はじめに:既存の会社で、新たに酒類販売を始める場合
すでに別の事業を行っている会社が、新規事業として酒類販売を始めるケースがあります。
たとえば、
- 食品を扱う会社が、新たにワインの販売を始める
- EC事業を行っている会社が、酒類ECへ参入する
- 輸入事業を行っている会社が、海外からワインを輸入して販売する
といったケースです。
このような既存法人の場合、「これまで会社として事業を続けてきた実績は、酒販免許の審査でどのように見られるのだろう?」という疑問が出てきます。
前回の記事では、法人で申請する場合に「誰の経験が見られるのか」という人的な側面を取り上げました。
今回は視点を法人そのものに移して、既存法人としての経営基盤と、これから始める酒類事業の計画がどのように確認されるのかを見ていきます。
既存法人でも、新しく始める酒類事業について審査される
酒販免許では、申請者の法令順守だけでなく、経営の基礎や販売設備なども審査対象となります。
酒税法第10条第10号では「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」を免許の拒否要件として規定しています。
国税庁の法令解釈通達によると、この「経営の基礎が薄弱」とは、必要な資金、経済的信用、販売設備、経営能力など、経営の「物・人・資金」の要素に相当な欠陥がある状態を指します。
そのため、すでに本業で実績がある法人であっても、「これから始める酒類事業をどのように運営し、資金や設備をどう確保するのか」を具体的に示す必要があります。
「これまでの会社」と「これからの酒類事業」は分けて考える
既存法人の場合、審査では大きく二つの方向から考えると分かりやすくなります。
一つは、これまで会社がどのような経営をしてきたかです。
法人で申請する場合には、原則として最終事業年度以前3事業年度(直近3事業年度)の財務諸表を提出します。過去の決算内容などから、その法人自体の経営基盤が確認されます。
もう一つは、これから始める酒類事業をどのように行うのかです。
一般酒類小売業免許の申請では、「事業の概要」「収支の見込み」「所要資金の額及び調達方法」などを提出します。
つまり、既存法人では、これまでの経営状況とこれから始める酒類事業の計画の両方について、申請書類の中で説明していくことになります。
既存事業の実績は、酒類事業の計画にどう影響する?
国税庁の一般酒類小売業免許申請の記載例では、すでに食料品等を販売している事業者が、新たに酒類販売を加えるケースが示されています。
この場合も、これまで食料品販売を行ってきた実績だけで審査するのではなく、新たに始める酒類事業について、酒類の売上や仕入れ、必要な在庫、設備、所要資金などを具体的に記載します。
一方、酒類卸売業免許の記載例では、従来から食料品の取引があるスーパー、コンビニ、酒販店などを、酒類の予定販売先とするケースが示されています。
販売見込数量についても、既存の食料品取引先から酒類の取引について承諾を得ていることを前提として算出する例となっています。
このように、既存事業で築いてきた取引関係などが、新たな酒類事業の計画につながることはあります。
ただし、これまでの事業経験そのものを「酒販経験」に置き換えて考えるわけではありません。
既存の資金や設備があれば、それで十分?
既存法人の場合、会社に一定の資金や設備がすでにあることも多いでしょう。
しかし、酒販免許の申請では、新たな酒類事業に必要な資金についても具体的に確認します。
国税庁の記載例では、酒類の年間・月間仕入額や在庫、酒類販売のために新設する設備などを踏まえて所要資金を計算し、その調達方法を記載しています。
また、「事業の概要」では、店舗や事務所、倉庫、車両、商品棚、冷蔵設備、従業員数などについても記載します。
つまり、会社に資金や設備があるかだけではなく、これから始める酒類事業に必要な資金や設備をどのように確保するのかを具体的にしていくことになります。
既存の店舗や設備、人員などを活用する場合にも、それらを新しい酒類事業の中でどのように使うのかを整理しておくと分かりやすいでしょう。
「人の経験・能力」は別の審査ポイント
ここまで見てきた法人としての経営基盤や事業計画とは別に、酒類販売を適正に行うための人の経験・知識・能力も確認されます。
法人の場合に誰の経験が見られるのか、役員全員に酒販経験が必要なのかについては、前回の記事で詳しく解説しています。

飲食店が小売販売を始める場合は、別の論点がある
なお、飲食店などを経営する事業者が、新たに酒類の小売販売を始める場合には、少し注意が必要です。
一般酒類小売業免許の需給調整要件では、現在も「酒場、旅館、料理店等酒類を取り扱う接客業者」について、原則として免許を付与しない取扱いが残っています。
ただし、飲食店だから一律に免許を取得できないというわけではありません。国税局長が、免許を付与しても支障がないと認めた場合には、免許を取得することができます。
そのため、食品会社やEC会社などが新たに酒類販売へ参入するケースと、飲食店等が小売販売を始めるケースは、まったく同じようには考えられません。
なぜ現在もこのような取扱いが残っているのか、また飲食店が酒類小売業免許を取得する場合にはどのように考えるのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

まとめ:既存法人では「これまで」と「これから」の両方を整理する
既存法人が新規事業として酒類販売を始める場合、これまで会社として積み重ねてきた事業経験だけで判断されるわけではありません。
既存法人については、過去の決算内容などから法人としての経営基盤が確認されます。
それと同時に、新しく始める酒類事業についても、収支の見込み、必要な資金、販売設備などを具体的に示していくことになります。
既存事業で築いてきた取引関係や、すでに保有している設備・人員などを、新しい酒類事業に活用できる場合もあるでしょう。
大切なのは、これまで築いてきた経営基盤の上に、新しい酒類事業をどのように組み立てていくのかを具体的にすることです。
酒販免許の種類や取得要件について知りたい方はこちら
酒類販売を始めたい方に向けて、酒販免許の種類や選び方、取得要件、申請手続きなどを分かりやすく解説しています。
酒類販売業免許の申請では、必要書類の収集や申請書類の作成に加え、販売場や事業計画など、申請内容に応じた準備が必要です。
当事務所では、ワインの輸入・流通に携わってきた行政書士が、販売方法や仕入れ、物流などを伺いながら、実際の事業を見据えた免許申請をサポートします。申請を準備する過程が、これから始める事業を整理する機会になるよう、一緒に考えていきます。
\まずはお気軽にお問合せください/

