【お酒の制度】ワインやビールは新しく造れるのに、日本酒は?―酒類によって違う「製造免許」

日本酒の仕込みイメージ
目次

はじめに

最近、新しいワイナリーやクラフトビールの醸造所を見かける機会が増えました。地域の素材を使ったクラフトジンや、新しいウイスキー蒸留所も各地で誕生しています。

新しい造り手が、それまでになかった味や楽しみ方を生み出しているように感じます。

ところが、日本酒は同じようにはいきません。

国内向けの清酒については、現在も製造免許に需給調整上の制限があり、新しいワイナリーやブルワリーを立ち上げるのと同じように、新しい酒蔵を始めることはできません。

同じ「お酒を造る」免許なのに、なぜこんな違いがあるのでしょうか。

今回は、普段はあまり目にすることのない「酒類製造免許」を、酒類による違いから見てみます。

お酒を造るには、酒類ごとの「製造免許」が必要

日本で酒類を製造するには、酒税法に基づく酒類製造免許が必要です。

「お酒を造る免許」が一つあるわけではなく、清酒、果実酒、ビール、ウイスキー、スピリッツなど、製造しようとする酒類の品目ごと、製造場ごとに免許を受けるのが基本です。

製造免許の審査では、申請者の法律の遵守状況、経営の基礎、製造技術、製造設備などが確認されます。

さらに、酒類ごとに「最低製造数量基準」があります。

身近な呼び方酒税法上の主な品目年間の最低製造数量基準清酒のような需給調整上の参入制限
日本酒清酒60kLあり
ワイン果実酒6kLなし
ビールビール60kLなし
ウイスキーウイスキー6kLなし
ジン主にスピリッツ6kLなし

※この表は一般的な製造免許を比較したものです。特区、試験製造、輸出用清酒などには特例があります。
また、最低製造数量を満たせば自動的に免許を取得できるわけではなく、人的要件、経営基礎、製造技術・設備などの要件も審査されます。

ここで注意したいのは、「新規参入できる」ことと「簡単に事業を始められる」ことは別だということです。

たとえばウイスキーは、蒸留設備などに相当の投資が必要ですし、製品によっては長い熟成期間も必要になります。

ワインやビールにも、それぞれ製造設備や技術、原料の確保などのハードルがあります。

それでも、これらの酒類では、清酒のように需給調整を理由として新規参入そのものを限定する仕組みにはなっていません。

ビールは、規制緩和から小さな醸造所が増えた

ビールは、製造免許制度と新しい造り手との関係が分かりやすい例です。

かつてビールの最低製造数量基準は、年間2,000kLでした。

これが1994年の酒税法改正によって60kLまで大幅に引き下げられ、小規模な醸造所が参入できるようになりました。

当初は「地ビール」と呼ばれることが多かった小規模醸造所は、その後、淘汰や品質向上の時期を経ながら、現在のクラフトビール市場へとつながっていきます。

ワインについても、通常の果実酒製造免許に加え、地域の特産果実を原料とする場合などに最低製造数量基準を緩和する構造改革特区の仕組みがあります。

つまり、私たちが各地で新しい造り手のお酒を目にする背景には、こうした製造免許制度の違いや変化もあります。

製造免許にも「需給調整要件」がある

ここからが、清酒との大きな違いです。

酒販免許の記事をお読みいただいている方は、「需給調整要件」という言葉を見たことがあるかもしれません。

実は、これは販売業免許だけの要件ではありません。

酒税法10条11号は、「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため」、製造免許または販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合を、免許の拒否要件の一つとして定めています。

この規定は、酒類製造免許と酒類販売業免許の両方に関係します。

ただし、具体的な現れ方は同じではありません。

販売業免許では、たとえば現在も全酒類卸売業免許やビール卸売業免許について、地域ごとの販売数量などから「免許可能件数」を定める仕組みがあります。

一方、製造免許では、清酒など一部の酒類について、需給調整の観点から新たに製造免許を付与する場合そのものが限定されています。

したがって、清酒の場合には、

「年間60kLを製造できる見込みがあるか」という最低製造数量基準

と、

「そもそも新たな製造者の参入を認める場合に当たるか」という需給調整要件

を分けて考える必要があります。

60kL造れる設備と事業計画があれば、新しい酒蔵を自由に始められる、という仕組みではないのです。

なお、こうした需給調整措置が残っているのは清酒だけではありません。
合成清酒、焼酎の一部、みりんなどについても、それぞれ需給調整上の取扱いが定められています。

なぜ清酒には、こうした仕組みが残っている?

この違いを理解するには、日本酒と酒税の歴史を少し振り返る必要があります。

明治期、酒税は国の税収を支える非常に重要な税でした。

酒類製造者は酒税の納税義務者でもあります。そのため国にとって、酒造業者の経営が安定し、酒税を確実に納められることは、現在よりはるかに大きな意味を持っていました。

酒税と酒類行政の歴史については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。

その後、清酒については需給を調整する仕組みが発達し、戦時期には原料米の統制などとともに、さらに強い生産統制が行われます。

戦後も清酒業界では、長く生産数量を調整する仕組みが続きました。

その後、生産数量そのものに対する規制は段階的に自由化されます。

しかし、「どれだけ造るか」という生産数量の規制がなくなった後も、「新しい製造者を市場に入れるか」という製造免許段階の需給調整は残りました。

現在の国税庁の通達でも、新たな免許によって酒類の需給の均衡が崩れ、生産・販売に混乱が生じ、製造者や販売業者の経営基盤が危うくなることで、酒税の保全に悪影響を及ぼす場合を、需給調整要件の対象としています。

このように、現在の清酒製造免許の仕組みには、清酒の生産や需給が長く調整されてきた歴史的な経緯があります。

一方、現在の制度上は、新たな製造免許によって酒類の需給の均衡が崩れ、製造者や販売業者の経営基盤が危うくなり、酒税の保全に悪影響を及ぼすことを防ぐという考え方のもと、清酒についても需給調整上の措置が設けられています。

清酒とは別の入口から始まる、新しい酒造りも

国内向けの清酒そのものを新たに造ることには、現在も需給調整上の制限があります。

一方で近年は、米や米こうじを使い、日本酒の醸造技術を土台としながら、清酒とは異なる原料を取り入れるなどして、「その他の醸造酒」として新しい酒造りに取り組む小規模な造り手も登場しています。

こうした酒は「クラフトサケ」などと呼ばれることもありますが、酒税法上は清酒とは別の品目です。

清酒への新規参入が制限されるなか、こうした別の品目から新しい酒造りが生まれていることも、現在の製造免許制度を考えるうえで興味深い動きです。

2021年、「輸出用」には新しい入口ができた

清酒とは別の品目として新しい酒造りに取り組む動きがある一方、清酒そのものについても、新たな造り手が参入できる別の入口が設けられています。

輸出用清酒製造免許です。

2020年度の税制改正によって創設され、2021年4月から申請できるようになりました。

この免許では、輸出する清酒に限って、通常の清酒製造免許にある年間60kLの最低製造数量基準を適用しません。

そのため、新たな製造場を設け、少量・高付加価値の清酒を製造して海外へ輸出することも制度上可能になりました。

国税庁は、この制度について、日本酒の輸出拡大を後押しするとともに、高付加価値商品を少量から製造できる製造場の新設を可能にし、「日本酒」のブランド価値の確保・向上を図るものと説明しています。

ただし、この免許には「輸出するために製造するものに限る」という条件が付きます。

つまり、国内向けの清酒については、従来の需給調整の仕組みを維持する。

その一方で、輸出用については、新しい造り手が参入できる別の入口を設ける。

現在は、このような制度になっています。

まとめ―同じ「造る免許」でも、入口はかなり違う

ワイン、ビール、ウイスキー、ジン、そして日本酒。

消費者から見れば、どれも造り手が工夫を重ねて生み出す「お酒」ですが、製造免許の仕組みを見てみると、新しい造り手が参入するための入口は同じではありません。

設備投資が大きい、製造に高度な技術が必要、熟成に時間がかかる――そうした事業として酒を造る難しさと、免許制度として新規参入そのものを制限していることも、分けて考える必要があります。

清酒について現在も需給調整上の制限が残っている背景には、酒税と酒造業をめぐる長い歴史があります。
一方、輸出用清酒には新しい制度が設けられるなど、その仕組みにも変化が見られます。

当事務所では、酒類製造免許の申請業務は取り扱っていませんが、酒類の流通や販売について考えるうえでも、そのお酒がどのような制度のもとで造られているのかを知ることは、酒類制度全体を理解する一つの手がかりになります。

今回は、普段は販売する側から見ることの多い酒類の免許制度を、その一つ前にある「造る」という入口から見てみました。


参考資料
本記事の作成にあたっては、主に次の資料を参照しています。


ワインお酒のビジネス、制度、歴史について知りたい方はこちら

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酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。

当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。


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この記事を書いた人

横浜の酒類販売業免許専門の行政書士。
「桜並木行政書士オフィス」を運営。
20年以上にわたり、ワインインポーターで輸入貿易実務や販促・企画業務などを経験。現場経験と法律の両面からワインビジネスをサポートします。

■保有資格
J.S.A.ソムリエ
WSET® Level 3 Award in Wines

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