はじめに:「販売できる」と「売れる」は、別の話
日本語ラベルを貼付し、食品衛生法上の手続きも終え、通関許可が下りれば、ワインはようやく「販売できる状態」になります。
しかし、ここで気をつけたいのは、「販売できる状態」と「売れる状態」は別物であるということです。
ワインは、価格だけで選ばれる商品ではありません。「どんな生産者が、どんな土地で、どのような考えで造ったワインなのか」――こうした背景を伝える情報があって初めて、ワインショップのバイヤーや飲食店のソムリエ、そしてその先にいるお客様に魅力が届きます。
特に、日本ではまだ知名度のないワイナリーを初めて輸入する場合は、造り手の魅力を一から伝える必要があります。今回は、その「商品情報」をどう集め、どう整理するかについてご紹介します。
ワイナリーの情報を「ブランドストーリー」としてまとめる
最近では、多くのワイナリーが自社ホームページを開設し、生産地域の特徴やワイナリーの歴史、栽培・醸造に対する考え方などを紹介しています。
自社畑を持つワイナリーであれば、土壌や標高、樹齢、栽培品種などの情報も掲載されていることが多く、家族経営であれば創業の経緯やファミリーの歴史、醸造家のプロフィールなども知ることができます。
こうした情報を整理し、日本のお客様に伝わる形で「ブランドストーリー」としてまとめることも、輸入者の大切な仕事のひとつです。
テクニカルシートとボトル画像は必須の資料
あわせて、輸入する各ワインについては、テクニカルシート(Technical Sheet)と高解像度のボトル画像も必ず入手しておきましょう。
テクニカルシートには、ブドウ品種や栽培・醸造方法、分析データなどがまとめられており、商品説明や営業資料を作成する際の重要なベースになります。
ワイナリーによっては十分な資料が用意されていないこともあります。その場合は、自社でフォーマット(質問シート)を作成し、生産者に情報提供を依頼するとスムーズです。
商品情報として整理しておきたい項目
ファインワインやブティックワイナリーのワインの場合、次のような情報が揃っていると、詳細な情報を求めるワインショップやソムリエの方にも納得・信頼してもらえるでしょう。
すべての生産者がこれだけの情報を把握しているわけではありません。また、ワインのカジュアルさやタイプによって、必要となる情報量やその深さも異なります。
さらに、知名度の高いワイナリーでは、ブランドそのものが評価されているため、細かな栽培・醸造情報を積極的に公表していないケースもあります。
ここで紹介した項目は、あくまでも自社の商品情報フォーマットを作成する際の参考例としてご活用ください。
① ワインの基本情報
- ワイン名 / 生産者名
- ヴィンテージ(収穫年)
- 原産地呼称(A.O.C./D.O.C./I.G.P. など)
- 生産国 ・ 地域
- ワインのタイプ(赤/白/ロゼ / スティル/発泡/微発泡)
② ブドウ栽培情報
- 栽培家
- ブドウ品種(ブレンドの場合はその比率も)
- 畑の地勢、特徴(向き/標高など)
- 土壌の性質(石灰岩/粘土/砂利など)
- 樹齢 / 植栽密度/仕立て
- クローン・台木・自根(必要に応じて)
- 栽培方法:リュット・レゾネ(減農薬)、サステイナブル農法、ビオディナミ(バイオダイナミック)など
- ヴィンテージ情報(天候/収量/収穫時期など)
- 収穫方法(手摘み/機械)
③ 醸造情報
- 醸造家
- 発酵プロセス(ステンレスタンク/木桶/野性酵母の有無など)
- マロラクティック発酵(MLF)の有無
- 熟成期間と容器(ステンレスタンク/コンクリートタンク/オーク樽/アンフォラなど)
- 樽の種類(フレンチオーク/アメリカンオーク、樽メーカーなど)
- 新樽比率
- 清澄(ファイニング)
- 濾過(フィルタリング)
- ボトリング日
④ 分析データ
- アルコール度数
- 残糖度(甘辛の目安。リースリングなどでは酸とのバランスも重要)
- 総酸度(pH / 酸度)
⑤ テイスティングノート&特徴
- 外観(色調や輝き)
- 香り(アロマ/ブーケの特徴)
- 味わい(アタック/タンニン/酸/余韻など)
⑥ 提供・販売時の参考情報
- 飲み頃温度 / デキャンタージュの要否
- 熟成ポテンシャル(今飲むべきか、寝かせるべきか)
- おすすめのペアリング(合わせたい料理)
⑦ 販売・物流情報
量販店や一部の酒販チェーンでは、商品登録のためにJANコードやケース外寸、ボトルサイズ・重量などの物流情報の提出を求められることがあります。あらかじめ整理しておくと、取引開始時の対応がスムーズです。
- JANコード
- 容量(750ml/375mlなど)
- 栓の種類(コルク/スクリューキャップ/ガラス栓など)
- ボトルサイズ・重量
- ケース入数
- ケース外寸
⑧ 受賞歴・評価・その他
- 評論家・評価誌のスコア(例:Robert Parker/James Suckling/Wine Spectator など)
- オーガニック等の認証情報
まとめ:情報の厚みが「選ばれるワイン」をつくる
輸入ワインは、海外から運んでくれば商品になるわけではありません。
生産者の想い、畑のテロワール、醸造へのこだわりといった情報をインポーターが丁寧に整理し、日本のお客様に分かりやすく伝えることで、初めて価値ある「選ばれる商品」になります。
特に知名度の低いブティックワイナリーを育てる上で、こうした情報の充実がブランド価値を高める大きな要素になるでしょう。
ワイン輸入実務ガイド
海外で見つけたワインを日本へ輸入・販売したい方に向けて、ワイナリー探しから商談、国際輸送、通関、日本語ラベル、販売準備まで、ワイン輸入の実務を順番に解説しています。
- ワイン輸入の全体像を解説
- 「輸入酒類卸売業免許」は本当に必要? 販売先から考える酒販免許の選び方
- 輸入したいワイナリーが見つかったら、最初に確認したいポイント
- ワイナリーとの商談で確認したい9つのポイント(実務編)
- このワインは本当に売れる? ― 価格表から始まる輸入判断
- 「フォワーダーとは?」― 国際輸送を支える物流のパートナー ―
- オーダー後こそ輸入者は忙しい ― 船が着く前に進める通関準備と必要書類 ―
- 輸入ワインの検品とは? ― 入荷時に確認すべきポイント ―
- 輸入ワインの商品情報はどう作る? ― ワインの魅力を伝えるために ―
- ワインは誰に、どう売る? ― インポーターの販売戦略と価格設計の考え方 ―
- 輸入したワインを知ってもらうには? ― インポーターの販促活動 ―
- 輸入実務を任せるという選択肢― 自分が見つけたワインを日本で販売するために ―
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- 輸入できなかったノンアルコールワイン ― SO2基準の改正で変わったこと ―
- 「オーガニックワイン」は日本でもそのまま表示できる? ― 有機JAS制度と輸入ワイン ―
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