はじめに
海外旅行やワイナリー巡りで出会った一本。
展示会で試飲して感動した、すばらしい日本未輸入ワイン。
そんなワインとの出会いがあると、すぐにでも自分で輸入してみたくなるかもしれません。けれど、最初に確認すべきなのは、実はワインのことではありません。
「このワイナリーと、取引できるかどうか」 です。
今回は、初めて海外ワイナリーとやり取りをするときに、最初に確認しておきたいポイントを整理してみます。
まず確認したいのは、取引できる相手かどうか
日本への輸出に前向きかどうか
シリーズ第1回 でも触れましたが、海外のワイナリーがすべて、海外輸出に積極的というわけではありません。
「ぜひ日本に輸出したい」というワイナリーがある一方で、
- 国内販売だけで手一杯
- 輸出するのは一部の国だけ
- すでに日本に輸入元がある
- 輸出の手続きに対応できない
など、生産者の事情はさまざまです。
ですから最初の一歩は、「このワイナリーは、日本への輸出に興味があるかどうか」を確認するところから始まります。
既存の日本輸入元がいないか、念のため確認を
「このワイナリーのこの商品に、すでに日本のインポーター(輸入元)があるかどうか」も、商談前に確認しておきたいポイントです。
海外ワイナリーが複数の日本のインポーターと取引すること自体は珍しくなく、決して特別なことではありません。しかし、同じレンジの商品を複数社が扱うことになると、販売価格や販路などで競合する可能性があります。
また、すでに日本市場において独占契約を結んでいる場合は、新たな取引が難しいケースもあります。さらに、ワイナリー自身が把握していないルートで、日本へ商品が流通していることもあります。
こうした点は、後になってから分かると販売戦略にも影響します。商談を本格的に進める前に、日本市場での取引状況を確認しておくと安心です。
取引に際して確認したいこと
取引の可能性がありそうだと分かったら、次は少しずつ具体的な条件を聞いていく段階です。
例えば、
- 価格表(Price List)
- 最低発注数量(MOQ)
- 取引条件(FOB・EXWなど)
- 支払条件
- 在庫状況
- 入数(6本/12本)
- 現行ヴィンテージ
- クロージャ―の種類(コルク/スクリュー)や素材
- リードタイム
このあたりが、一般的に最初に確認する内容です。
ここで大切なのは、相手がどのような形の取引を望んでいるのかを、こちらも理解しようとする姿勢です。
ワイナリーとの関係は、一度の取引で終わるものではなく、これから何年も続いていく前提でスタートするものだからです。
ワイナリーの規模やスタイルとの「相性」を見極める
ワイナリーによって、考え方は大きく違う
例えば、小規模なブティック・ワイナリーであれば、
「まずは1パレットから始めましょう。」
というスタンスのところは珍しくありません。新しい市場で、自分たちのワインを大切に扱ってくれるインポーターを探しているケースです。
反対に、規模の大きなワイナリーになると、
「オーダーは、20フィートコンテナが基本です。」
という価格体系のところもあります。コンテナ単位でまとめて仕入れることを前提に価格が設計されているため、少量での取引には対応していない、ということもあるのです。
「相性の良いワイナリー」を探す
ここは、意外と見落とされがちなポイントかもしれません。
大規模なワイナリーから、あえて少量だけ仕入れることも、不可能ではありません。ただその場合、
- コンテナ単位の割引が受けられない
- 結果として仕入価格が割高になる
- すでに日本で大量仕入れしている他社と、同じワインで価格競争になる
という状況になりやすく、初めての輸入としては、なかなか厳しい出だしになりがちです。
もちろん、限定ラベルなど差別化できる商品があったり、販路の目安が立っているなど、独自の販売戦略が描けているのであれば話は別ですが、そうでない場合は慎重に検討したいところです。
一方で、すでに日本にコンテナ単位で大量に輸出しているワイナリーであっても、フラグシップクラスの自社ブランドについては、「少量からでも大切に育ててくれる、別のインポーター」を探していることもあります。エントリーレベルの商品とは別対応の場合があるのです。
また、前述の他のインポーターとの同じ商品の競合については、取引開始時点で他インポーターが扱っていないことを確認できていても、自社が地道に販売しているうちに、他ルートから安く入って来ていることをお客様から聞かされることもあります。
初めて輸入であれば、価格や条件面以上に、「自社の取引規模やスタイルに合ったワイナリーなのか」が、案外重要なのかもしれません。
特殊なケース:人気ワイナリーの「割り当て(アロケーション)」
産地によっては、事情がもう少し異なる場合もあります。
例えばブルゴーニュの人気生産者などでは、新ヴィンテージの価格表が届いたら、「このワインを○○本希望します」と申し込みをします。そして、その希望に対して、実際に割り当てられる本数が後日知らされる、という流れになります。
生産量が限られているため、これまでの取引実績や付き合いの長さなどをもとに割り当て本数が決まり、熟成期間を経てリリース後にようやく購入できる、というスタイルです。
つまり、「欲しい分だけ、欲しいタイミングで注文する」ということ自体が、そもそもできない生産者もある、ということです。
実務のコツ:約束は小さなことでも書面に残す
ここでひとつ、実務的な視点も付け加えておきたいと思います。
初めてのやり取りでは、口頭のやりとりだけで話が進み、そのまま発注に至ってしまうことも少なくありません。ただ、商品名・価格・数量・入数・支払条件・エクスクルーシブの有無といった大切な取り決めについては、契約書が理想ですが、少なくとも重要な条件は書面やメールで残しておきましょう。
というのも、輸入ビジネスは一度きりの取引では終わらず、ヴィンテージが変わるたびに条件を確認し合う関係が続いていきます。「言った・言わない」のすれ違いは、担当者が変わったときや、取引が数年続いた後にこそ起こりやすいものです。最初の段階で認識をすり合わせ、記録として残しておくことが、後々のトラブルを防ぐ一番のコツかもしれません。
おわりに:大切なのは、同じ価値観で長く付き合える相手か
ワイナリーとの取引条件に、「これが標準」というものはありません。
そして、ワインの輸入は一度きりの取引では終わりません。気に入ったワインであれば、ヴィンテージが変わるごとに継続して仕入れ、日本市場で少しずつブランドやファンを育てていくことになります。
だからこそ大切なのは、「いかに有利な条件で仕入れられるか」ではなく、お互いが無理なく、長く付き合っていける関係を築けるかという視点です。
ワイナリーによって、少量でも新しい市場を開拓したいという考え方もあれば、コンテナ単位で出荷量重視の取引を前提としている場合もあります。
最初の段階でこうした考え方を確認しておくことは、商談をスムーズに進めるだけでなく、その後の長期的な信頼関係を築くための第一歩になります。
日本市場でそのワインをどのように育てていくのか。価値観を共有できる相手かどうかは、ぜひ大切にしていただきたいポイントです。
次回は、実際に商談を進めていく際のポイントについて解説します。
ワイン輸入実務ガイド
海外で見つけたワインを日本へ輸入・販売したい方に向けて、ワイナリー探しから商談、国際輸送、通関、日本語ラベル、販売準備まで、ワイン輸入の実務を順番に解説しています。
- ワイン輸入の全体像を解説
- 「輸入酒類卸売業免許」は本当に必要? 販売先から考える酒販免許の選び方
- 輸入したいワイナリーが見つかったら、最初に確認したいポイント
- ワイナリーとの商談で確認したい9つのポイント(実務編)
- このワインは本当に売れる? ― 価格表から始まる輸入判断
- 「フォワーダーとは?」― 国際輸送を支える物流のパートナー ―
- オーダー後こそ輸入者は忙しい ― 船が着く前に進める通関準備と必要書類 ―
- 輸入ワインの検品とは? ― 入荷時に確認すべきポイント ―
- 輸入ワインの商品情報はどう作る? ― ワインの魅力を伝えるために ―
- ワインは誰に、どう売る? ― インポーターの販売戦略と価格設計の考え方 ―
- 輸入したワインを知ってもらうには? ― インポーターの販促活動 ―
- 輸入実務を任せるという選択肢― 自分が見つけたワインを日本で販売するために ―
- 「リーファーか、ドライか?」― 輸入ワイン輸送の品質管理 ―
- 輸入できなかったノンアルコールワイン ― SO2基準の改正で変わったこと ―
- 「オーガニックワイン」は日本でもそのまま表示できる? ― 有機JAS制度と輸入ワイン ―
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