【酒販免許】個人事業主?それとも法人?―酒販ビジネスだからこそ最初に考えておきたいこと

酒販ビジネスを始めるにあたり、個人事業主で開業するか、法人で開業するかを考えている
目次

はじめに

ワインショップや酒類販売事業を始めようと思ったとき、多くの方が一度は考えるのが、

「個人事業主として始めるか、それとも最初から法人を設立するか」

という問題です。

一般的には、税金や社会保険、開業コストなどの違いから比較されることが多いでしょう。

しかし、酒販ビジネスでは、それに加えてもう一つ考えておきたいことがあります。

それが酒販免許です。

酒販免許は、一度取得すれば、事業の形を変えてもそのまま使い続けられるものではありません。

そのため、これから酒販ビジネスを始める場合には、税務や会計だけでなく、将来の酒販免許の扱いまで含めて、個人で始めるか法人で始めるかを考えておくことが大切です。

個人でも法人でも、酒販免許は取得できる

酒販免許は、個人事業主でも法人でも取得できます。

したがって、

「小さく始めるなら個人でなければならない」
「酒販免許を取るなら法人にしなければならない」

ということではありません。

それぞれ、次のようなケースが考えられます。

個人事業主から始める例最初から法人で始める例
まずは小規模に始めたい将来的に事業規模を大きくしたい
副業としてスタートしたい従業員を雇用する予定がある
市場の反応を見ながら育てたい輸入や卸売まで視野に入れている
開業時の負担を抑えたい取引を最初から法人名義で整えたい

ただし、これはあくまで考える材料の一つです。

「どちらが有利か」ではなく、「これからどのような事業を作りたいのか」から考えることが重要です。

※ 個人事業主で酒販ビジネスを始める場合の注意点はこちらで解説しています。

酒販免許は「事業」ではなく「事業者」に与えられる

酒販免許を考えるうえで、まず知っておきたいのがこの点です。

酒販免許は、お店やブランドそのものではなく、免許を受けた個人または法人という事業者について効力を持つものです。

そのため、個人事業主として取得した酒販免許を、後から設立した法人へそのまま引き継ぐことはできません。

国税庁も、個人の免許者が法人組織へ変更した場合には、法人として改めて新規申請によって免許を受ける必要があるとしています。

つまり、「個人の酒販免許の名義を法人へ変更する」という単純な手続ではありません。

「まず個人で、軌道に乗ったら法人化」もできる

一般的な開業案内では、

「まずは個人事業主として始め、事業が大きくなった段階で法人化する」

という方法がよく紹介されています。

酒販ビジネスでも、この方法を選ぶことはできます。

例えば、

個人でワインショップを開業

数年間営業

売上や取引先が増える

株式会社を設立

という流れです。

ただし、一般的な事業との大きな違いは、法人化するときに酒販免許についても手続が必要になることです。

法人成りでは、酒販免許はどうなる?

個人事業主から法人へ変更する場合、法人は新たに酒販免許を申請します。

それまで個人が持っていた免許については、取消申請を行います。

国税庁の手続でも、法人成りの場合には、法人の酒類販売業免許申請と個人の免許取消申請を事前に行うこととされています。

ただし、これはまったく事業実績のない法人が酒販免許を初めて申請する場合と、必ずしも同じ扱いではありません。

国税庁では、一定の要件を満たす法人成りについて、専用の取扱いを設けています。

主なポイントは次のとおりです。

  • 個人の免許取消申請と法人の新規免許申請を同時に行う
  • 法人について人的要件・経営基礎要件を満たす
  • 原則として、これまでと同じ販売場で営業する
  • 既存の販売場が一定の休業状態ではない

これらの要件を満たす場合は、「法人成り等の場合の取扱い」として免許審査が行われます。

反対に、要件を満たさない場合には、「純然たる新規の酒類販売業免許申請」として審査されます。

つまり、免許そのものは法人へ引き継げませんが、これまで個人として行ってきた酒販事業まで、すべてゼロからになるわけではありません。

個人時代の実績はどう扱われる?

個人と法人は別の事業主体です。

そのため、個人事業主として提出してきた確定申告書が、そのまま法人の決算書になるわけではありません。

例えば、法人成りでは、

個人時代に3年間黒字だった
新設法人にも3年間の黒字実績がある

という扱いにはなりません。

一方、それまで個人として酒販事業を営んできたという事実そのものがなくなるわけではありません。

したがって、「法人には個人時代の決算実績がそのまま引き継がれるわけではない」ということと、「個人として行ってきた酒販事業まで事実上なかったことになる」ということは、分けて考える必要があります。

実は大変なのは、免許の取り直しだけではない

法人化すると、変わるのは酒販免許だけではありません。

個人名義で運営してきた事業を、法人名義へ切り替えていく必要があります。

例えば、次のようなものがあります。

項目法人成りの際に考えること
酒販免許法人として新たに申請
個人の酒販免許取消申請
店舗・事務所賃貸借契約などの名義を確認
仕入先法人名義の取引口座・契約への変更
販売先契約名義等の変更
銀行法人口座の開設
決済サービス法人名義への変更・再契約
ECサイト運営者情報・特商法表示等の変更
請求書・領収書法人名義へ変更
倉庫・物流契約名義等の確認
酒類在庫個人から法人への引継方法を整理

契約先によって、単純な名義変更で済む場合もあれば、新たに審査や契約が必要になる場合もあります。

酒販免許だけを見ていると気付きにくい部分ですが、実際の法人成りでは、事業全体を切り替える作業が発生します。

酒販ビジネスならではの視点――法人を作った日から酒を売れるわけではない

ここが、一般的な法人成りとの大きな違いです。

例えば税務上の事情から、

「来年1月から法人にしよう」
「新しい事業年度から会社に切り替えよう」

と考えることがあります。

しかし、法人を設立しただけでは、その法人は酒類を販売できません。

法人自身が酒販免許を取得して初めて、法人名義で酒類を販売できます。

そのため、酒販ビジネスで法人成りをする場合は、

法人設立

法人の酒販免許申請

免許審査

個人から法人へ酒販事業を切替え

という流れを考える必要があります。

つまり、酒販ビジネスでは、「いつ会社を作るか」だけではなく、「いつ酒販事業を法人へ移すか」まで設計する必要があります。

これが、許認可を必要としない一般的な事業との大きな違いです。

営業を止めずに法人へ移行するには?

個人から法人への移行では、

  • 法人の新規免許申請
  • 個人の免許取消申請

を組み合わせて進めます。

法人の免許がまだない段階で法人名義の酒類販売を始めることはできません。

また、個人の免許の効力が失われた後は、個人として酒類を販売することもできません。

そのため、法人成りでは、法人の免許申請と個人の免許取消申請をあらかじめ同時に行い、審査期間も踏まえて、個人から法人への切替時期を考える必要があります。

会社設立日だけを決めて終わるのではなく、酒販免許のスケジュールまで含めて考える必要があります。

在庫はどうする?

もう一つ見落としやすいのが、店や倉庫に残っている酒類です。

例えば、個人事業主として仕入れたワイン100ケースが残っている状態で法人化するとします。
法人化したからといって、その在庫の所有者が自動的に法人へ変わるわけではありません。

したがって、個人が持っている酒類在庫を、どのような方法で法人へ引き継ぐかも整理する必要があります。

法人成りに伴う酒類在庫の具体的な移転方法については、国税庁の公開資料だけでは一律の取扱いを確認できません。

免許の種類や事業の引継方法によって検討が必要になる可能性があるため、実際の法人成りでは事前に所轄税務署へ確認しておきたいポイントです。

では、最初から法人にした方がいい?

ここまで読むと、「それなら最初から法人にした方が簡単なのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、必ずしもそうとは限りません。

法人を設立すれば、

  • 会社設立の費用や手続
  • 法人としての会計・税務
  • 社会保険
  • 法人を維持するためのコスト

など、個人事業主とは異なる負担があります。

小さく事業を始めて市場の反応を見たい方にとっては、個人事業主から始める方が合っている場合もあります。

一方、「数年以内に法人化する可能性がかなり高い」のであれば、後から発生する酒販免許や契約関係の切替えまで含めて、最初から法人で始める選択肢も検討しておく価値があります。

個人か法人か――考えるときの4つの視点

酒販ビジネスを始める前には、例えば次の4点を考えてみるとよいでしょう。

  1. 最初はどの程度の規模で始めるのか
  2. 数年後、どの程度まで事業を広げたいのか
  3. 法人化する可能性はどの程度あるのか
  4. 将来法人化した場合の免許・契約・在庫の切替えをどう考えるか

酒販免許だけを理由に法人を選ぶ必要はありません。

反対に、税金や設立費用だけで個人事業主を選ぶのではなく、酒販免許の将来まで一度考えておくことには意味があります。

なお、個人か法人かの判断には、税務・会計・社会保険など酒販免許以外の問題も関わります。必要に応じて税理士など他の専門家の意見も踏まえ、事業全体から判断することが大切です。

まとめ:今だけでなく「数年後」も考えて選ぼう

個人事業主でも法人でも、酒販ビジネスを始めることはできます。

大切なのは、どちらが一般的に有利なのかではなく、自分の事業にどちらが合っているかを考えることです。

酒販ビジネスでは、そこにもう一つ、酒販免許は、個人から法人へそのまま引き継げないという制度上の特徴があります。

個人からスタートして後から法人化することもできますし、そのための法人成りの取扱いも用意されています。

ただし、その際には、酒販免許だけでなく、契約、銀行口座、ECサイト、販売場、在庫など、事業全体の切替えが必要になります。

だからこそ、これから酒販ビジネスを始めるときには、「今、一番簡単な方法」だけではなく、「この事業を数年後どうしたいか」まで少し先を見て、スタートの形を考えておくことが大切です。

個人事業主として始める場合や、新たに法人を設立して申請する場合には、それぞれ準備しておきたい事項があります。申請時の資金や収支状況の確認を含め、詳しくはそれぞれの記事で解説しています。


酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら

酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。


酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。

当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。


\まずはお気軽にお問合せください/

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

横浜の酒類販売業免許専門の行政書士。
「桜並木行政書士オフィス」を運営。
20年以上にわたり、ワインインポーターで輸入貿易実務や販促・企画業務などを経験。現場経験と法律の両面からワインビジネスをサポートします。

■保有資格
J.S.A.ソムリエ
WSET® Level 3 Award in Wines

⇩ 事務所の詳細はこちらから

目次