はじめに:見るべきは価格表の先にある市場
このワイナリーをきちんと検討してみよう、となった段階で行うのが、価格表(Price List)の取得とサンプル依頼です。多くの場合、この二つはセットで進みます。
ワイナリーとの商談で、価格表や取引条件、MOQなど何を確認しておくのかについては、こちらの記事で整理しています。

商談が進むと、ワイナリーから価格表が提示されます。ただ、価格表を受け取ったからといって、すぐに発注を決めるわけではありません。
まず行うのは、「このワインを輸入したら、日本でいくらで販売することになるのか」を試算することです。
この記事では、サンプルを取り寄せ、価格表をもとに輸入原価を試算し、発注を判断するまでのインポーター実務の流れをご紹介します。
サンプルを取り寄せる ― 価格表とあわせて動く
価格表と同じタイミングで依頼しておきたいのが、サンプルです。
ワイナリーにより、無償提供の場合、有償の場合や、輸送費をこちら側で負担するケースがあります。数量やヴィンテージによっては手配に時間がかかることもあるため、価格表を依頼するタイミングで、あわせて相談しておくとスムーズです。
この段階でサンプルを依頼しておく理由は、後の「売れるかどうか」の判断に直結するからです。
価格表だけを見て輸入原価の試算を進めても、実際に飲んでみなければ、その品質や味わいはわかりません。反対に、サンプルを試飲しても、金額が分からなければ「売れるかどうか」の判断材料が半分しかない状態になってしまいます。
つまり、価格表とサンプルは、どちらか一方だけでは意味を持たず、両方が揃うことで初めて「このワインは売れるか」を検討できるようになる、いわば対の存在なのです。
サンプルの到着を待つ間に、価格表をもとにした輸入原価計算と小売価格の試算を進めておくと、サンプルが手元に届いた時点でスムーズに検討へ進むことができます。
ワイナリーの価格は「スタート地点」
ヨーロッパのワイナリーでは、価格条件としてEx-Cellar(ワイナリー渡し)で提示されることが少なくありません。この価格は、あくまでもワイナリーで商品を引き渡す時点の価格です。
日本で販売するまでには、
- ワイナリーから港までの輸送費
- 海上運賃・保険料
- 関税・酒税・消費税
- 通関や国内配送にかかる費用
- ラベル貼付などの作業費
など、さまざまなコストが加わります。
なお、EUワインは日EU・EPAの原産地規則を満たし、原産品申告など所定の手続きを行うことで関税は0%となります。
ただし、酒税や消費税は別途課税されます。酒税は、スティルワイン、スパークリングワインで税率が異なるので(発泡性ワインはガス圧の強さにもよる)、そのあたりも併せて確認しておくと、後の計算がスムーズです。
まずは輸入原価を試算する
価格表を受け取ったら、まず行うのが輸入原価の試算です。
この段階では、まだ発注前の検討段階なので、海上運賃や為替レートなどは、一定の条件を設定して試算します。
為替レートはその日の実勢レートではなく、多少円安に振れても想定原価が大きく変わらないよう、少し余裕を持ったレートで試算する方が良いでしょう。見積りから発注・送金までの間に為替相場が変動することもあるためです。
どの程度の為替変動を見込み、どのように管理するかは、インポーターごとの考え方が分かれるところです。実際の運用では、送金時期に合わせて為替予約を活用し、為替レートを固定してリスクを抑えるインポーターもあります。
また、海上運賃や通関費用など、コンテナ全体で発生する費用は、各商品に按分して原価に組み入れます。
その按分方法は、本数やケース数で均等に割る場合もあれば、コストの種類によっては商品価格に応じて按分する場合もあるでしょう。例えば海上運賃を本数按分とし、保険料を商品価格に応じて配分するなど、コストの性質に応じたルールを採用している会社もあります。
どの方法を採用するにせよ、社内で一定のルールを決めておくと、商品ごとの原価比較がしやすくなります。
販売価格をシミュレーションする
輸入原価が見えてきたら、次は小売価格(参考上代)を考えます。
インポーターには、それぞれ目標とする利益率や価格設定の考え方があります。原価に対して掛け率を設定する場合もあれば、想定される流通段階(卸先の卸売業者、小売店、飲食店など)ごとのマージンを積み上げて考える場合もあります。
輸入原価をもとに小売価格を設定すると、「このワインはいくらで店頭に並ぶのか」が見えてきます。ここで初めて、市場との比較ができるようになります。
この段階で採算が合わないと判断すれば、サンプルの評価が高くても輸入を見送るという選択肢もあります。
反対に、価格競争力があり、市場性も見込めると判断できれば、初回発注へ向けた具体的な準備を進めることになります。
輸入原価から販売価格を考えるだけでなく、誰に、どの流通経路で販売するのかによっても価格設計は変わります。インポーターの販売戦略と価格設計については、こちらの記事で詳しく解説しています。

「売れるかどうか」を判断する
最後に検討するのは、この価格で本当に売れるかどうかです。
ここで、取り寄せておいたサンプルを開けます。輸入原価から導いた小売価格を念頭に置きながら試飲し、「この価格なら納得できる」「この価格では少し厳しいかもしれない」といった評価を行います。
味わいや品質に優れ、自分が気に入ったワインであっても、想定される販売価格では市場に受け入れられないことがあります。反対に、多少価格が高くても、希少性やストーリー性があれば十分に販売できる場合もあります。
つまり、評価しているのはワインそのものではなく、「その価格で市場に受け入れられる価値があるか」ということです。価格表を見ているようで、実際には市場を見ながら判断しているのです。
また、同じ産地・同じ価格帯の競合ワインが日本市場でどのように販売されているかをリサーチしておくことも、重要な判断材料の一つになります。
実務のコツ:原価試算シートを作っておく
原価試算は、一度きりで終わるものではありません。同じワインでも、輸入のたびにワインの価格や為替レートが変わるため、その都度試算を見直します。
そのため、輸入原価や小売価格を試算する計算式をスプレッドシートやExcelなどにフォーマット化しておくと、同じロジックで素早く算出できます。
複数のワイナリーや複数のアイテムを同時に検討している場合は特に、判断基準がぶれないようにする意味でも、こうした仕組みづくりが実務の効率化につながります。
この試算シートは、新しいワイナリーを比較検討するときにも、そのまま活用できます。
まとめ:問うべきは「仕入れられるか」ではなく「売れるか」
ワイナリーの価格表は、発注を判断するためのスタートにすぎません。
そこから輸入原価と小売価格を試算し、サンプルを試飲しながら市場で受け入れられるかを評価して、初めて「輸入する」という決断につながります。
輸入ビジネスでは、「いくらで仕入れられるか」以上に、「いくらで売れるか」を考えることが大切です。
そして、その判断ができたら、いよいよ実際の輸送や通関の手配へと進みます。

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