はじめに:発注してからが、輸入者の本当の実務
シリーズ第6回 では、国際輸送を支えるフォワーダーの役割についてご紹介しました。
ワインを発注し、船に積み込まれたら一安心。あとは日本に着くのを待つだけ――。
初めて輸入される方は、そう思われるかもしれません。
しかし実際は、オーダーを出して、貨物が港に到着するまでの間こそ、輸入者が進めるべき準備が数多くあります。
今回はその実務についてご紹介します。
出航前に手配しておきたい、海上保険
準備の中でも、意外と見落とされやすいのが海上保険です。
輸送中にコンテナが荒天で損傷したり、思わぬ衝撃でボトルが割れたりするリスクは、決してゼロではありません。国際輸送では、こうした万一の損害に備えて海上保険を付保しておくのが基本です。
取引条件(インコタームズ)によって、輸出者側が保険を手配する場合もありますが、第4回 でも触れたとおり、ワインの取引ではFOBやEXWなど、輸入者側に海上保険の手配義務がある条件が一般的です。
無保険のまま船が出航していた、とならないよう、早めの手配確認をおすすめします。
通関業者と定温倉庫は、早めに決めておく
まず決めておきたいのが、通関業者です。
通関業者は、港での貨物の引き取りから出荷可能になるまでの一連の業務を把握し、必要な手続きを主導・代行してくれる輸入手続きの要となる存在です。
倉庫会社が通関業者を兼ねているケースも多く、また、フォワーダーが紹介してくれることもあります。
あわせて、ワインを運び込む定温倉庫も早めに決めておく必要があります。
輸入ワインの倉庫は、保税倉庫であることに加え、定温管理できることが前提となるため、対応できる倉庫は限られます。「着いてから探す」では間に合わないので、発注の段階から候補を押さえておくと安心です。
日本語ラベルの準備は最優先事項
税関の表示方法届出書
初めてワインを輸入する場合、早めに着手したい実務の一つが、日本語ラベルの準備です。
日本語ラベルは、表示項目や文字の大きさなどが細かく定められているため、実際に貼付するラベルの内容について、表示方法届出書を管轄税関へ提出し、確認を受ける必要があります。
必須表示項目には、品目、アルコール分、内容量、原材料名・添加物、輸入者の氏名・住所、20歳未満の飲酒防止表示などがあります。さらにワインは、「日本ワイン」と区別するため、「輸入ワイン」の表示や原産国名の表示も必要です。
表示方法届出の手続きは、管轄税関によって運用が異なる場合があります。初めて手続きを行う際は、税関の手引きを確認するとともに、事前教示を受けてから進めると安心です。
ラベル作成の流れ
一般的な流れは、次のようになります。
- ワイナリーから原材料リスト(イングレ)を取得
- ラベル原案を作成
- 税関へ表示方法届出書を提出・確認
- ラベル印刷
- 貨物入庫後、保税地域から引き取るまでにラベルを貼付
初回輸入の場合は、確認等に時間がかかりやすいため、早めに準備を始めておくと安心です。
次回以降も使えるラベルにしておく工夫
アルコール度数は、輸出者が現地法令に基づきボトルラベルへ表示する必須項目です。
日本語ラベルでは、これらを「アルコール分は表面ラベルに記載」などとして輸出者の表示を参照する形にしておくこともできます。
この方法であれば、輸入のたびに変わる可能性のある項目に合わせて日本語ラベルを作り直す必要がなく、ラベルをまとめて印刷できるため印刷コストを抑えやすく、同じラベルを継続して使用できるため在庫管理もしやすくなります。
通関に必要な書類を揃える
通関にあたっては、主に次のような書類が必要になります。
| 書類 | 主な用途 |
| インボイス | 通関(課税価格の確認) |
| パッキングリスト | 入庫時の数量確認 |
| B/L(船荷証券) | 貨物の引き取り |
| 原材料リスト(イングレ) | 日本語表示の作成・食品等輸入届出 |
| 成分分析表(Certificate of Analysis) | 食品等輸入届出 |
| 製造工程表 | 食品等輸入届出 |
| 原産地証明書 | 関税減免(EPA等) |
これらの書類は、貨物の入港前に通関業者へ提出し、輸入通関や食品等輸入届出などの手続きに使用します。輸出者からの取り寄せに時間がかかることもあるため、早めに依頼しておきましょう。
Arrival Noticeが届いたら、入庫準備のスタート
貨物が日本に近づくと、フォワーダーからArrival Notice(アライバル・ノーティス:貨物到着案内)が届きます。これは、船がいつ、どの港に到着するかを知らせる書類で、これを受けて通関業者(乙仲)がドレージ(陸送)を手配し、倉庫への搬入準備を進めます。
流れとしては、
フォワーダーがArrival Noticeを発行
通関業者へ連絡
ドレージ手配
倉庫への搬入
Arrival Noticeが届いてから入庫までは意外とタイトなスケジュールになることもあるため、通関業者とはこまめに連絡を取っておきたいところです。
食品等輸入届出も、必要書類を早めに揃える
酒類を輸入販売する場合は、税関への輸入申告とは別に、検疫所への食品等輸入届出が必要です。
食品等輸入届出の手続き自体は、通関業者が代行するのが一般的ですが、輸入者は届出に必要な書類をあらかじめ揃え、通関業者へ引き渡しておく必要があります。
届出の際には、原材料や成分、製造工程に関する資料として、成分分析表(SO₂やソルビン酸などの含有量を示す資料)や製造工程表の提出が求められます。輸入者としては、通関業者へ渡す前に分析表の数値を確認し、日本の基準値を満たしているかチェックしておくことが大切です。特に残糖のある甘口ワインや貴腐ワインでは、ソルビン酸の含有量にも注意しておくと安心です。
スパークリングワインの場合は、気圧(BAR)、つまり炭酸ガス圧のデータも必要です。これは食品衛生法上の届出資料であると同時に、酒税法上「発泡性を有する酒類」に該当するかどうかを判断するための資料にもなります。
なお、同じワイナリーの同じワインを継続して輸入する場合は、最初に成分分析表を提出してから1年間は、2回目以降の食品衛生法上の成分分析表の提出を省略できる場合があります。
食品等輸入届出は、貨物到着予定日の7日前から事前届出が可能です。必要書類が早めに揃っていれば、通関業者に事前届出を進めてもらうことができ、貨物到着後は速やかに輸入申告へ進められます。
急ぎの貨物では、この事前準備が輸入スケジュールの短縮につながります。
通関方法を選ぶ:一度にすべて引き取る必要はない
輸入したワインは、一度にすべて通関することもできますが、保税倉庫に保管したまま、必要な分だけ順次通関することも可能です。
一度にすべて通関する場合は、貨物全体について輸入申告を行い、関税・酒税・消費税を納付したうえで、すべてを内国貨物として引き取ります。輸入量がそれほど多くない場合や、早期に販売を開始したい場合によく選ばれる方法です。
一方、まとまった数量を輸入する場合は、保税倉庫に貨物を保管し、販売計画に合わせて必要な分だけ順次通関する方法を選ぶこともできます。この場合、酒税や消費税は実際に通関する分だけ納付すればよいため、多額の税金を一度に支払う必要がなく、資金繰りの面で大きなメリットがあります。
ただし、その都度、通関業者への依頼や通関手数料が発生するため、輸入数量や在庫計画、資金繰りなどを総合的に考えて、どちらの方法が適しているかを判断することになります。
まとめ:船が着く前こそ、輸入者は忙しい
ワイナリーにオーダーを出した後、輸入者は「待つだけ」ではありません。
ヨーロッパや南米(チリなど)は航行日数が1ヶ月以上と長いですが、オーストラリアやアメリカ西海岸など、出航から比較的短期間(2〜3週間程度)で到着する産地もあります。
その間、海上保険の手配に始まり、通関業者と倉庫の手配、日本語ラベルの準備、輸出者に連絡して必要書類を収集、そして通関依頼――。
むしろ輸入者が、船が着くまでの期間にどれだけ準備を進められるかが、貨物到着後の輸入手続きが上手くいくかを左右します。
港に貨物が到着したとき、「もう準備は終わっている」という状態をつくることが、スムーズな輸入手続きへの第一歩です。輸入は、船が着いたときではなく、オーダーを出したその日から始まっています。
ワイン輸入実務ガイド
海外で見つけたワインを日本へ輸入・販売したい方に向けて、ワイナリー探しから商談、国際輸送、通関、日本語ラベル、販売準備まで、ワイン輸入の実務を順番に解説しています。
- ワイン輸入の全体像を解説
- 「輸入酒類卸売業免許」は本当に必要? 販売先から考える酒販免許の選び方
- 輸入したいワイナリーが見つかったら、最初に確認したいポイント
- ワイナリーとの商談で確認したい9つのポイント(実務編)
- このワインは本当に売れる? ― 価格表から始まる輸入判断
- 「フォワーダーとは?」― 国際輸送を支える物流のパートナー ―
- オーダー後こそ輸入者は忙しい ― 船が着く前に進める通関準備と必要書類 ―
- 輸入ワインの検品とは? ― 入荷時に確認すべきポイント ―
- 輸入ワインの商品情報はどう作る? ― ワインの魅力を伝えるために ―
- ワインは誰に、どう売る? ― インポーターの販売戦略と価格設計の考え方 ―
- 輸入したワインを知ってもらうには? ― インポーターの販促活動 ―
- 輸入実務を任せるという選択肢― 自分が見つけたワインを日本で販売するために ―
- 「リーファーか、ドライか?」― 輸入ワイン輸送の品質管理 ―
- 輸入できなかったノンアルコールワイン ― SO2基準の改正で変わったこと ―
- 「オーガニックワイン」は日本でもそのまま表示できる? ― 有機JAS制度と輸入ワイン ―
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