はじめに―20歳未満の飲酒は、昔から禁止されていた
コンビニやスーパーでお酒を買うとき、年齢確認を求められる。
インターネットでお酒を注文するときには、年齢を確認するための入力欄がある。
現在では、こうした仕組みを特に不思議に思うことはないかもしれません。
しかし、20歳未満の飲酒そのものが禁止されたのは、最近のことではありません。
現在の「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」の前身となる法律が制定されたのは、大正11年(1922年)です。国税庁に残る警察庁資料でも、未成年者を保護するため酒の害を取り除く趣旨で、議員立法により成立したと説明されています。
それでも、かつては高校を卒業して大学や会社に入った頃に、歓迎会などをきっかけにお酒を飲み始めることも珍しいことではありませんでした。
法律では昔から禁止されていたのに、なぜ現在では、お酒を「売る側」が年齢を確認することまで求められるようになったのでしょうか。
国税庁に残されている過去の資料をたどると、20歳未満の飲酒に対する社会の受け止め方と、酒類を販売する側に求められる役割が変わってきた様子が見えてきます。
法律で禁止されていても、社会の受け止め方は今とは違っていた
2002年、国税庁の「酒類販売業等に関する懇談会」で、20歳未満の飲酒が取り上げられています。
そこで紹介された厚生省(当時)の2000年度全国調査では、高校3年生男子の56.2%が、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで酒類を購入していたとされています。
さらに懇談会の資料には、20歳未満に酒類を売ってはいけないことは知っていても、注意したときの反応が怖くて断れないという酒販店側の声も紹介されています。
別の資料では、対策を進めるうえでの課題として、当時なお、
飲酒位大目に見てもという社会的風潮
があることも指摘されていました。
20歳未満の飲酒を禁止する法律がなかったわけではありません。
法律はあっても、それを社会がどこまで厳格に受け止めるかは、現在とは少し違っていた。
当時の国税庁の資料からは、そんな時代背景も見えてきます。
最初に問題になったのは、街中にあった酒類自販機
20歳未満の飲酒防止について、酒類を「売る側」に対する規制が少しずつ具体化していく中で、早くから問題になったのが酒類自動販売機でした。
1989年、国税庁は「未成年者の飲酒防止に関する表示基準」を定めました。
当時の表示基準の対象は酒類自販機で、自販機の前面に、
- 未成年者の飲酒は法律で禁止されていること
- 管理責任者の氏名・連絡先
- 午後11時から翌朝5時まで販売を停止していること
などを表示することとされ、1990年4月から適用されました。
しかし、自販機は販売する人と購入する人が顔を合わせません。
表示をしたとしても、購入者が20歳未満かどうかをその場で確認することはできません。
そこで1994年、中央酒類審議会は、対面販売の趣旨を徹底することが難しい屋外の従来型酒類自販機について、撤去する方向で検討すべきだとしました。
これを受けて全国小売酒販組合中央会は1995年、従来型の屋外酒類自販機を2000年5月までに撤廃することを決議。国税庁も、購入者の年齢を確認できる改良型自販機への切替えなどを指導しました。
1996年3月末には全国に18万5,829台あった従来型自販機は、その後大きく減っていきます。
ところが、酒類自販機を減らせば、それだけで20歳未満がお酒を買えなくなるわけではありません。
2000年代初めの国税庁の議論では、高校生がコンビニやスーパーなどで酒類を購入している実態も問題として取り上げられるようになります。
「どこで売るか」だけではなく、「誰に売るか」を販売する側が確認する必要がある。
次第に、問題の中心はそこへ移っていきます。
2000年代初め、「売る側」に年齢確認が求められるようになる
大きな転換点となったのが、2000年から2001年にかけての法改正です。
2000年の改正では、20歳未満の者が飲むことを知りながら酒類を販売・提供した営業者に対する罰則が、それまでの科料から50万円以下の罰金へ引き上げられました。
そして2001年12月の改正では、酒類を販売・提供する営業者について、20歳未満の者の飲酒防止のため、「年齢の確認その他の必要な措置」を講ずることが法律に盛り込まれました。
現在のお酒の販売で行われている「年齢確認」につながる重要な規定です。
ところが、ここにも当時ならではの興味深い記録が残っています。
2004年の国税庁の懇談会では、罰則強化によって販売店が以前より年齢を確認する必要に迫られたところ、購入者から、
「なぜそのようなことを求めるのか」
「プライバシーの侵害ではないか」
といった反応があり、トラブルが多く発生したと説明されています。
そして、年齢確認に法的な根拠を持たせる必要があるとして、2001年の法改正につながった経緯まで説明されています。
今ではお酒を購入するときの年齢確認は珍しくありません。
しかし、その「当たり前」も、最初から社会に当然のものとして受け入れられていたわけではなかったのです。
酒販免許の規制緩和と、「販売管理」の強化
そして、もう一つ大きな変化が起こります。
酒類小売業免許の規制緩和
です。
2001年には距離基準が廃止され、2003年9月には人口基準も廃止されました。
それまでより、さまざまな事業者が酒類小売業へ参入しやすい環境へと変わっていきます。
国税庁の70年史によれば、酒類小売業の免許場数は1999年度末の17万7,482場から、2007年度末には20万1,874場まで増加しています。
一方、酒類は普通の商品とは異なり、20歳未満の者への販売防止など、販売する側に適切な管理が求められる商品でもあります。
そこで2003年、酒類販売管理者制度が導入されました。
国税庁自身も、この制度が設けられた背景について、酒類小売業免許の規制緩和によって取引環境が大きく変化する中、20歳未満の者の飲酒防止をはじめとする社会的要請に対応するため、酒類の適正な販売管理について、より実効性のある仕組みが必要になったと説明しています。
つまり、酒類販売をめぐる規制は、単純に「規制緩和された」のではありません。
誰が酒類販売業へ参入できるかという経済的な規制を緩和する一方で、実際にどのように酒類を販売するかという販売管理は、むしろ重視されるようになったと見ることができます。

「飲んではいけない」から「確認できなければ売らない」へ
この変化を象徴するのが、酒類売場に掲示される表示です。
2003年の表示基準改正により、酒類小売販売場では、酒類の陳列場所であることに加えて、
「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」
旨を表示することとされました。
ところが、そのわずか2年後の2005年、この文言が改められます。
新たな表示は、
「20歳以上の年齢であることを確認できない場合には酒類を販売しない」
というものです。
一見すると、売場に掲げる言葉が変わっただけのようにも見えます。
しかし、この違いは小さくありません。
それまでの表示は、20歳未満の者に対して「飲んではいけない」と法律上の禁止を知らせるものでした。
新しい表示は、販売する側が年齢を確認し、20歳以上であることを確認できなければ「売らない」というものです。
飲む側への注意喚起から、売る側の行動へ。
20歳未満の飲酒防止について、酒類販売者が担う役割がより明確になったことを象徴する変化といえるでしょう。
現在も、酒類の陳列場所には「酒類の売場である」旨とともに、「20歳以上の年齢であることを確認できない場合には酒類を販売しない」旨を表示することとされています。
顔の見えない販売は、自販機からECサイトへ
こうして歴史をたどると、現在の酒類通販のルールも少し違って見えてきます。
1990年代に問題になった酒類自販機には、一つ大きな特徴がありました。
販売する人と購入する人が、顔を合わせないことです。
現在、同じように購入者と直接顔を合わせずに酒類を販売できる代表的な方法が、インターネットによる通信販売です。
そのため、酒類の通信販売でも、20歳未満の者に販売しない旨を表示するだけではなく、購入申込画面に年齢記載欄を設けるなど、購入者が20歳未満の者ではないことを確認するための仕組みが必要になります。
現在の国税庁の案内でも、酒類販売者に対する取組として、酒類販売管理者の選任、売場での表示、年齢確認、自販機対策などが一体として示されています。
店頭、自販機、そしてECサイト。
販売方法は変わっても、現在の酒類販売に共通しているのは、
「20歳未満の者に売らないために、販売する側がどう管理するか」
という考え方です。

まとめ―変わったのは「20歳」という年齢ではなく、売る側の役割
20歳未満の飲酒を禁止する法律は、大正時代から存在していました。
それでも、法律があるだけで、現在のような年齢確認の仕組みが最初から整っていたわけではありません。
酒類自販機への対応、20歳未満の者による酒類購入の実態、販売者に対する罰則の強化、年齢確認をめぐる販売現場での戸惑い、そして酒販免許の規制緩和――。
こうした変化を経ながら、酒類販売のルールは少しずつ、
「20歳未満の者は飲んではいけない」
という飲む側への規制だけでなく、
「20歳未満の者に売らないために、販売する側も確認する」
という仕組みへと変わってきました。
現在、酒類販売管理者を置くことや、店頭で年齢確認を行うこと、ECサイトに年齢確認の仕組みを設けることも、それぞれ独立したルールのように見えるかもしれません。
しかし、過去の資料をたどってみると、これらはすべて、酒類を販売する側にも20歳未満の飲酒を防ぐ役割を求めてきた流れの延長線上にあることが分かります。
現在のルールだけを見るのではなく、なぜそのルールができたのかを知ると、酒類販売に求められている「販売管理」の意味も少し見えやすくなるのではないでしょうか。
参考資料
本記事の制度の沿革や当時の議論については、主に国税庁の次の資料を参照しています。
- 国税庁「国税庁70年史」
- 国税庁「第9回 酒類販売業等に関する懇談会 資料」
- 国税庁「第12回 酒類販売業等に関する懇談会 議事録」
- 国税庁「酒類自動販売機の設置状況について」
- 国税庁「二十歳未満の者の飲酒防止に関する表示基準」
- 国税庁「酒類販売管理者及び酒類販売管理研修―制度の沿革」
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