「人的要件」と「場所的要件」をクリアした次に待ち構えているのが、今回解説する「経営基礎要件」です。
端的には、税務署から「お酒のビジネスを安定して続けていけるだけの資金と経験を持っていますか?」と問われる要件です。実はこの要件、申請者が「個人」か「法人」か、また「小売(BtoC)」か「卸売(BtoB)」かによって、注意すべきポイントや審査の重みが異なってきます。
今回は、実務の現場で特に注意が必要なポイントと対策を整理して解説します。
1. 「資金面(財務状態)」の壁:個人と法人の違い
まずは「資金」の話です。税務署は「すぐに潰れそうな事業者にはお酒の免許は出せない」と考えます。
個人の場合:4つの「客観的な事実」がチェックされる
個人の場合は、法人のような決算書はありませんが、主に以下の4つのポイントを中心に審査されます。
- ① 資金力・財務状況
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預貯金の残高証明書、開業資金の調達状況(自己資金か融資か)、他の事業収入、借入金の状況などから、総合的に「資金力」を見られます。
- ② 税金の滞納がないか
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所得税、住民税、固定資産税などの未納は厳禁です。
- ③ 過去の事業経歴
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これまでの事業経験や経営実績、過去に廃業した経歴があるかどうかが確認されます。
- ④ 破産歴の有無
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過去に破産手続を受けていないかがチェックされます(過去に受けていても復権していれば可能ですが、審査には影響します)。
法人の場合:決算書の「過去の数字」がすべて
法人の場合は、直近の決算書(3期分)の内容がシビアに見られます。
- 債務超過になっていないか: 貸借対照表の「純資産」がマイナス(資産より負債が多い状態)だと、原則として要件を満たしません。
- 赤字の累積: 3期連続で赤字が出ており、かつその額が「資本金の20%」を超えていると、経営が極めて不安定とみなされます。
ここがポイント
新設法人の場合は決算書がないため、「設立時の資本金の額」と、具体的な収支予測を書いた「事業計画書」の内容が非常に重要になります。
2. 「経験面(職歴)」の壁:小売と卸売の違い
次に「経験」です。お酒は適切に管理・販売される必要があるため、誰でも扱って良いわけではありません。ここで言う「経験」とは、法人そのものではなく「実際に事業を動かす役員や従業員個人」の経歴を指します。
小売免許(店舗・ネット通販・飲食店への販売)の場合
小売の場合は、「お酒の販売経験」があればベストですが、ない場合でも代替案があります。
- ・販売経験
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販売経験3年以上がある場合は有利ですが、経験年数のみで機械的に判断されるわけではなく、職務内容や事業計画も含めて総合的に判断されます。
- ・経営経験があれば補完可能
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業種を問わず、会社の役員や個人事業主としての経営経験がある場合は、酒類販売管理研修の受講実績などと合わせて評価されるケースがあります。
3. 卸売免許の場合:「洋酒卸」と「輸出入卸」で異なる審査基準
卸売免許は、小売よりも審査のハードルが上がりますが、実は「洋酒卸」か「輸出入卸」かによっても、税務署が求める経験の性質が変わります。
- 洋酒卸売業免許
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国内流通の経験が厳しく問われます。国内の複雑な流通ネットワークに参入するためには、酒税法や業界ルールを理解していることが重要だからです。
- 輸出入酒類卸売業免許
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自らワインを直輸入して国内の業者に卸す「輸入卸」や「輸出卸」免許の場合は、お酒の取り扱い経験がなくても、海外取引や貿易実務の経験、具体的な事業計画などが評価され、許可に至るケースがあります。税務署がこの免許で重視するのは、お酒の知識そのものよりも「海外との取引(貿易実務)をトラブルなく安全に行える能力」だからです。他商材での輸出入業、国際貿易、あるいは海外ビジネスの経験が3年以上あれば、それらのキャリアが総合的に評価され、経験要件をクリアできる可能性が十分にあります。
ここがポイント
例えば、「すでに別商材で輸入ビジネスを行っている貿易会社が、新しくワイン輸入部門を立ち上げる」といったケースでは、これまでの貿易実績をアピールすることで、お酒の経験ゼロからでもインポーターへの参入が可能です。
3. 「法人」ならではの注意点と事前対策
経営基礎要件は個人・法人のどちらにも適用されますが、法人の場合は決算書や組織体制など、会社特有の確認事項が増えます。特に規模の大きな会社や、他業種から新しく参入する場合は、以下の点に事前の注意が必要です。
決算要件をクリアできるか(財務のタイミング)
税務署は「前期末の決算書」をベースに審査します。そのため、財務状態(債務超過など)が悪いからといって、期中に慌てて増資をしてもその期の申請には間に合いません。 「今期中に増資(または役員借入金の免除など)を行って自己資本を厚くし、次の決算(新しい期)を迎えてから申請に臨む」といった、中長期的な計画が必要になります。
定款の事業目的に酒類事業が書かれているか
定款(および履歴事項全部証明書)の事業目的に、「酒類の小売及び通信販売業/酒類の輸出入卸」といった文言が入っている必要があります。入っていない場合は、事前に株主総会を開いて目的変更の登記手続きを済ませておかなければなりません。
酒類事業に進出する事業目的を説明できるか
税務署に対して「なぜ今、新しくお酒の事業を始めるのか」という動機や経営方針を、事業計画書等を通じて筋道立てて説明できる必要があります。既存事業とのシナジーや、しっかりとした販売見込みがあることを示すことが大切です。
法人の場合「役員全員」の経歴チェックが必要
規模の大きな会社や、グループ企業、社外取締役が複数いる法人になると、経歴のチェックが隠れた大仕事になります。お酒の実務に直接関わらない役員であっても、「役員全員分の職歴や違反がないかの確認(書類提出)」を求められるため、社内調整や書類集めだけで想定以上に時間を要することがあります。
役員等に経験者がいない場合は?
自社の役員にお酒の販売や貿易の経験者が一人もいないという場合でも、「お酒の販売・卸売経験が豊富なスタッフ(酒類販売管理者など)」を雇用して、実務責任者として入ってもらうことで要件をクリアできる可能性があります。
まとめ:経営基礎要件は「中長期的な戦略」が鍵になる
酒類販売業免許の4要件の中でも、「経営基礎要件」は、「人的要件」や「場所的要件」と異なり、「これから準備すればすぐに解決できる問題」ばかりではありません。決算内容や事業経験など、過去の積み重ねが審査対象となるため、申請のタイミングや事業計画を含めた事前の検討が重要になります。
また、申請書類を作成する段階になって初めて問題が見つかるケースも少なくありません。
酒類販売業への新規参入を検討される場合は、事業計画立案の早い段階からこうした内容を確認することで、後から要件不足が判明して計画の見直しを迫られるリスクを減らすことができます。
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