はじめに
ワインの品質管理について調べると、「リーファーコンテナ(定温コンテナ)で輸送しています」という説明を目にすることがあります。品質を大切にしている姿勢として、とても分かりやすいアピールです。
一方で、「ドライコンテナ=品質に問題がある」というイメージを持たれることも少なくありません。
しかし、実際に輸入実務に携わっていた立場からすると、この二つは単純な二項対立で語れるものではありません。ワインの品質管理は、もっと多くの要素を総合的に考えて行われています。
品質を守るために考えるのは「コンテナの種類」だけではない
インポーターが考えているのは、「リーファーか、ドライか」というコンテナの種類だけではありません。
例えば、
- 日本までの航路は直行便か、それとも積み替え(トランジット)があるか
- 日本への到着が真夏にならないよう、一年の発注スケジュールを調整
- 産地や航路によっては、そもそもリーファー便を手配しやすい地域とそうでない地域がある
- ワインの価格帯と輸送コストのバランスはどうか
こうした条件を総合的に見ながら、そのワインにとって適した輸送方法を選んでいます。
「ドライコンテナだから品質が悪い」とは一概に言えない
ドライコンテナを使用する場合でも、コンテナ内の温度上昇を抑えるため、遮熱・断熱効果のあるシート(ライナー)を装備し、温度ロガー(温度記録計)で輸送中の温度変化を確認するなど、品質管理を行うのが一般的です。
また、意外に思われるかもしれませんが、洋上を航行している間は、たとえドライコンテナで赤道付近を通過する航路であっても、温度は比較的安定しています。
私自身、輸送時の温度ロガーのデータを確認していましたが、むしろ気になったのは洋上ではなく、陸上にある時間でした。
これは、ワインのコンテナが、外気や直射日光の影響を受けにくい、水面より下の船倉内(ホールド)に積載されることとも関係しているのでしょう。(コンテナの積み付けについては、シリーズ第6回「フォワーダーとは?」でも触れています。)
むしろ注意が必要なのは「陸上での待機時間」
実際に注意が必要なのは、積み替え港のコンテナヤードや、日本到着後のヤード保管など、陸上で外気の影響を受ける場面です。
遮るもののないヤードに長時間留め置かれると、洋上にいる間よりも温度リスクが高くなることがあります。
また、意外に見落とされがちなのが、生産国内での陸送です。
例えばフランスでは、海上輸送をリーファーコンテナにしていても、ワイナリーから港までのトラック輸送は通常のドライ車両で行われるケースが一般的です。
つまり、「海上はリーファーだから100%安心」というわけではなく、ワイナリーから日本の倉庫まで続く輸送全体を見て品質管理を考える必要があるのです。
ワインによって求められる品質管理も違う
また、そもそも長期熟成を前提としたファインワインと、早めに楽しむことを想定したデイリーワインでは、輸送に求められる条件も異なります。
デリケートなファインワインは、熱劣化だけでなく、温度変化がもたらす内圧の上昇による「コルク上がり」や「液漏れ」にも配慮が必要なため、リーファーコンテナを選択する意義は非常に大きいです。
一方で、リーファーコンテナを選択したとしても、それだけで品質管理が完結するわけではありません。
実際には、前述した生産地での陸送をはじめ、港での取り扱いや日本到着後の保管・配送まで含めて、輸送全体を見据えた管理が重要になります。
そのため品質管理に力を入れているインポーターでは、例えば、
- ヨーロッパの夏場だけ現地の陸送にもリーファー車両を指定する
- 日本への到着が猛暑期にならないよう、発注時期そのものを調整する
といったように、海上輸送だけではなく、輸送全体を見据えた工夫を行っています。
つまり、ワインにとって最もリスクが少なく、最適と思われる方法が選ばれています。
品質と価格、その両方を考える
リーファーコンテナは、品質管理の面で非常に大きなメリットがあります。一方で、その分だけ輸送コストは高くなり、最終的にはワインの販売価格に反映されます。
意外に思われるかもしれませんが、国際輸送の運賃は、一般にワインの価格ではなく重量や容積を基準に決まります。つまり、1万円の高級ワインも、1,000円のデイリーワインも、1本あたりの輸送コスト自体は基本的に変わりません。
そのため、高級ワインであれば販売価格に占める輸送コストの割合は比較的小さく済みますが、デイリーワインでは同じ輸送コストでも価格への影響が大きくなります。
そのため、すべてのワインをリーファーで輸送するという考え方も、一つの品質管理の方針ですが、輸送ルートや季節を工夫し、本当に必要な場面ではリーファーを使い、それ以外ではドライコンテナを選択することも、品質と価格のバランスを考えると、ある意味で合理的な判断なのです。
前述のように、様々な工夫をすることで、品質を守ることと、価格を抑えることは、必ずしも対立するものではないからです。
必要なところにはしっかりコストをかけ、そうでないところは工夫で補う。そうした判断もまた、品質管理の一つなのです。
まとめ
輸入ワインの品質管理というと、「リーファーか、ドライか」という話になりがちです。
しかし実際には、そのワインのタイプや輸送ルート、季節、さらにはどのような価格ならお客様に受け入れてもらえるかも含めて、多くの工夫や判断が積み重ねられています。
「リーファーか、ドライか」だけがインポーターの品質管理ではありません。
そのワインを、現地の品質のまま、お客様のもとへ届けるために、輸送ルートや季節、コストまでを含めた最適な方法を考えること。
輸送方法だけで品質を判断するのではなく、その背景にある考え方にも少し目を向けてみると、輸入ワインを選ぶ目が少し変わるかもしれません。
私も、今はワインを楽しむ一消費者として、そんなことも考えながら売り場でワインを選んでいます。
※この記事は、私自身がワイン輸入実務に携わっていた当時の経験をもとに執筆しています。輸送環境や物流サービスは変化しているため、実際の輸送方法は産地や船会社、各インポーターの方針によって異なる場合があります。
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