はじめに:なぜ酒屋には「販売管理者」がいるの?
酒類を小売する販売場では、原則として「酒類販売管理者」を選任する必要があります。
酒類販売管理者は、酒類の販売に関する法令が守られるよう、酒類小売業者に助言したり、販売業務に従事する従業員を指導したりする役割を担います。現在は、過去3年以内に酒類販売管理研修を受講した者から選任し、その後も3年を超えない期間ごとに研修を受講させる必要があります。
では、なぜ酒屋には、このような販売管理の仕組みがあるのでしょうか。
前回の記事では、かつて一般酒類小売業免許に設けられていた人口基準や距離基準と、その後の規制緩和について見てきました。
では、酒屋の数を需給によって調整する規制が緩和された後、酒類の適正な販売はどのように確保されるようになったのでしょうか。
その流れをたどると、現在の「酒類販売管理者」という制度がなぜ設けられているのかが見えてきます。
かつては「酒屋の数」そのものを調整していた
酒類を販売するには、現在も酒類販売業免許が必要です。
この免許制度には、酒税を確実に徴収するための「酒税の保全」という目的があります。
酒税は酒類の製造者や輸入者などが納税しますが、その税負担は酒類の販売価格を通じて消費者へ転嫁されていきます。そのため、酒類の流通や販売が安定して行われることは、酒税を確実に徴収するうえでも重要と考えられてきました。
かつての一般酒類小売業免許には、この酒税の保全の観点から、酒類販売業者が過度に増えて酒類の需給の均衡が崩れることを防ぐため、「距離基準」や「人口基準」が設けられていました。
つまり、申請者自身に問題がなくても、
- 近くに既存の酒販店がある
- その地域には人口に対してすでに一定数の酒販店がある
といった理由によって、新しい酒販店の参入が制限されることがあったのです。
1990年代から酒販免許の規制緩和が進む
こうした需給調整による規制は、1990年代以降、政府全体で進められた規制緩和の流れの中で見直されるようになります。
酒類小売業免許についても段階的な緩和が進められ、平成13年1月に距離基準が廃止され、平成15年9月には人口基準も廃止されました。
これによって、既存の酒販店との距離や地域の人口を理由として、新規参入を制限する仕組みは大きく縮小していきます。
しかし、酒類についての規制そのものが必要なくなったわけではありませんでした。
むしろ、酒類小売業への参入が広がる中で、別の問題が改めて意識されるようになります。
「誰を酒屋にするか」から「どう売るか」へ
当時の国税庁資料を見ると、酒類販売をめぐる問題について、「規制緩和後の酒類販売業免許」と「酒類の販売に関する社会的規制」を分けて検討していたことが分かります。
それまでの距離基準や人口基準は、酒税の保全のために、酒販店への参入や店舗数を調整する「経済的な規制」でした。
一方、規制緩和が進む中で重要性を増していったのが、20歳未満の者への販売防止など、酒類の特性に着目した「社会的規制」です。
酒類には致酔性(ちすいせい)があります。
致酔性とは、お酒を飲むことによって酔った状態になる性質のことです。
そのため酒類には、20歳未満の者への販売防止をはじめ、一般の商品とは異なる販売上の配慮が求められます。
国税庁が平成13年に設置した「酒類販売業等に関する懇談会」でも、酒類の致酔性を踏まえた未成年者対策など、販売管理への社会的要請が高まっていることと、酒類小売業免許の規制緩和によって取引環境が変化していることが、並べて問題として挙げられています。
つまり、
「誰を酒屋にするか」を需給調整する規制を緩和する一方で、
「酒屋になった後、どのように適正に販売するか」という販売管理を重視する。
酒類販売をめぐる規制の考え方は、こうした方向へ変わっていきました。
平成14年の懇談会でも、「事前規制をなくし、事後チェックをしっかり行うべき」という意見が示されています。
酒類販売管理者の前にも「販売責任者」がいた
酒類販売管理者制度は、平成15年に突然ゼロから作られたわけではありません。
それ以前から、国税庁は酒類小売業者に対し、20歳未満の者への販売防止、酒類と清涼飲料の区分、酒類自動販売機への対応など、適正な販売のための取り組みを行政指導によって進めていました。
販売場に「販売責任者」を置くことや、酒類販売に関する研修を行う取り組みもその一つです。
酒類自動販売機についても、昭和52年から深夜の販売自粛が行われ、平成7年以降は、年齢確認のできない従来型自動販売機そのものを撤廃する取り組みが進められました。
しかし、行政指導だけでは十分な実効性を確保しにくいという問題もありました。
酒類小売業への参入が広がり、スーパーやコンビニなど販売主体や販売方法が多様化していく中で、より実効性のある販売管理の仕組みが必要になっていきます。
平成15年、酒類販売管理者制度がスタート
こうした状況を背景に、平成15年に「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」、いわゆる酒類業組合法が改正されました。
そして、平成15年9月1日から、酒類小売業者には販売場ごとに酒類販売管理者を選任することが義務付けられました。
興味深いのは、この日付です。
一般酒類小売業免許の人口基準が廃止されたのも、同じ平成15年9月1日でした。
もちろん、「人口基準を廃止する代わりに酒類販売管理者制度を作った」という単純な関係ではありません。
ただ、国税庁自身が、人口基準廃止などの規制緩和による取引環境の変化と、酒類販売に対する社会的要請の高まりを背景として、販売管理制度を整備したと説明しています。
この時期には、酒販店の数を需給によって調整する仕組みを緩和する一方で、酒類を適正に販売するための管理体制を整えていくという二つの動きが並行して進んでいたのです。
酒類販売管理者は何をする人?
現在の酒類販売管理者は、販売場において酒類の販売に関する法令が守られるよう、
- 酒類小売業者に必要な助言を行う
- 酒類の販売業務に従事する従業員等を指導する
- 適正な販売管理体制の整備に取り組む
といった役割を担います。
単に「免許申請のために名前を届け出ておく人」ではありません。
20歳未満の者への販売防止、酒類の表示、販売方法など、実際の販売現場で守るべきルールについて、適正な管理が行われるようにする役割があります。
また、現在は、過去3年以内に酒類販売管理研修を受講した者から酒類販売管理者を選任する必要があります。酒類販売管理者を選任したときは、選任した日から2週間以内に「酒類販売管理者選任(解任)届出書」を所轄税務署へ提出します。
選任後も3年を超えない期間ごとに研修を受講させる必要があり、販売場には、管理者の氏名や研修受講年月日、次回の受講期限などを記載した標識も掲示します。
平成15年の制度創設時には、研修受講は努力義務でした。その後、アルコール健康障害対策基本法の制定などを背景に社会的要請がさらに高まり、平成29年6月から現在の仕組みに強化されています。
つまり、酒類販売管理者制度そのものも、「適正に販売する」という考え方をより実効性のあるものにする方向で整備されてきたといえます。
酒類販売管理研修は、小売だけに関係する知識ではない
酒類販売管理者の選任が法律上義務付けられているのは、酒類小売業者です。
ただし、酒類販売管理研修で学ぶ内容は、20歳未満の者への販売防止や表示だけでなく、酒税法、酒類業組合法、記帳・報告など、酒類を取り扱う事業者に関係する幅広い内容を含んでいます。
また、国税庁の通達では、酒類製造業者や酒類卸売業者が、酒類製造業者・酒類販売業者以外の者にも酒類を販売する場合には、酒類販売管理者を選任するよう指導するとされています。
さらに、酒類卸売業免許の審査では、申請者に酒類に関する知識や記帳能力など、卸売業を経営するための知識・能力が求められます。
そのため実務上、酒販経験が十分でない場合などには、酒類に関する知識を補う一つの方法として、免許申請の段階で酒類販売管理研修の受講を勧められることがあります。
ただし、これは卸売業者にも小売業者と同じ研修受講義務があるという意味ではありません。 また、研修を受講すれば、それだけで卸売免許の経営基礎要件を満たすというものでもありません。
あくまで、酒類に関する知識や経験をどのように確認するかという実務上の一つの材料として考える必要があります。
まとめ:「酒屋の数を調整する」から「酒類を適正に販売する」へ
酒類販売業免許は、もともと酒税を確実に徴収するための仕組みとして設けられ、かつての一般酒類小売業免許では、距離基準や人口基準によって酒販店の数そのものを調整していました。
その後、こうした需給調整による経済的規制は大きく緩和されました。
一方、酒類には致酔性(ちすいせい)があり、20歳未満の者への販売防止など、一般の商品とは異なる販売管理が求められます。
そこで重要になってきたのが、
「誰に酒販を認めるか」
だけではなく、
「酒類をどのように適正に販売するか」
という視点です。
酒類販売管理者制度は、こうした酒販をめぐる規制の変化の中で整備され、その後も研修の義務化などによって強化されてきました。
もちろん、現在も酒販免許制度には「酒税の保全」という重要な役割があります。酒税の保全から販売管理へ完全に目的が置き換わったわけではありません。
ただ、一般酒類小売業について見ると、距離基準や人口基準によって参入を調整していた時代から、参入規制を緩和する一方で、酒類の特性に応じた適正な販売管理を求める仕組みへと、規制の重点が変化してきたことが分かります。
そして、酒販免許を取得した後に続くのは販売管理だけではありません。
酒類販売業者には、税務署への届出や報告、帳簿への記帳など、免許取得後も継続して行うべき手続があります。
次回は、「免許を取った後も税務署への手続がある?―酒類販売業者の届出・報告を整理」として、免許取得後に必要となる手続を整理します。
参考資料
本記事の制度の沿革については、国税庁公表資料等を参照しています。
・国税庁「第2回 酒類販売業等に関する懇談会 資料」
・国税庁「第10回 酒類販売業等に関する懇談会 資料」
・国税庁「第11回 酒類販売業等に関する懇談会 資料」
・毛利泰浩「酒類の製造免許及び販売業免許における需給調整要件の在り方について」税務大学校論叢第107号(令和4年)
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