はじめに:知り合いの会社に空いているスペースがあるけれど……
酒販ビジネスを小さく始める場合、最初から専用の事務所を借りるのではなく、
「知り合いの会社に空いている部屋があるので、そこを使わせてもらいたい」
「オフィスの一角に空いているスペースがあるので、そこを販売場にできないだろうか」
と考えることもあるでしょう。
一般的な事務仕事であれば、知り合いの会社から了承を得て、空いているスペースを使わせてもらうこと自体はそれほど珍しいことではありません。
しかし、酒販免許では、その場所を「販売場」として申請することになります。
そのため、「知り合いが使っていいと言っているから大丈夫」とは限りません。
間借りしたオフィスを販売場にする場合には、大きく分けて、
- その場所を使う権利があるか
- 同居する会社の営業と明確に区分されているか
という2つの点を確認する必要があります。
今回は、知り合いの会社や関連会社など、別の事業者が使用しているオフィスの一部を借りて酒販免許を申請する場合について考えてみます。
「使っていいよ」だけでは足りない?―まず確認したい使用権原
最初に確認したいのが、その場所を酒販免許の販売場として使用できる権利があるかという点です。
このように、その場所を使用する法的な根拠となる権利を「使用権原(しようけんげん)」といいます。
たとえば、知り合いの会社A社が所有している建物の一室をB社が借りるのであれば、権利関係は比較的分かりやすいでしょう。
一方、A社自身もそのオフィスを賃借している場合には、
建物所有者・賃貸人
A社(賃借人)
B社(間借りする申請者)
という関係になります。
この場合、A社の代表者から「使っていい」と言われただけでは、その場所をB社に使用させる権限がA社にあるとは限りません。
元の賃貸借契約で転貸や第三者の使用がどのように定められているかを確認し、必要に応じて賃貸人・所有者の承諾を得ることになります。
これは、前回の記事で取り上げた「販売場を使用する権利をどこまで確認するか」という問題と同じです。
ただし、間借りの場合は、これだけでは終わりません。
権利関係に問題がなくても、もう一つ確認されること
酒税法第10条第9号の場所的要件では、申請販売場における営業が、他の営業主体の営業と明確に区分されていることが求められます。
国税庁の法令解釈通達では、その判断要素として、
「販売場の区画割り」
「専属の販売従事者の有無」
「代金決済の独立性」
「その他販売行為」
が挙げられています。
つまり、A社のオフィスにB社が同居する場合、
「B社がこの場所を使ってよいか」だけではなく、
「ここで行われるB社の酒類販売業が、A社の営業とは別の営業として明確に区分されているか」
も確認されることになります。
これが、普通のオフィスの間借りとは少し違うところです。
「空いている机」だけでも販売場にできる?
たとえば、A社のオフィスに使っていない個室があり、その一室をB社が専用で使用するケースを考えてみましょう。
B社が使用する部屋が明確であれば、「この部屋がB社の販売場です」と図面上でも示しやすくなります。
では、個室ではなく、「オフィスの中に空いている机が一つあるので、そこを使わせてもらう」という場合はどうでしょうか。
酒販免許には、販売場について「最低○㎡以上」といった一律の最低面積基準は、国税庁の現行資料では確認できません。
しかし、面積の決まりがないことと、机一つ分のスペースがあれば販売場になることは別の話です。
国税庁の通達では、他の営業主体との「区画割り」だけでなく、販売従事者や代金決済、実際の販売行為まで含めて、営業が明確に区分されているかを見ることとされています。
さらに国税庁の通達では、たとえば、他の事業者が営業している店舗の中で、一部の陳列棚だけを借りて販売場とするようなケースも取り上げられています。
このような場合に、場所だけを形式的に借りているものの、実際の営業が他の事業者と明確に分かれていない、いわゆる「名板貸し」に当たるときは、販売場の移転を許可しないとされています。
したがって、単に、「この机だけはB社専用です」と決めればよい、というほど単純ではありません。
パーティションで区切れば販売場になる?
では、A社のオフィスの一角をパーティションで囲えばどうでしょうか。
ここも、「パーティションがあればOK」「壁がなければNG」という一律の基準は確認できません。
国税庁の通達が見ているのは、物理的な仕切りの有無だけではないからです。
たとえば、区画がある程度分かれていたとしても、
- A社とB社の従業員が同じようにそのスペースを使用している
- 酒類の注文や販売についてA社とB社の役割が混在している
- 代金決済が分かれていない
といった状態であれば、単にパーティションを置いたことだけで「他の営業主体の営業と明確に区分されている」とはいえない可能性があります。
反対に、どの程度の区画を設ければ十分なのかについても、国税庁は一律の寸法や仕様を示していません。
パーティションの有無だけで判断するのではなく、その場所で行われる酒類販売業が、同居先の事業者の営業から明確に区分されているかを全体として考える必要があります。
申請では「ここが販売場です」と図面で示す
間借りを検討するときには、実際の酒販免許申請をイメージしてみると分かりやすくなります。
申請では、販売場の位置や建物の状況を図面で示し、販売設備の状況なども説明します。
また、「事業の概要(販売設備状況書)」では、店舗・事務所等の広さのほか、什器備品なども記載します。
つまり、単に知り合いの会社から「このあたりを使っていい」と了承を得るだけではなく、「この建物の、この範囲が申請者の販売場です」と具体的に説明できる状態にしておく必要があります。
間借りスペースの場合には、机や椅子、書類等を保管する設備、業務に使用する機器などをどのように配置するのかも含めて、実際の販売場としての使用状況を整理しておくことになります。
間借りを決める前に、図面を持って相談しておく
間借りで酒販免許を申請する場合には、
- その場所を販売場として使用できる権利があること
- 申請者の酒類販売業が、同居する他の事業者の営業から明確に区分されていること
の両方を確認する必要があります。
特にオフィスの一角を間借りする場合には、どの程度の区画や設備が必要になるかは、物件の構造や同居先の事業内容、実際の販売方法などによって変わります。
そのため、契約や設備工事を先に進めてしまうのではなく、どの範囲を販売場として使用する予定なのかが分かる図面を用意して、事前に所轄税務署へ相談しておくと安心です。
まとめ:間借りでは「借りられるか」と「販売場になるか」を分けて考える
知り合いの会社から、「空いている場所があるから使っていいよ」と言ってもらえれば、事務所を新たに借りるよりも手軽に酒販ビジネスを始められそうに思えます。
しかし、酒販免許では、単に仕事をする場所が確保できればよいわけではありません。
まず、その場所を申請者が販売場として使用できる権利があるのか。
さらに、その場所で行う酒類販売業が、同居する会社の営業とは別の営業として明確に区分されているのか。
この2つを分けて確認することが大切です。
特にオフィスの一角を間借りする場合には、必要となる区画の程度を一律に判断することはできません。
「借りられる場所が見つかった」という段階で契約を急がず、販売場としてどのように区分して使用するのかを図面に落とし込み、所轄税務署に事前相談してから進めるとよいでしょう。
酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら
酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。
酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。
当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。
\まずはお気軽にお問合せください/

