【日本ワイン】ラベルの「産地・品種・収穫年」はどう決まる?―100%と85%の表示ルール

日本ワインイメージ
目次

はじめに

前回の記事では、「日本ワイン」という言葉がどのように生まれ、現在の表示ルールが整えられてきたのかを見てきました。

では、日本ワインであれば、ラベルに産地やぶどう品種、収穫年を自由に表示できるのでしょうか。

実は、「日本ワイン」と表示するための条件と、そのラベルに地名・ぶどう品種・収穫年を表示するための条件は同じではありません。

そのポイントになる数字は、「100%」と「85%」です。

「日本ワイン」は100%、その先の表示は85%

まず、前回のおさらいです。

「日本ワイン」と表示するためには、国内で収穫されたぶどうを100%使用し、国内で製造することが必要です。

たとえば、山梨県産ぶどう85%+長野県産ぶどう15%で国内製造したワインなら、すべて国内産ぶどうなので「日本ワイン」です。

一方、山梨県産ぶどう85%+フランス産ぶどう15%で国内製造しても、「日本ワイン」にはなりません。

ここには「外国産ぶどうが15%までなら大丈夫」という85%ルールはありません。

そして、100%国産ぶどうで造られた日本ワインになったうえで、今度はラベルに地名・ぶどう品種・収穫年などを表示するときに、「85%」という数字が登場します。

つまり、

  • 「日本ワイン」になるためには100%。
  • 日本ワインに地名・品種・収穫年を表示するときには、85%が一つの基準。

と考えると分かりやすいでしょう。

ラベルの「山梨・甲州・2025」は何を意味している?

たとえば、日本ワインのラベルに、

山梨 甲州 2025

と表示されていたとします。

ワインを飲み慣れている人なら、ごく普通に目にする表示でしょう。

しかし、この3つは単なる商品説明ではありません。

「山梨」=地名
「甲州」=ぶどう品種
「2025」=ぶどうの収穫年

それぞれについて、表示するための条件が定められています。

順番に見てみましょう。

「甲州」と表示できるのは、甲州を何%使ったワイン?

一つのぶどう品種をラベルに表示する場合、その品種を85%以上使用していることが基本です。

したがって、甲州を85%以上使用した日本ワインであれば、「甲州」と表示することができます。

100%でなくてもよい、というところがポイントです。

また、複数の品種を使ったワインには別のルールがあります。

2品種を表示する場合は、表示する2品種の合計が85%以上で、使用量の多い順に表示します。

3品種以上を表示する場合も、表示する品種の合計が85%以上であることが必要ですが、さらに使用量の多い順に表示し、それぞれの使用割合も併記します。

つまり、少量でも使っていれば、好きな品種名を自由に表ラベルへ並べられるわけではありません。

「2025」と書いてあれば、すべて2025年産?

収穫年、いわゆるヴィンテージの表示にも85%という基準があります。

たとえば、2025年に収穫したぶどう90%+2024年に収穫したぶどう10%で造られたワインでも、「2025」と表示することができます。

表示する年に収穫されたぶどうが85%以上使われていれば、その収穫年を表示できるためです。

「2025」と書かれているからといって、必ずしも原料ぶどうの100%が2025年に収穫されたもの、という意味ではないわけです。

地名の表示は、もう少し複雑

品種と収穫年に比べると、地名の表示は少し複雑です。

日本ワインのラベルに表示される地名には、大きく分けると、

  • ワインの産地名
  • ぶどうの収穫地名
  • ワインの醸造地名

があります。

同じ地名が書かれていても、何を示しているのかによって意味が違います。

ここからは、架空の町――「桜並木町」を例に考えてみましょう。🌸

「桜並木ワイン」と表示するには?

桜並木町にぶどう畑とワイナリーがあるとします。

そこで、桜並木町産ぶどう90%+他地域の国産ぶどう10%を使い、さらに桜並木町内で醸造したとします。

この場合は、「桜並木ワイン」のように、桜並木をワインの産地として表示することができます。

ワインの産地名を表示するには、その地域で収穫されたぶどうを85%以上使用していることに加えて、その地域内で醸造していることが必要だからです。

ここでも、国産ぶどう100%だから「日本ワイン」そのうち、桜並木町産ぶどうが85%以上+桜並木町で醸造しているから「桜並木ワイン」という二段階で考えると分かりやすくなります。

ぶどうは桜並木町産、でも別の場所で醸造したら?

では、桜並木町産ぶどう90%+他地域の国産ぶどう10%を使っているものの、ワインを醸造したのは桜並木町ではなかったらどうでしょう。

この場合、「桜並木」をワインの産地名として表示することはできません。

一方、ぶどうの85%以上は桜並木町で収穫されていますので、「桜並木産ぶどう使用」など、ぶどうの収穫地として桜並木を表示することはできます。

つまり、「どこのぶどうなのか」と、「どこでワインにしたのか」は、表示ルール上も別々に考えられているのです。

ぶどうは町外産、桜並木町で醸造したら?

反対のケースもあります。

たとえば、長野県産ぶどう100%を桜並木町へ運び、町内のワイナリーで醸造したとします。

国産ぶどう100%で国内製造ですから、このワインも「日本ワイン」です。
しかし、ぶどうは桜並木町産ではありません。

この場合には、

「桜並木醸造ワイン」

「桜並木で造ったワイン」

など、桜並木を醸造地として表示することができます。

ただし、「桜並木」がぶどうの収穫地でもあると誤解されないよう、その旨が分かる表示も必要になります。

都市部のワイナリーなどでは、ぶどうの産地とワインを醸造する場所が離れていることもあります。

ラベルを見るときには、地名が書いてあるというだけでなく、その地名が「ぶどうの産地」を示しているのか、「醸造した場所」を示しているのかを見ることも大切です。

地元のぶどうが不作で、60%しか使えなかったら?

もう一つ、桜並木町で考えてみましょう。

ある年、町内のぶどうが不作になり、桜並木町産ぶどう60%+他地域の国産ぶどう40%でワインを造ることになりました。

醸造はいつもどおり桜並木町内です。

この場合、桜並木町産ぶどうは85%に届きません。

そのため、「桜並木」をワインの産地名やぶどうの収穫地名として表示するための85%基準は満たしません。

一方、実際に桜並木町で醸造しているので、「桜並木醸造ワイン」のように、醸造地としての「桜並木」を表示することはできます。ただし、この場合も、桜並木がぶどうの収穫地と誤解されないような表示が必要です。

同じワイナリーで造るワインでも、その年のぶどうの調達状況によって、地名をどのような意味で表示できるのかが変わることがあるのです。

なぜ「85%」なの?

ここまで、地名、ぶどう品種、収穫年に「85%」という数字が何度も登場しました。

では、なぜ85%なのでしょうか。

これは、日本だけで独自に決めた数字というわけではありません。

EUのワインの地理的表示制度でも、「85%」という数字が使われています。

EUでは、PGI(地理的表示保護)のワインについては、原料ぶどうの85%以上がその地域で収穫されたものであることが求められます。一方、より原産地との結び付きが強いPDO(原産地呼称保護)では、その地域で収穫されたぶどうを100%使用することが求められます。

日本の表示基準を検討した国税審議会の資料でも、国際的なルールとの整合性、日本のぶどう生産事情、それまでの業界の自主基準などを踏まえて制度が検討されたことが示されています。

そのため、日本の制度とEUのPDO・PGIがそのまま対応するわけではありませんが、「85%」という数字は、日本だけで独自に設けられた基準ではありません。

お土産用のOEMワインなら「桜並木ワイン」にできる?

ここで少し、ワインを「造る側」の視点から考えてみましょう。

桜並木町が観光地で、町のお土産店がオリジナルワインを販売したいとします。

ただし、町にはワイナリーがないため、ぶどうは山梨県産、醸造も山梨県内のワイナリーに委託し、完成したワインをOEM商品として販売することにしました。

観光地のお土産では、別の地域でOEM製造されたお菓子などに、その土地にちなんだ商品名を付けて販売することも珍しくありません。

その感覚で、「桜並木町のお土産なのだから、『桜並木ワイン』にしよう」と考えてしまいそうです。

しかし、ワインには地名表示について独自のルールがあります。

桜並木町は、このワインのぶどうの収穫地でも醸造地でもありません。

そのため、「町のお土産として企画・販売する」ということだけで、ワインの産地を表すように「桜並木ワイン」と表示できるわけではありません。

また、地名を含む商品名や商標についても表示基準との関係を確認する必要があります。

OEMで「ご当地ワイン」を企画する場合には、ラベルを作ってしまってからではなく、商品名を決める段階で表示ルールを確認しておきたいところです。

「山梨」と「GI山梨」は同じではない

もう一つ、地名表示について知っておきたいのがGI(地理的表示)です。

日本ワインの一般的な表示ルールでは、山梨県産ぶどうを85%以上使用し、山梨県内で醸造するなどの条件を満たせば、「山梨」をワインの産地として表示できます。

一方、「GI山梨」では、山梨県産ぶどうを100%使用することが求められます。

しかも、山梨県産であればどんなぶどうでもよいわけではありません。使用できる品種が定められているほか、原料ぶどうの果汁糖度、山梨県内での製造・貯蔵・容器詰めなど、GI山梨独自の生産基準を満たす必要があります。

さらに、品種名の表示についても、GI山梨独自の基準があります。

たとえば、一般の日本ワインでは、甲州を85%以上使用すれば「甲州」と単一品種名を表示できます。

これに対して、GI山梨で「甲州」と表示する場合には、甲州を100%使用することが求められます。

つまり、同じ「山梨」「甲州」という表示でも、GI山梨には、通常の日本ワインとは別の、より細かな生産基準が設けられているのです。

ここまでを整理すると、

  • 日本ワイン  国産ぶどう100%
  • 「山梨」と産地表示  山梨県産ぶどう85%以上+山梨県内で醸造
  • 日本ワインに「甲州」と品種表示  甲州85%以上
  • 「GI山梨」  山梨県産ぶどう100%+GI山梨の生産基準
  • GI山梨で「甲州」と表示  甲州100%

という違いがあります。

なお、GIの生産基準は地域ごとに定められています。

「GIなら産地のぶどう100%」「品種も100%」という共通ルールではありません。ここで紹介した100%という基準は、GI山梨について定められているものです。

まとめ――ラベルを見ると、ワインの履歴が見えてくる

日本ワインのラベルに書かれた地名、ぶどう品種、収穫年。

普段は何気なく見ている表示ですが、それぞれに意味があります。

まず、

国産ぶどう100%+国内製造

だから「日本ワイン」。

そのうえで、地名・ぶどう品種・収穫年には、85%という基準が登場します。

そして地名については、

どこでぶどうを収穫したのか

どこでワインを醸造したのか

によって、表示できる内容も変わります。さらに、GIとして指定された地域では、それとは別に地域ごとの生産基準があります。

たとえばGI山梨では、山梨県産ぶどうを100%使用することが求められるなど、一般的な産地表示よりも厳しい条件が定められています。

こうした表示制度やGIの整備は、各地で進んできた産地づくりとも関係しています。
この十数年、日本ワインを取り巻く環境がどのように変わってきたのかについては、こちらの記事で整理しています。

表示ルールを知ってからワインのラベルを見ると、そこに書かれた地名や品種、ヴィンテージから、そのワインがどこで生まれ、どのように造られたのかを少しずつ読み取れるようになります。


参考資料
本記事の日本ワインの表示ルールや地理的表示(GI)については、主に次の資料を参照しています。


ワインお酒のビジネス、制度、歴史について知りたい方はこちら

ワインとお酒を、ビジネス、制度、歴史など、気になるテーマを掘り下げます。
興味のあるテーマからご覧ください。

酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら

酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。


酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。

当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。


\まずはお気軽にお問合せください/

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

横浜の酒類販売業免許専門の行政書士。
「桜並木行政書士オフィス」を運営。
20年以上にわたり、ワインインポーターで輸入貿易実務や販促・企画業務などを経験。現場経験と法律の両面からワインビジネスをサポートします。

■保有資格
J.S.A.ソムリエ
WSET® Level 3 Award in Wines

⇩ 事務所の詳細はこちらから

目次