はじめに:会社があるなら、その会社で申請すればいい?
すでに会社を経営していて、新たにワインの輸入や販売などの酒類事業を始める場合、まず考えるのは「今ある会社で酒販免許を取る」という方法でしょう。
もちろん、既存法人で酒販免許を申請することはできます。
一方、会社の規模や役員構成、既存事業との関係などによっては、酒類事業を行うための新会社を設立し、その会社で酒販免許を取得する方法も考えられます。
では、既存法人で申請する場合と、新会社を設立して申請する場合では、何が違うのでしょうか。
今回は、すでに別の事業を営んでいる法人が、新たに酒類事業へ参入するケースを想定して考えてみます。
既存法人で申請する場合は、「酒類事業部」ではなく、「法人そのもの」が申請者に
既存法人の中で新たに酒類事業を始める場合、酒販免許は「酒類事業部」などの事業部門に与えられるものではありません。
申請者となるのは、その法人です。
そのため、酒販免許の審査では、新しく始める酒類事業の内容だけを見るのではなく、申請法人について、人的要件や経営基礎要件などの免許要件が確認されます。
すでに会社があるから、その会社で申請するのが一番簡単とは限りません。
特に、ある程度規模の大きな法人では、酒販免許申請の準備を始めてから、思った以上に確認事項が多いことに気づく場合があります。
盲点は「役員全員」の履歴書。社外取締役や監査役も対象に
法人で酒販免許を申請する場合は、監査役を含む役員全員について履歴書を準備する必要があります。
驚かれるかもしれませんが、酒類事業を担当する役員だけでなく、社外取締役や監査役を含む、役員全員がその対象となります。
また、酒販免許で提出する履歴書は、単に「○年○月入社」「○年○月退社」と勤務先を並べればよいというものではありません。
勤務した会社名だけでなく、その会社の業種や、どのような業務を担当していたのかなども記載します。
さらに、職歴の途中に空白期間がある場合には、「この間は何をしていましたか」と確認を求められることがあります。
たとえば、退職してから次の会社へ入社するまでに期間が空いているのであれば、「求職中」「就学中」「起業準備中」など、その期間の状況も含めて、経歴が時系列でつながるように整理しておきます。
会社が役員就任時などに詳細な履歴書を取得しており、酒販免許申請にも利用できる内容になっていれば、それをもとに作成することができます。
一方、必要な情報がそろっていなければ、改めて一人ひとりの役員に確認しなければなりません。
役員が数人の会社なら、それほど大きな負担にはならないかもしれません。しかし、役員数の多い法人では、こうした確認だけでも思いのほか時間がかかります。
税務署から照会や補正を求められてから慌てて確認することのないよう、申請前に余裕をもって準備しておきたいところです。
既存法人では、これまでの決算内容も確認される
もう一つ、既存法人で申請する場合に確認しておきたいのが、これまでの財務状況です。
「何年も事業を続けている会社なら、新しく作った会社より安心なのでは?」と思われるかもしれません。もちろん、財務状況に問題がなければ、既存法人であること自体を心配する必要はありません。
ただし、酒販免許の経営基礎要件では、原則として直近3事業年度の決算内容が確認されます。
そのため、繰越損失がある場合や、過去の事業年度に大きな欠損が生じている場合には、酒税法第10条第10号の経営基礎要件に該当しないかを、申請前に確認しておく必要があります。
つまり、長く事業を続けてきた会社であっても、酒販免許の審査では、これまでの財務状況もあらためて確認されるということです。
酒類事業のために新会社を設立するという選択肢
こうした点を考えると、会社の規模や今後の事業展開によっては、既存法人とは別に、酒類事業を行う新会社を設立する方法も選択肢に入ってきます。
たとえば、これまで酒類とは関係のない事業を行ってきた会社が、新たにワインの輸入販売事業を始めるようなケースです。
酒類事業を新会社に切り分ければ、その会社の事業目的や役員構成、資金計画などを、これから始める酒類事業に合わせて設計することができます。役員構成をシンプルにすれば、酒販免許申請で必要となる役員履歴書などの準備も整理しやすくなります。
また、既存事業と酒類事業を法人単位で分けて管理できることも、新会社を設立する理由の一つになるでしょう。
※ 新設法人で酒販免許申請する場合の注意点は、こちらの記事で詳しく解説しています。

新会社を作れば、親会社の財務状況は関係なくなる?
ここは少し注意が必要です。
既存法人が出資して新会社を設立し、その新会社が酒販免許を申請する場合、申請者はあくまで新会社です。
設立したばかりの新会社には過去3事業年度の決算実績がないため、申請法人自身については、過去3期分の決算書を提出することはできません。
では、親会社の財務状況は関係ないのでしょうか。
実は、そうとも限りません。
酒販免許の経営基礎要件では、申請法人だけでなく、法人の「主たる出資者」も一定の事項について確認の対象となります。
酒税法第10条第10号の法令解釈通達では、「経営の基礎が薄弱」であるかを判断する対象に「主たる出資者」も含まれており、親会社がこれに当たる場合には、「免許要件誓約書」において、経営基礎要件に関する次のような事項についても確認することになります。
- 国税・地方税の滞納がないこと
- 銀行取引停止処分がないこと
- 繰越損失が資本等の額を上回っていないこと
- 直近3事業年度すべてで資本等の額の20%を超える欠損がないこと
- 酒税関係法令上の問題がないこと
つまり、新会社を申請者にしたからといって、主たる出資者である親会社の財務状況まで審査と無関係になるわけではありません。
ただし、ここで少し分けて考えておきたいのが、「審査の対象になること」と「申請時の必須添付書類になること」です。
親会社が主たる出資者に当たる場合でも、親会社の財務諸表が、すべての申請で一律に必要な添付書類として示されているわけではありません。実際にどのような資料の提出が必要になるかは、出資関係や申請内容に応じて個別に確認することになります。
※ 「資本等の額」や具体的な判定方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。


新会社を作れば、申請が簡単になるわけではない
また、新会社を設立すれば、すべてがシンプルになるわけでもありません。
会社を設立するだけでなく、法人名義の銀行口座や事業資金を準備し、販売場を新会社が使用できる状態にしておく必要があります。
特に、親会社が使用しているオフィスの一部を新会社の販売場とする場合には注意が必要です。
建物の賃貸借契約が親会社名義であれば、新会社がその場所を使用できる契約関係になっているかを確認しなければなりません。場合によっては、転貸に関する契約や建物所有者の承諾などが必要になります。
また、同じ場所で親会社と新会社がそれぞれ事業を行う場合には、単に法人登記を分けるだけではなく、販売場の区画、販売に従事する人、代金の決済などについて、営業主体が明確に区分されていることも重要になります。
酒販免許を受けるのは新会社です。
そのため、販売場についても、「実際に酒類を販売しているのは新会社である」と説明できる事業体制を整えておく必要があります。
既存法人と新会社、どちらで申請する?
既存法人で申請するか、新会社を設立するかについて、酒販免許だけを見て一律にどちらがよいと決めることはできません。
役員数が少なく、財務状況にも問題がなく、既存事業と酒類事業との関係も自然であれば、既存法人でそのまま申請する方がシンプルな場合も多いでしょう。
一方で、役員数が多い法人や、既存事業と酒類事業を明確に分けたい場合、将来的に酒類事業を独立した事業として展開したい場合などには、新会社を設立することも選択肢になります。
ただし、新会社を設立すれば酒販免許の審査が簡単になる、あるいは既存法人との関係をすべて切り離せるということではありません。
親会社との出資関係、事業資金、販売場の使用関係など、新会社だからこそ整理しなければならない事項もあります。
まとめ:酒販免許を取る前に「どの会社で酒類事業をするか」を考える
すでに法人を経営している場合、新しい酒類事業を始めるからといって、必ずその法人で酒販免許を申請しなければならないわけではありません。
既存法人で申請する方法もあれば、酒類事業を行う新会社を設立する方法もあります。大切なのは、「どちらが酒販免許を取りやすいか」だけで決めることではありません。
既存法人の規模や役員構成、財務状況、既存事業との関係、そして、これから酒類事業をどのように展開していきたいのか。
酒販免許の申請準備を始める前に、まずは「どの会社で酒類事業を行うのか」を整理しておくことが、その後の事業をスムーズに進めるための第一歩になります。
酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら
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酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。
当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。
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