【日本ワイン】「日本ワイン」はいつ生まれた?―「国産ワイン」から表示ルールが整うまで

ワイン産地の余市をイメージした画像
目次

「日本ワイン」は、昔から今と同じ意味だった?

日本人がワインを飲むようになるまでには、甘味葡萄酒から始まり、輸入ワイン、千円ワイン、ボジョレー・ヌーヴォー、赤ワインブームなど、さまざまな時代がありました。

その一方で、日本で造られるワインも、長い時間をかけて変わってきました。

ワインショップに行けば、今では「日本ワイン」という言葉を当たり前のように見かけます。

山梨の甲州、北海道のピノ・ノワール、長野のメルローなど、産地やぶどう品種を意識して日本ワインを選ぶ方も増えています。

ところが、「日本で造られたワイン=日本ワイン」ではありません。

現在のルールでは、日本国内で収穫されたぶどうのみを原料として、国内で製造されたワインが「日本ワイン」です。

では、なぜわざわざ「日本ワイン」という区分を設ける必要があったのでしょうか。

その背景をたどっていくと、日本のぶどうから造られるワインの品質向上、生産者の広がり、海外への展開、そして産地を守る制度の整備へとつながっていきます。

かつての「国産ワイン」は、今の「日本ワイン」と同じではなかった

以前は、日本国内で製造されたワインが広く「国産ワイン」と呼ばれていました。

しかし、その原料がすべて日本で栽培されたぶどうだったとは限りません。

国内で収穫されたぶどうから造ったワインだけでなく、輸入した濃縮ぶどう果汁や輸入ワインなどを原料として、日本国内で製造されたワインもありました。

もちろん、輸入原料を使用して国内でワインを製造すること自体が問題なのではありません。

問題は、日本のぶどうだけから造られたワインなのか、輸入原料を使用して国内で製造されたワインなのかが、消費者にとって分かりにくかったことです。

ワイン業界では1980年代から自主的な表示基準が設けられていましたが、当時は現在のような国による公的なワインの表示基準はありませんでした。

現在の制度で整理すると、国内で製造されるワインの中に「日本ワイン」がある、という関係になります。

国内製造ワイン

  • 日本ワイン
    国内で収穫されたぶどうのみを使用し、国内で製造
  • その他の国内製造ワイン
    輸入原料などを使用して国内で製造

この区別が公的なルールとして明確になったのは、実はそれほど昔のことではありません。

日本のぶどうから造るワインが変わっていった

その一方で、日本のぶどうから造られるワインそのものも変わっていきました。

日本は雨が多く、高温多湿になりやすい地域も多いため、ワイン用ぶどうの栽培に必ずしも恵まれた環境とはいえません。

現在でも、病害への対策や成熟期の高温など、日本ならではの難しさがあります。

それでも、日本の気候の中で良質なワインを造るため、さまざまな工夫が積み重ねられてきました。

その土地に適したぶどう品種や栽培地を選ぶこと、収量を調整すること、葉や房を管理して日照や風通しを確保すること、収穫時期を見極めること。

さらに醸造の段階でも、発酵温度の管理、酵母の選択、酸化防止、衛生管理など、技術や設備が向上していきました。

大学や研究機関によるぶどう栽培・醸造の研究や、生産者への技術支援も続けられてきました。

つまり、日本の気候がワイン造りに適したものへ変わったのではなく、日本の気候の中で良いワインを造るための技術と経験が蓄積されてきたと考えた方がよいのかもしれません。

ワインを造る人たちも増えていった

こうした変化とともに、日本国内でワインを造る生産者も増えていきました。

国税庁の調査では、2018年度には国内のワイナリーが331場とされていました。その後も各地でワイン造りは広がり、令和7年の調査では、一定の条件により対象外となる製造場を除いたワイン製造業の実態調査の対象は519場となっています。

かつては山梨など一部の産地や大手メーカーのイメージが強かった日本のワイン造りですが、現在では北海道、東北、長野、新潟、西日本など、さまざまな地域でワインが造られています。

新しいワイナリーが生まれ、それぞれの土地の気候や土壌に合う品種や栽培方法を探る取り組みも広がってきました。

日本ワインは、一部の産地だけのものではなく、少しずつ全国へ裾野を広げていったのです。

日本ワインが世界へ向かい始める

日本ワインを取り巻く動きを年代で追ってみると、2000年代以降、大きな変化が続いていることが分かります。

2003年 国産ワインコンクールが始まる

2010年 甲州が国際ブドウ・ワイン機構(OIV)に登録


2013年 マスカット・ベーリーAがOIVに登録


2013年 ワインの地理的表示「山梨」が指定


2015年 「国産ワインコンクール」が「日本ワインコンクール」へ名称変更


2015年 「果実酒等の製法品質表示基準」が制定


2018年10月30日 同基準が適用

なお、2003年に始まった「国産ワインコンクール」は、2015年から「日本ワインコンクール」へ名称を変更しています。もともとこのコンクールは、国産ぶどうを100%使用したワインを対象としていました。

興味深いのは、この名称変更と同じ2015年に、国税庁の「果実酒等の製法品質表示基準」が制定され、「日本ワイン」が公的にも定義されたことです。

国による定義に先立って、国産ぶどう100%のワインを対象とするコンクールでも、「日本ワイン」という名称が使われ始めていたことになります。

甲州やマスカット・ベーリーAがOIVに登録されたことにより、EUへ輸出するワインのラベルにも、これらの品種名を表示できるようになりました。

日本のワインを国内だけでなく海外へ発信していく段階になると、別の問題も見えてきます。

そもそも「日本ワイン」とは、どのようなワインなのか。

  そして

そのワインに表示された産地やぶどう品種は、何を根拠としているのか。

日本のワインを世界に説明していくためにも、こうした点を明確にする必要が出てきました。

なぜ「日本ワイン」を定義する必要があった?

「日本ワイン」を明確にする必要性には、大きく二つの側面がありました。

一つは、国内の消費者にとって分かりやすい表示にすることです。

日本のぶどうだけから造られたワインなのか、輸入原料を使用して国内で製造されたワインなのか。

原料の違いがラベルから分かれば、消費者はそれを踏まえて商品を選ぶことができます。

もう一つは、日本ワインを国際的にも説明できるようにすることです。

ワインの世界では、どこで収穫されたぶどうなのか、どの品種なのか、いつ収穫されたのかといった情報が、ワインを理解するための重要な要素になっています。

日本ワインの国際的な認知度を高めていくためにも、国際的なルールを踏まえた表示制度を整える必要がありました。

2015年、「日本ワイン」が公的に定義された

こうした背景の中で、2015年10月に国税庁が「果実酒等の製法品質表示基準」を制定しました。

この基準によって、国内で収穫されたぶどうのみを使用して国内で製造されたワインが「日本ワイン」として公的に定義されました。

さらに、日本ワインについては、ぶどうの収穫地、醸造地、ぶどう品種、収穫年などを表示する場合のルールも定められました。

基準が制定されてすぐにすべてが切り替わったわけではありません。

それまで使われてきた商品名やラベルへの対応なども必要だったため、3年間の経過期間が設けられ、2018年10月30日から適用されています。

現在では当たり前に見える「日本ワイン」という表示も、こうした経緯を経て生まれたものです。

「日本ワイン」から「地域のワイン」へ――GI

さらに、日本ワインの制度を考えるうえでもう一つ重要なのが、GI(Geographical Indication:地理的表示)です。

欧州では古くから、ワインの産地とその土地ならではの品質や特性を結び付け、産地名を保護する制度が発達してきました。

フランスのAOC・AOPやイタリアのDOC・DOCGなどがよく知られています。
現在はEUのPDO(原産地名称保護)などの制度のもとで、こうした地理的表示が保護されています。

日本でも、こうした地理的表示の考え方を取り入れ、酒類について産地名を保護する制度が整備されてきました。

ワインでは、2013年に「山梨」が指定され、その後「北海道」「山形」「大阪」「長野」もGIとして指定されています。

GIを名乗るワインには、それぞれの地域について定められた生産基準があります。

現在の制度では、「日本ワイン」という大きな枠組みの中で、さらに地域の気候・風土やぶどう品種などと結び付いたワインを、GIによって地域の名称とともに示していく仕組みになっています。

まとめ――表示ルールから見えてくる、日本ワインの歩み

「果実酒等の製法品質表示基準」は、一見すると、ワインのラベルに何を表示するかを定めたルールに見えます。

しかし、その背景をたどってみると、日本のぶどうから造られるワインの品質向上、生産者の広がり、栽培・醸造技術や研究の蓄積、そして海外への展開という、日本ワインそのものの変化が見えてきます。

そうした中で、「日本ワインとは何か」を明確にし、その原料や産地、品種などを国内外の消費者に正しく伝えるための仕組みが必要になっていきました。

現在では「日本ワイン」という大きな枠組みに加えて、それぞれの地域の個性を示すGIも広がっています。

表示制度の整備だけでなく、ワイナリーの増加や各地の産地づくりなど、この十数年の日本ワインを取り巻く変化については、こちらの記事で詳しく紹介しています。

では、日本ワインのラベルに「山梨」「甲州」「2025年」などと表示するには、どのような条件があるのでしょうか。

こちらの記事では、「果実酒等の製法品質表示基準」の具体的な表示ルールを整理しています。


参考資料
本記事の制度の沿革や日本ワインの表示ルールについては、主に次の資料を参照しています。


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この記事を書いた人

横浜の酒類販売業免許専門の行政書士。
「桜並木行政書士オフィス」を運営。
20年以上にわたり、ワインインポーターで輸入貿易実務や販促・企画業務などを経験。現場経験と法律の両面からワインビジネスをサポートします。

■保有資格
J.S.A.ソムリエ
WSET® Level 3 Award in Wines

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