始める場合に、開業前に考えておきたいポイントを取り上げました。
自宅だからという理由だけで、酒類販売業免許を取得できないわけではありません。
一戸建ての持ち家はもちろん、賃貸住宅やマンションでも、賃貸借契約や管理規約等を確認し、事業利用に問題がなければ、自宅を販売場として申請できる場合があります。
しかし、自宅を販売場にするにあたって、「インターネット上に自宅住所が公開されることに不安がある」という方もいるのではないでしょうか。
特にご家族と同居されている場合、プライバシーやセキュリティは自分一人だけの問題ではありません。
では、自宅を販売場として酒販免許を取得しつつ、自宅住所をネット上に公開せずにECで酒類を販売することは可能なのでしょうか。
今回は、酒販免許、酒類販売管理者制度、特定商取引法など、それぞれの制度から「自宅住所の公開」について考えてみます。
ECショップと、酒販免許の「販売場」は別物
まず整理しておきたいのは、酒販免許における「販売場」の考え方です。
消費者から見ればECサイトそのものが「お店」に思えますが、免許制度上の「販売場」はECサイトそのものではありません。
酒類販売業免許は販売場ごとに、その販売場の所在地を所轄する税務署長から受ける免許です。
そのため、実店舗を持たずECサイトで販売する場合にも、販売場を定めて申請します。
- 消費者から見た「お店」 = ECサイト(Web上のショップ)
- 免許上の「販売場」 = 自宅の一室などの事業拠点
このように、ECサイトとは別に酒販免許上の「販売場」があることが、住所公開を考えるうえで重要なポイントになります。
酒類小売業者に求められる「酒類販売管理者標識」
酒類小売業者には、販売場ごとに「酒類販売管理者」を選任し、見やすい場所に「酒類販売管理者標識」を掲示することが義務付けられています。
この標識には、次の5つの事項を記載します。
- 販売場の名称及び所在地
- 酒類販売管理者の氏名
- 酒類販売管理研修を受講した年月日
- 次回研修の受講期限
- 研修実施団体名
実店舗のお酒売場などで、この標識を見たことがある方もいるかもしれません。
では、自宅を販売場とするECショップの場合には、自宅の中にこの標識を掲示しておけばよいのでしょうか。
ECショップは、インターネット上でも表示が必要
酒類販売管理者制度では、通信販売を行う場合、酒類販売管理者の氏名や研修の受講実績などの必要事項を、インターネット等で確認できるようにすることが求められています。
国税庁の法令解釈通達でも、「インターネットその他の公衆の閲覧に供する方法」について、ウェブサイト等の見やすい場所に、閲覧に供すべき事項を一体的に表示する方法が示されています。
そして、その標識事項には「販売場の名称及び所在地」が含まれます。
つまり、自宅を酒販免許上の販売場としてECで酒類を販売するのであれば、その販売場所在地である自宅住所についても、インターネット上で閲覧できる状態にする必要があります。
「自宅の中に標識を貼っておけば、インターネットには住所を出さなくてよい」というわけではありません。
住所はトップページに大きく載せなければならない?
もっとも、自宅住所をECサイトのトップページや「お問い合わせ」のページに、大きく掲載しなければならないという意味ではありません。
実際のワインECサイトを見ても、トップページを見ただけでは会社所在地が分からないサイトは少なくありません。
フッターなどから、「特定商取引法に基づく表記」「酒類販売管理者標識」「会社概要」などのページに進むことで、必要な情報を確認できる構成になっているサイトもあります。
重要なのは、必要な情報をインターネット上で公衆が確認できる状態になっていることです。
したがって、「住所がサイトの目立つところに表示されること」と「住所がインターネット上に公開されること」は、分けて考える必要があります。
特定商取引法の住所表示
酒販ECの場合には、さらに特定商取引法も関係します。
インターネットで商品を販売する通信販売では、原則として、事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、販売価格、送料、支払方法、商品の引渡時期、返品に関する事項などを表示する必要があります。
個人事業主の場合には、屋号だけを表示すればよいわけではなく、原則として事業者本人の氏名等を表示することになります。
そのため、自宅を事業拠点としてECショップを運営している場合には、特定商取引法の面からも住所の表示が問題になります。
もっとも、ネット上で一般的なEC開業のノウハウを調べると、
- 「特定商取引法は一定の条件で住所表示を省略できる」
- 「自宅住所を公開したくなければ、表示を省略すればよい」
- 「バーチャルオフィスを利用すればよい」
といった情報を見かけることがあります。
実際、特定商取引法では、消費者から請求があった場合に、住所などの必要事項を「遅滞なく」提供する旨を表示し、実際にその対応ができるようにしている場合には、広告上の住所や電話番号などを省略できる仕組みがあります。
酒類販売管理者制度でも「販売場所在地」の表示が求められる
ところが、酒販ECではこれだけでは自宅住所を非公開にできません。
通信販売を行う酒類小売業者は、先に述べたように、酒類販売管理者標識に関する事項をインターネット上で閲覧できるようにする必要があり、その中に「販売場の名称及び所在地」が含まれているからです。
したがって、自宅を酒販免許上の販売場とする場合、一般のECで利用できることのある特定商取引法上の表示省略やバーチャルオフィスといった方法だけでは、自宅住所を非公開にすることはできません。
公開したくないなら、販売場そのものから考える
では、自宅住所をインターネット上に公開したくない場合には、どう考えればよいのでしょうか。
その場合には、そもそも自宅を酒販免許上の販売場にしない、というところから考える必要があります。
たとえば、前回の記事で取り上げたように、レンタルオフィスなど、自宅以外の場所を販売場として利用できないか検討する方法があります。
ただし、レンタルオフィスならどこでも販売場にできるわけではありません。
自分の販売場として明確に区分できる利用形態になっているか、その場所を使用できる権利関係が確認できるかなど、酒販免許の場所的要件を検討する必要があります。
つまり、自宅住所の公開を避けたいのであれば、「免許を取ってから、住所をどう隠すか」ではなく、「免許を申請する前に、どこを販売場にするのか」から考えることが大切です。
※ レンタルオフィスやシェアオフィスなどの貸事務所を「販売場」にする場合の注意点は、こちらで解説しています。

Googleビジネスプロフィールはどうする?
住所公開というと、Google検索やGoogleマップへの表示も気になるところです。
Googleビジネスプロフィールは、そもそもオンラインのみで営業するビジネスを原則として対象としていません。
また、Googleのいう「非店舗型ビジネス」は、清掃サービスや配管工事など、顧客の所在地に出向いて商品やサービスを提供する事業を想定したものです。さらに、アルコールなど年齢制限のある商品・サービスについては、店舗を持たない非店舗型ビジネスとしての登録は認められていません。
したがって、EC専業のワインショップについては、「Googleビジネスプロフィールに登録して、住所だけ非表示にする」という方法を、自宅住所を公開しないための手段として考えることはできません。
住所公開は、「家族の生活」に関わる決断
事業主自身は「まあ住所くらい出てもいいか」と思っていても、同居するご家族にとっては大きな不安要素になり得ます。ECサイトに掲載された情報は、不特定多数の人が閲覧できます。
さらに、商品の発送・返品対応、各種書類の届先など、自宅を事業拠点にすればさまざまな場面で住所が活用されます。
「お客様が直接家に来るわけではないから大丈夫」と考えるだけでなく、開業前に必ずご家族と十分な話し合いを行い、合意形成をしておくことが大切です。
まとめ:住所を隠す方法ではなく、「どこを販売場にするか」から考える
自宅を販売場として酒販免許を取得し、ECサイトで酒類を販売することは可能です。
しかし、その場合は自宅住所がインターネット上に公開されることが前提となります。
また、EC販売では特定商取引法による事業者情報の表示も必要になります。
そのため、免許を取ってから「どうやって住所を隠すか」を悩むのではなく、自宅住所の公開にリスクや抵抗があるなら「どこを販売場にするか」を、開業前に考えておくことが大切です。
酒販免許では、販売場は単なる申請書上の住所ではありません。
自宅で始めるのか、自宅以外に事業拠点を設けるのか。
事業の規模やコストだけでなく、家族の生活やプライバシーも含めて、自分に合った形を検討してみましょう。
酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら
酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。
酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。
当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。
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