はじめに:酒販免許申請では、なぜ決算書を提出するのか
酒類販売業免許を申請する際、法人の場合は、原則として直近3事業年度分の貸借対照表と損益計算書が確認資料となります。
- なぜ酒販免許の審査に決算書が必要なのか?
- 赤字決算だと、酒販免許は取れないのか?
- 決算書のどこを確認されるのか?
このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
酒販免許申請では、要件のひとつである「経営基礎要件」として、申請者に酒類販売業を継続して営めるだけの経営基盤があるかが、税務署によって確認されます。
とはいえ、決算書と聞くと
「難しそう」
「税理士に任せているので中身はよく分からない」
という方も少なくありません。
今回は、酒販免許申請との関係を理解するために必要な範囲に絞って、貸借対照表と損益計算書の基本的な見方を解説します。
決算書は、会社の状態を数字で表したもの
決算書は、会社が1年間にどのような経営成績を上げたのか、そして決算日時点でどのような財産や負債を抱えているのかを、数字で表したものです。
決算書にはいくつかの種類がありますが、今回は、酒販免許の経営基礎要件を理解するうえで重要な、次の2つを取り上げます。
- 貸借対照表(B/S):ある時点での会社の財産の状態を表すもの
- 損益計算書(P/L):一定期間の会社の経営成績(儲かったか、損をしたか)を表すもの
貸借対照表が「決算日時点の写真」だとすれば、損益計算書は1年間の事業活動をまとめた「成績表」のようなイメージです。どちらも、会社の財務状況を別の角度から映し出しています。
貸借対照表から分かること
貸借対照表の基本構造
貸借対照表は、大きく分けて「資産」「負債」「純資産」の3つの区分で構成されています。左右に分かれた構造には、次のような意味があります。
- 左側(資産の部):会社が保有している財産の中身
- 右側(負債の部・純資産の部):その財産を、どのように調達したか
左側の合計と右側の合計は、必ず一致します。「資産=負債+純資産」という等式が成り立つことから、バランスシートとも呼ばれます。
資産――会社が保有しているもの
資産は、会社が持っている財産です。酒類販売業で想定される項目には、以下のようなものがあります。
- 現金・預金
- 売掛金(回収前の売上代金)
- 商品在庫(酒類など)
- 店舗設備・車両
- 保証金
同じ資産でも、すぐ支払いに使える現預金と、すぐには換金できない設備では性質が異なります。
例えば、会社に1,000万円の資産があっても、その多くがすぐに売却できない設備であれば、直ちに仕入代金の支払いに使えるわけではありません。現金・預金など、比較的すぐに支払いに使える資産がどの程度あるかも、資金面を考えるうえで重要です。
酒販免許申請では、決算書だけでなく、酒類の仕入れや設備に必要な資金と、その調達方法もあわせて確認されます。
負債――将来支払う必要があるもの
主な項目として、以下が挙げられます。
- 買掛金(未払いの仕入代金)
- 未払金
- 短期借入金・長期借入金
負債があること自体が、直ちに経営基礎要件を満たさないことを意味するわけではありません。店舗の開設や在庫の確保など、事業に必要な資金を借入れによって調達することもあるからです。
借入金を含む負債については、その額だけでなく、保有する資産や返済の見通しなども含めて考える必要があります。
純資産――会社に残っている正味の財産
純資産は、資産から負債を差し引いた残りの部分です。
- 資本金
- 資本剰余金(資本準備金など)
- 利益剰余金(過去の利益の蓄積)
純資産は、株主から出資された資本と、会社がこれまでの事業活動によって蓄積してきた利益などから構成されます。
資産から負債を差し引いた正味の財産に当たり、会社の財務的な安定性を見るうえで重要な項目です。
損益計算書から分かること
損益計算書の基本構造
損益計算書は、1年間の売上から始まり、そこから段階的に費用を差し引いていくことで、いくつかの「利益」を導き出す構造になっています。
売上高
一番上に記載されるのが売上高です。商品やサービスの販売など、会社の本来の事業活動によって得た売上の総額を表します。なお、売掛金のように、まだ入金されていない売上も含まれます。
売上原価と売上総利益
売上原価は、売った商品を仕入れるためにかかった費用です。売上高から売上原価を差し引いたものが売上総利益(いわゆる粗利)です。
例えば、年間売上高1,000万円のワインショップで、販売した商品の仕入れに700万円かかった場合、売上総利益は300万円となります。
なお、その年に仕入れたワインのうち、決算時点でまだ販売していないものは、商品在庫として貸借対照表の「資産」に計上されます。そのため、その年の仕入額が、そのまますべて売上原価になるわけではありません。
営業利益
売上総利益から、家賃・人件費・広告費・通信費などの「販売費及び一般管理費(販管費)」を差し引いたものが営業利益です。本業でどれだけ稼ぐ力があるかを示します。
経常利益
営業利益に、本業以外の収支(受取利息や支払利息など)を加減したものが経常利益です。会社の通常の事業活動全体での収益力を表します。
当期純利益・当期純損失
経常利益に、その期だけに発生した特別利益や特別損失を加減し、法人税等を差し引いた後の、最終的な利益(または損失)です。プラスであれば「当期純利益」、マイナスであれば「当期純損失」と呼ばれます。
「赤字」と「債務超過」の違い
混同されやすいのが、「赤字」と「債務超過」の違いです。
| 項目 | 赤字(当期純損失) | 債務超過 |
|---|---|---|
| 見る決算書 | 損益計算書(P/L) | 貸借対照表(B/S) |
| 意味 | 1年間の収益より費用が多く、最終的に損失が生じている状態 | 一般に、負債が資産を上回り、純資産がマイナスになっている状態 |
| 酒販免許審査との関係 | 1期だけの赤字によって、直ちに経営基礎要件を満たさなくなるわけではない | 免許を取得できない可能性があるため、詳しい確認が必要 |
ただし、酒販免許では、貸借対照表の純資産合計だけで判断するのではなく、後述する「繰越損失」と「資本等の額」を使って判定します。
「赤字」は1年間の経営成績を表します。これに対し、「債務超過」は過去の累積損益を含む決算日時点の財務状態を表します。
したがって、1期だけ赤字であっても、それまでに利益の蓄積があれば直ちに債務超過になるわけではありません。反対に、今期が黒字であっても過去の赤字が重く、債務超過が解消されていないケースもあります。
申請時に過去3事業年度分の決算内容が確認されるのは、単年度の結果だけでなく、会社の財政状態や経営成績の推移を確認するためです。
なお、赤字が続いているだけで直ちに免許を受けられなくなるわけではなく、酒販免許では、当期純損失の額と後述する「資本等の額」との関係によって判断されます。
貸借対照表と損益計算書のつながり
ふたつの決算書は独立しているように見えますが、内部でつながっています。
ある期の「当期純利益(または当期純損失)」は、原則として、貸借対照表の純資産の部にある「利益剰余金」を増加(または減少)させます。
- 黒字の蓄積は、純資産を増加させ、財務基盤を安定させる要因となる
- 赤字の蓄積は、純資産を減少させ、債務超過に至るリスクを高める
損益計算書を「1年間の成績表」、貸借対照表を「これまでの利益や損失の蓄積も反映された、決算日時点の財政状態」と捉えると、両者の関係が理解しやすくなります。
酒販免許審査で確認される具体的な基準
酒税法では、申請者の「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」は免許の拒否要件となります。
分かりやすくいえば、過去の損失によって会社の財務基盤が大きく損なわれていないか、また、大きな赤字が3期続いていないかを確認する基準です。
国税庁の手引および審査項目一覧表では、法人の財務状況について、具体的に次のような基準が示されています。
- 最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が、資本等の額を上回っている場合
- 最終事業年度以前3事業年度のすべての事業年度において、当期純損失の額が、各事業年度の資本等の額の20%を超えている場合
ここでいう「資本等の額」とは、繰越損失の大きさを判断するための基準となる、会社の資本的な基盤を表す金額です。
具体的には、貸借対照表の純資産の部に記載された「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」の合計額から、「繰越利益剰余金」を控除して計算します。
資本等の額=資本金+資本剰余金+利益剰余金-繰越利益剰余金
利益剰余金には、利益準備金や各種積立金のほか、繰越利益剰余金も含まれています。そこで、繰越利益剰余金をいったん計算から外し、繰越損失そのものを含まない状態で、比較の基準となる「資本等の額」を求めます。
なお、繰越利益剰余金がマイナスになっている場合、そのマイナス部分が「繰越損失」です。この繰越損失の額が、計算した「資本等の額」を上回っていると、経営基礎要件上の財務基準に該当します。
このように、酒販免許の審査では、貸借対照表に記載された「純資産合計」をそのまま見るのではなく、純資産の部にある各項目を使って、所定の方法で計算します。
つまり、確認されるのは、単に「赤字かどうか」ではありません。
ひとつ目は、これまでに積み重なった損失が、会社の元手となる資本等を上回るほど大きくなっていないかを見る基準です。
ふたつ目は、1期だけの赤字ではなく、会社の資本規模に対して大きな赤字が3期すべてで続いていないかを見る基準です。
したがって、1期だけ赤字になったからといって、それだけで免許を取得できなくなるわけではありません。
また、3事業年度連続で赤字であっても、各事業年度の当期純損失が、それぞれの事業年度の「資本等の額」の20%を超えていなければ、この3期連続赤字に関する基準には該当しません。
ただし、これとは別に、最終事業年度の累積損失を確認する基準があるため、「3期とも20%以下なら必ず問題ない」という意味ではありません。
実際の判定には、貸借対照表のどの項目を使うのかを確認したうえで、「資本等の額」を計算する必要があります。数字の見方に迷う場合や、基準に該当する可能性がある場合は、申請前に税務署や税理士、酒販免許を扱う専門家へ確認しておくとよいでしょう。
個人事業主や新設法人の場合
個人事業主の場合
個人の場合は、法人のような財務諸表ではなく、これまでの収支状況などを確認できる資料が確認資料となります。すでに個人事業を行っている場合には、確定申告書や青色申告決算書、収支内訳書などがその資料になります。
一方、会社員から独立して酒販ビジネスを始める場合や、副業として初めて個人で申請する場合には、過去の事業実績がないこともあります。そのような場合には、源泉徴収票など、これまでの収入状況が分かる資料の提出を求められることがあります。
個人の場合は、これまでの就業状況や事業実績によって確認資料が異なるため、「法人ではないから決算書は関係ない」と考えるのではなく、自分の場合にはどのような資料で収支状況を示すことになるのか、申請前に確認しておくとよいでしょう。
新設法人の場合
設立後まだ決算期を迎えていない法人には、過去の決算書がありません。その場合は、申請時に作成する「収支の見込み」や「所要資金の額及び調達方法」などを通じて、予定する事業の規模、必要資金、その調達方法などが確認されます。
※個人事業主と新設法人の申請手続きについては、別記事で詳しく解説します。
まとめ:財務状態の「全体像」を確認することが第一歩
酒販免許の審査における決算内容の確認は、単に「直近が黒字か赤字か」だけを見るものではありません。過去の損益の推移や現在の財政状態などから、酒類販売業を継続して営めるだけの経営基盤があるかが確認されます。
まずは自社の直近3事業年度分の決算書を開き、毎年の利益や損失がどのように推移しているか、過去の損失がどの程度残っているか、純資産がマイナスになっていないかを確認することから始めてみてください。
ただし、酒販免許の経営基礎要件では、決算書上の純資産合計をそのまま使用するのではなく、所定の方法で「資本等の額」を計算します。
次回以降は、「資本等の額」とは何か、その計算方法や繰越損失・3事業年度連続赤字の判定方法について、順を追って解説していきます。
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