はじめに
近年、ワイン売り場でノンアルコールワインを見かける機会が増えてきました。
一口にノンアルコールワインといっても、その製法はいくつかあります。
ぶどう果汁などをベースにワインらしい風味を再現したものもあれば、一度通常のワインを造り、そこからアルコールを除去する「脱アルコール製法」のものもあります。
私が以前の職場で輸入しようとしたのは、後者のタイプでした。取引のあったスペインのワイナリーが造るノンアルコールワインでした。
幕張メッセの展示会で試飲してみたら、それまで試したことのあるワイン風味のノンアル飲料とは全く異なり、味わいも本格的で、EU域内でも順調に売り上げを伸ばしているという話を聞き、少量だけ輸入してみることにしたのです。ちょうど通常の輸入オーダーを発注するタイミングだったことも、輸入を決める後押しになりました。
ところが、日本に到着したノンアルコールワインは検疫でストップしました。
原因はアルコールではありません。SO2(二酸化硫黄)の基準です。
最終的にその商品は輸入できず、廃棄することになりました。
問題になったのはアルコールではなくSO2だった
当時、私が気にしていたのは残存アルコール度数でした。
輸入時に何か問題になるとしたら、多分それはアルコール度数。生産者から入手した成分分析表では、ごくごく少量の残存アルコール分はあるけど、日本の食品衛生法や酒税法では、ノンアルコール飲料はアルコール分(酒精分)が 1パーセント未満であれば完全ゼロでなくても良いらしいからまず問題ないはず。でももしモニタリング検査でそれ以上の数値が検出されたらどうしよう・・・。そんなことでした。
ところが、実際に輸入の場面で問題となったのは、アルコールではなく、食品添加物である亜硫酸塩(SO2=二酸化硫黄)の基準でした。
脱アルコール製法のノンアルコールワイン、つまり、「ぶどう酒からアルコールを除去した飲料」は、日本では食品衛生法上、清涼飲料水として扱われていたからです。
この製法のノンアルワインは、通常のワインを原料として脱アルコール処理を行うため、元となるワインに含まれていたSO2が、一定量残存します。
ワインでは、食品添加物として、SO2は1kgあたり350mg(350ppm)まで認められていますが、アルコールを除去して清涼飲料水区分となったノンアルコールワインは一般食品の基準である30mg/kgが上限でした。そして、そのノンアルコールワインからは、約50mg/kgのSO2が検出されたのです。
検疫所からの要請を受け、生産者と何度も何度もやり取りを繰り返し、製造工程表を提出したり、「SO2は、実際ワイナリーで添加した量だけでなく、ワインの醸造工程で自然発生した分が含まれるため、そのような高値になった」との説明書を提出したりしました。
しかし、この主張は認められることなく、結局は輸入をあきらめざるを得ませんでした。
なぜ脱アルコールワインにSO2が含まれるのか
脱アルコールワインは、一度通常のワインとして醸造してからアルコールだけを取り除いて造られます。
そのため、香りや味わいだけでなく、酸化しやすいポリフェノールなども通常のワインと同様に含まれています。
ワインにおける、SO2は、
- 酸化を防ぐ: フェノール類の酸化を抑え、ワイン本来の香味を守る
- 微生物の増殖を抑える: 野生酵母や乳酸菌などの活動を抑制し、品質を安定させる
- 褐変(かっぺん)を防ぐ: 色素の劣化や変色(茶色っぽくなること)を防ぎ、美しい色合いを保つ
という重要な役割を果たしています。
つまり、アルコールを除去したからといってSO2が不要になるわけではありません。むしろ、アルコールを抜いた後こそ、酸化や劣化を防ぐためにSO2の働きが重要になるとも言えます。
制度は見直された
海外では一般的に販売されている脱アルコール製法のノンアルワインは、日本で認められた製造方法で造られたワインを原料としているにもかかわらず、食品衛生法上は「清涼飲料水」として扱われていました。
そのため、これまでは、通常のワインからアルコールを除去して造られたノンアルワインは、ワインと同程度のSO₂を含むことから、清涼飲料水として適用されるSO₂基準を満たすことが難しく、日本へ輸入することができませんでした。
こうした状況を受け、事業者から「ぶどう酒からアルコールを除去したノンアルコールワインについても、ワインと同じ基準で亜硫酸塩を使用できるようにしてほしい」という要望書が提出されました。
食品安全委員会による安全性評価や食品衛生基準審議会での審議を経て、令和8年1月の告示により、「ぶどう酒からアルコールを除去した清涼飲料水」についても、ワインと同じSO2基準が適用されるようになりました。
つまり、脱アルコール製法ワインは、
- 一般的な清涼飲料水ではなく、
- ワイン製造の延長線上にある製品として扱うため、
- ワインと同じSO2基準を適用する
という整理がなされました。
今回の見直しは、ノンアルコールワインを「ぶどう酒由来の特殊な清涼飲料水」として位置付けた点に大きな意義があります。
これにより、海外では一般的な脱アルコール製法のノンアルワインも、日本へ輸入しやすい環境が整いました。
輸入実務から感じたこと
今振り返ると、輸入を決める前にサンプルを検疫所へ持ち込み、成分や規格を確認しておけば避けられたことだったのかもしれません。
しかし当時は、アルコールを除去しただけで食品衛生法上の分類が変わり、SO2の基準まで変わるとは想像もしていませんでした。
輸入実務では、品質や価格だけでなく、日本の制度との適合性を確認することも重要です。そして制度そのものも、時代に合わせて見直されることがあります。
今回の改正は、脱アルコール製法ワインという新しい市場の広がりに制度が追いついた一例と言えるでしょう。
まとめ
新しい商品を輸入する際には、往々にして、このような思いもかけない障壁があるものです。
その理由は単に品質面だけではなく、今回のように既存の制度が新しい商品に追いついていないことが原因となる場合もあります。
今回は制度改正により、脱アルコール製法のノンアルコールワインも輸入しやすい環境が整いました。しかし、新しい商品ほど制度との適合性を事前に確認することが大切です。
ワイン輸入実務ガイド
海外で見つけたワインを日本へ輸入・販売したい方に向けて、ワイナリー探しから商談、国際輸送、通関、日本語ラベル、販売準備まで、ワイン輸入の実務を順番に解説しています。
- ワイン輸入の全体像を解説
- 「輸入酒類卸売業免許」は本当に必要? 販売先から考える酒販免許の選び方
- 輸入したいワイナリーが見つかったら、最初に確認したいポイント
- ワイナリーとの商談で確認したい9つのポイント(実務編)
- このワインは本当に売れる? ― 価格表から始まる輸入判断
- 「フォワーダーとは?」― 国際輸送を支える物流のパートナー ―
- オーダー後こそ輸入者は忙しい ― 船が着く前に進める通関準備と必要書類 ―
- 輸入ワインの検品とは? ― 入荷時に確認すべきポイント ―
- 輸入ワインの商品情報はどう作る? ― ワインの魅力を伝えるために ―
- ワインは誰に、どう売る? ― インポーターの販売戦略と価格設計の考え方 ―
- 輸入したワインを知ってもらうには? ― インポーターの販促活動 ―
- 輸入実務を任せるという選択肢― 自分が見つけたワインを日本で販売するために ―
- 「リーファーか、ドライか?」― 輸入ワイン輸送の品質管理 ―
- 輸入できなかったノンアルコールワイン ― SO2基準の改正で変わったこと ―
- 「オーガニックワイン」は日本でもそのまま表示できる? ― 有機JAS制度と輸入ワイン ―
酒類販売業免許の手続きは、公的書類の収集をはじめ、要件を満たしているかどうかの税務署との事前確認、そして申請書一式の作成など、想像以上に時間と労力がかかります。
当事務所では、ワイン業界に詳しい行政書士が自ら、お客様が本業の準備に専念できるよう、面倒な行政手続きをトータルでサポートいたします。
\まずはお気軽にお問合せください/
