はじめに:賃貸借契約書があれば大丈夫?
酒販免許を取得するためには、酒類を販売する拠点となる「販売場」が必要です。
店舗や事務所、レンタルオフィスなどを借りて販売場とする場合には、申請時に賃貸借契約書など、その場所を使用できることが分かる書類を提出します。
では、自分が契約した賃貸借契約書があれば、それで十分なのでしょうか。
実は、物件によってはそれだけでは足りないことがあります。
たとえば、契約書に記載された貸主と、登記上の建物所有者が異なっている場合です。
このような場合には、「誰と契約したか」だけではなく、建物所有者から申請者まで、どのような権利関係になっているのかを確認する必要が出てきます。
なぜ酒販免許では、そこまで確認するのでしょうか。
その理由を理解するには、まず、酒販免許が「販売場ごと」に付与される免許であることから考えると分かりやすくなります。
まず確認するのは、「どこが販売場なのか」
酒販免許の申請では、販売場について土地・建物の登記事項証明書を提出します。
また、申請書には住居表示だけでなく土地登記上の「地番」を記載し、申請販売場の建物が複数の土地にまたがっている場合には、すべての地番を記載します。
さらに、図面によって販売場の位置や建物の配置なども示します。
なぜ、これほど場所について細かく確認するのでしょうか。
酒類販売業免許は、申請者である個人や法人に対して一つだけ付与されるものではなく、「販売場ごと」に受ける免許だからです。
そのため、まずは「今回、免許を受けようとしている販売場はどこなのか」を客観的に特定する必要があります。
同じ土地・同じ建物でも、販売場は別になることがある
販売場の特定を考えるときは、
土地(地番)
建物
販売場となる区画
と考えると分かりやすいでしょう。
たとえば、大規模な商業施設では、一つの建物の中に多くの店舗が入っています。
同じ土地、同じ建物の中にあるからといって、建物全体が一つの販売場になるわけではありません。
国税庁の通達では、建物の一部を借りて営業するテナント店の場合には、その「賃借等している場所」を販売場として取り扱うこととされています。
レンタルオフィスについても、建物全体ではなく、実際に販売場として使用する場所を明確にする必要があります。
「○○ビル」という建物だけではなく、その中のどの区画を販売場として使用するのかを明らかにする必要があります。
つまり、土地の地番が同じであっても、建物が同じであっても、販売場となる場所はそれぞれ別に特定されることがあります。
次に確認するのが、「その場所を本当に使えるのか」
販売場となる場所が特定できたら、次に問題になるのが、申請者がその場所を販売場として確実に使用できるのかという点です。
自己所有の物件であれば比較的分かりやすいですが、賃貸物件では契約関係の確認が必要になります。
たとえば、
建物所有者A
賃貸
申請者B
という関係であれば、それほど複雑ではありません。
ところが、レンタルオフィスなどでは、
建物所有者A
賃貸
レンタルオフィス運営会社B
転貸・利用契約
申請者C
という関係になっていることがあります。
申請者Cが持っているのは、通常、レンタルオフィス運営会社Bとの契約書です。
しかし、その契約書だけでは、Bが建物所有者Aからその場所を借り、さらにCに使用させることのできる立場にあるのかまでは確認できない場合があります。
そこで、建物の登記上の所有者と契約書に記載された貸主を確認し、所有者から申請者までの契約関係を確認する必要が出てきます。
国税庁の手引でも、転貸の場合には、所有者から申請者までの賃貸借契約書等の写しを添付することとされています。
酒販免許で見ているのは「契約書」だけではない
ここまでを整理すると、酒販免許の販売場については、大きく二つのことを確認していることが分かります。
一つは、「どこが販売場なのか」という場所の特定です。
もう一つは、「その場所を申請者が確実に使用できるのか」という点です。
このように、その場所を使用する法的な根拠となる権利を「使用権原(しようけんげん)」といいます。
そのために、登記事項証明書、販売場の図面、賃貸借契約書など、複数の資料を使って確認していくことになります。
したがって、登記を確認する目的を、単純に「所有者から使用承諾書をもらうため」と考えるのは適切ではありません。
まず免許の対象となる販売場を特定し、そのうえで、賃貸物件であれば契約関係を確認して、その場所を確実に使用できることを確認する。
この二つは分けて考える必要があります。
原契約書をそのまま開示してもらえるとは限らない
もっとも、所有者から申請者までの契約関係を確認するといっても、実務ではそれほど単純ではありません。
たとえば、レンタルオフィス運営会社と建物所有者との賃貸借契約書には、賃料など、利用者には開示しにくい情報が含まれていることがあります。
小さな一区画を利用する申請者のために、運営会社が所有者との原契約書をそのまま開示してくれるとは限りません。
そのような場合には、契約書の必要部分や、転貸承諾書、そのほか運営会社にその場所を使用させる権限があることを確認できる資料などによって対応できないかを検討することになります。
ただし、原契約書を提出できない場合に、どのような資料であれば代わりになるのかについて、一律の基準が示されているわけではありません。
具体的な権利関係や契約内容によって必要となる資料は異なる可能性があるため、判断が難しい場合には、管轄税務署への個別確認が必要です。
「所有者を確認する」=「所有者全員から使用承諾書をもらう」ではない
ここでもう一つ、区別しておきたいことがあります。
「所有者まで確認する」と聞くと、「それなら、登記に載っている所有者全員から使用承諾書をもらわなければならないの?」と思うかもしれません。
しかし、所有者を確認することと、所有者全員から使用承諾書を取得することは同じではありません。
不動産の権利関係はさまざまです。
土地が複数人の共有になっていることもあれば、土地所有者と建物所有者が異なる場合もあります。
大規模な商業施設などでは、複数の土地所有者、建物所有者、施設運営会社、管理会社、テナントなど、多くの関係者が存在することもあります。
酒販免許の申請では土地・建物の登記を確認しますが、少なくとも国税庁の手引等では、登記上の土地・建物の所有者全員から一律に使用承諾書を取得することまでは示されていません。
どのような契約書や使用承諾書、転貸承諾書などが必要になるかは、実際の権利関係に応じて確認する必要があります。
レンタルオフィスなら、契約前に確認しておきたい
この問題は、特にレンタルオフィスを販売場として利用しようとする場合には注意が必要です。
レンタルオフィスを酒販免許の販売場として利用する場合の確認ポイントについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。

レンタルオフィスを探すときには、
- 「個室になっているか」
- 「法人登記ができるか」
- 「郵便物を受け取れるか」
といった点に目が向きやすいかもしれません。
しかし、酒販免許の販売場として利用するのであれば、もう一つ確認しておきたいことがあります。
それが、酒販免許の申請に必要となった場合、所有者から自分までの使用権原を確認できる資料を提供してもらえるかという点です。
契約してから酒販免許の申請を始め、そこで初めて運営会社に資料を依頼したところ、「所有者との契約関係に関する資料は開示できません」と言われてしまうと、申請準備が進まなくなる可能性があります。
必要な資料を用意できないことが契約後に分かると、最悪の場合、販売場探しからやり直す必要に迫られることもあります。
レンタルオフィスを販売場として検討する場合には、契約前に酒販免許の申請を予定していることを伝え、必要になった場合に権利関係を確認できる資料の提供に協力してもらえるか確認しておくと安心です。
まとめ:物件は、場所や賃料だけで決めない
酒販ビジネスの販売場を探すときには、立地、賃料、広さ、使いやすさなど、さまざまな条件を比較することになります。
もちろん、これらはどれも大切です。
しかし、酒販免許を取得して事業を始めるのであれば、「その場所を販売場として確実に使用できるか」という視点も欠かせません。
賃貸借契約書があるから大丈夫と思っていても、登記上の所有者と貸主が異なっていたり、転貸によって契約関係が複雑になっていたりすることがあります。
また、店内での飲食など、免許取得後に予定している事業内容によっては、物件の契約条件が将来の事業展開に影響することもあります。
契約後に問題が分かると、契約内容の変更や追加資料の準備が必要になり、場合によっては販売場そのものを見直さなければならなくなることもあります。
物件を決める前に、そこでどのような酒販ビジネスを行う予定なのかを整理し、契約内容や権利関係、免許申請に必要となる資料まで確認しておくことが大切です。
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