はじめに
「小さなワインショップをネットで始めたい」
「まずは副業として、ECサイトでお酒を販売してみたい」
そんなとき、最初から店舗や事務所を借りるのではなく、自宅を拠点に開業することを考える方もいるでしょう。
今回取り上げるのは、自宅を実店舗として改装し、来店したお客様に酒類を販売するケースではありません。
自宅を事務所・販売場として使用し、ECサイトなどを通じて酒類を販売する、いわば「無店舗型」の酒販ビジネスを想定しています。
自宅を実店舗として使用する場合には、用途地域や建物の用途など、別に確認すべき問題が生じることがあります。
酒類販売業免許では、酒類を販売するための「販売場」を定めて申請します。
実店舗を持たず、ECサイトだけで販売する場合でも、販売場は必要です。
では、このような無店舗型の酒販ビジネスで、自宅を販売場として酒販免許を取得することはできるのでしょうか。
自宅開業は、「販売場として使えるか」と「家族の生活」の二つの観点から考える
結論からいえば、自宅だからという理由だけで、酒販免許を取得できないわけではありません。
ただし、自宅を販売場にする場合には、大きく分けて二つのことを考えておく必要があります。
一つは、その自宅を酒販ビジネスの販売場として使用できるかということ。
もう一つは、家族が暮らす場所を事業にも使うことに、生活上の問題がないかということです。
今回は、自宅で酒販ビジネスを始めるときに、開業前に考えておきたいポイントを整理します。
EC販売でも「販売場」は必要
酒類販売業免許は、販売場ごとに受ける免許です。
そのため、店舗を構えて対面販売をする場合だけでなく、ECサイトで注文を受けて販売する場合にも、販売場を定めて申請します。
申請時には、販売場の所在地だけを記載するわけではありません。
建物の配置図や販売設備の状況などを示し、どこを販売場として酒類販売業を行うのかを明らかにします。
したがって、「ネットショップだから、パソコンがあれば場所はどこでもよい」というわけではありません。
一方で、酒税法上、自宅を販売場とすること自体が禁止されているわけでもありません。
自宅でECショップを始めたい場合には、まずその自宅を販売場として使用できるのかを確認することになります。
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一戸建ての持ち家なら安心?自宅のどこを販売場にする?
自宅が一戸建ての持ち家であれば、賃貸住宅のように賃貸借契約による用途制限を受けることは通常ありません。そのため、建物を使用する権利という点では、比較的整理しやすいケースといえます。
ただし、酒販免許の申請では、「自宅だから住所だけ書けばよい」というわけではありません。
自宅のどの部分で酒販事業を行うのか、商品をどこに保管するのかなど、実際の事業の形を考えておく必要があります。
なお、自宅の一部を販売場とする場合に、居住部分と事業部分をどの程度区分しなければならないかについて、全国一律の具体的な基準が公表されているわけではありません。
実際の建物の状況や事業内容を踏まえて、販売場として使用する場所を整理しておくことが大切です。
賃貸住宅なら、まず賃貸借契約を確認する
自宅が賃貸の場合には、まず賃貸借契約の内容を確認します。
酒販免許の申請では、土地や建物などが賃貸借の場合、賃貸借契約書等の写しを提出します。
特に注意したいのが、「居住用」「住居専用」など、建物の用途が限定されている場合です。
自宅を酒販事業の販売場として使用することが契約上認められているかを確認し、認められていない場合には、賃貸人等への確認や承諾が必要になります。
まずは、「自分がその建物をどのような契約で借りているのか」を確認することが出発点です。
マンションなら、管理規約も確認する
自宅がマンションの場合には、もう一つ確認しておきたいものがあります。
マンションの管理規約や使用細則です。
賃貸マンションの場合には、賃貸借契約だけでなく、そのマンション自体の管理規約や使用細則も確認しておく必要があります。
また、分譲マンションを自分で所有している場合にも、「自分の所有する部屋だから自由に使える」というわけではなく、管理規約等による制限が問題になることがあります。
国土交通省の「マンション標準管理規約」では、専有部分について、「専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない」という規定がモデルとして置かれています。
ただし、これは「自宅で少しでも仕事をしたら直ちに規約違反になる」という意味ではありません。
自宅の一室でパソコンを使って事務仕事をする場合と、不特定多数のお客様が訪れる店舗として使用する場合とでは、建物の使い方が大きく異なります。
酒販ECでも、
- 来客はあるのか
- 商品を自宅で引き渡すのか
- ワインをどの程度保管するのか
- 商品の搬入・発送はどの程度発生するのか
などによって、実際の利用状況は変わります。
したがって、マンションの場合には「自分の所有する部屋だから大丈夫」と考えるのではなく、実際の管理規約や使用細則を確認しておくことが大切です。
賃貸マンションの場合には、賃貸借契約 + マンションの管理規約等という二つの面から確認することになります。
酒販免許が取れれば解決?あわせて確かめたい「家族の意向」
ここまで確認して、「自宅を販売場にできそうだ」となったとします。
では、これで自宅開業の問題はすべて解決でしょうか。
実は、もう一つ考えておきたいことがあります。
自宅は事業をする場所であると同時に、自分や家族が生活する場所でもあるからです。
酒販免許上の問題がなくても、実際に酒販ビジネスを始めることで、これまでの生活が変わる可能性があります。
家族とも考えておきたい「自宅で酒販ビジネスをする」ということ
自宅で酒販ビジネスを始める場合、家族とあらかじめ話しておきたいことがあります。
自宅住所を事業に使うこと
まず考えたいのが住所です。
自宅を販売場として酒販免許を取得すると、その住所は事業上の「販売場所在地」になります。
さらにECサイトで酒類を販売する場合には、特定商取引法による表示の問題もあります。
「自宅住所をインターネットに掲載することには抵抗がある」
という方もいるでしょうし、本人は気にならなくても、同居する家族が抵抗を感じることもあります。
住所がどこまで公開されるのかについては、酒類販売管理者制度や特定商取引法など、複数の制度が関係します。
自宅住所の公開については、「自宅住所を公開したくない。それでもEC販売はできる?」で詳しく解説しています。
仕事と生活の境界
自宅で仕事ができることは、通勤がなく、固定費を抑えられるというメリットがあります。
一方で、仕事と生活の場所が同じになることで、境界が曖昧になることもあります。
パソコンや書類だけで完結する仕事とは異なり、酒販ビジネスでは「商品」があります。
ワインや梱包資材、伝票などが生活空間に入ってくれば、家族にとっては自宅の一部が事業スペースに変わることになります。
来客は本当にない?
EC販売だから、お客様が自宅に来ることはない。
そう考えて開業することも多いでしょう。
しかし、事業を続けていくうちに、
「取引先と自宅で打合せをしよう」
「商品の仕入先や事業関係者が訪問することになった」
など、当初とは違う使い方をしたくなることも考えられます。
自宅を販売場にする場合には、最初から「事業に関係する来客を想定するのか、しないのか」も考えておくとよいでしょう。
商品の搬入・発送、在庫保管
ワインはケース単位で届けば、それなりの重量と大きさになります。EC販売であれば、発送用の段ボールや緩衝材なども必要です。
商品の搬入や宅配便の集荷が増えたり、玄関や廊下に商品が一時的に置かれたりすることもあります。
また、最初は数ケースだった在庫が、事業の拡大とともに増えていく可能性もあります。
「空いている部屋に置けばいい」と考えていたものの、いつの間にか家族の生活スペースまで商品や梱包資材が広がってしまうことも考えられます。
自宅開業では、現在の在庫量だけでなく、少し先の事業規模まで考えておくことが大切です。
販売場と在庫保管・発送の場所は、同じでなくてもよい
自宅を販売場にしたからといって、販売するワインをすべて自宅に保管しなければならないわけではありません。
酒類販売業者が、免許を受けた販売場とは別の場所に販売用の酒類を保管する場合、その場所を「酒類蔵置所」として設けることができます。
たとえば、自宅を販売場とし、外部の倉庫を利用してワインを保管・発送する方法も考えられます。
ただし、蔵置所は酒販免許を受けた「販売場」ではありません。
販売はあくまで免許を受けた販売場で行い、蔵置所は酒類を保管したり、販売場からの指示に基づいて商品を発送したりする場所という位置づけになります。
自宅に多くの在庫を置くことが難しい場合には、このように販売場と在庫保管・発送の場所を分ける方法もあります。
なお、蔵置所を設ける場合には、税務署への報告が必要です。
なお、自宅を販売場として使用することが難しい場合には、レンタルオフィスなどを販売場として検討する方法もあります。ただし、利用形態や契約関係によって確認すべき点が異なるため、この点については別の記事で詳しく取り上げます。
まとめ:免許の要件だけでなく、「そこで暮らせるか」も考える
自宅を販売場として酒販免許を取得すること自体は可能です。
ただし、自宅で酒販ビジネスを始めるのであれば、まず、
- 持ち家か、賃貸か
- 賃貸借契約上、事業利用に問題はないか
- マンションなら管理規約等に問題はないか
- 販売場としてどの部分を使用するのか
- 商品をどこに保管するのか
といった点を確認する必要があります。
そして、それらをクリアできたとしても、もう一つ考えておきたいことがあります。
酒販免許上、自宅を販売場にできることと、自宅が酒販ビジネスをする場所として自分や家族にとって適していることは、必ずしも同じではありません。
住所の公開、仕事と生活の境界、来客、商品の搬入・発送、在庫や梱包資材の保管。
自宅は事業の場所である前に、自分や家族が暮らす場所でもあります。
自宅開業を選ぶときには、酒販免許の要件だけでなく、実際にそこで事業を続けていく生活をイメージしたうえで決めることが大切です。
なお、自宅を販売場にする場合には、もう一つ事前に考えておきたいことがあります。
それが、「自宅住所の公開」です。
自宅を販売場としてECで酒類を販売する場合、酒類販売管理者制度や特定商取引法との関係から、インターネット上での住所表示についても確認しておく必要があります。
「自宅で酒販免許は取れそうだけれど、住所をインターネット上に公開することには抵抗がある」という方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら
酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。
酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。
当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。
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