「ワインビジネスを始めたい!」と思ったら最初に整理すべき5つのこと ―後悔しないためのワイン輸入・販売ライセンス設計【後編】―

前編では、ワインビジネスの土台となる「扱うお酒の種類(何を)」と「仕入先の想定(どこから)」について、ライセンス設計の重要性を解説しました。

「将来の展望(攻め)」と「手続きの具体性(守り)」のバランスについてのおおよそのイメージはつきましたでしょうか?

後編となる今回は、残る3つの重要要素「誰に売るか」「どこで売る・保管するか」「いくらで回すか」についての注意点を専門家の視点からひも解きます。

目次

3. 【誰に売るか】販売先の形態と免許のルート

仕入先の目途が立ったら、次は「誰に(どのようなルートで)売るか」を明確にします。

大きく以下の3つのルートに分かれます。目指すべき免許の種類(小売業か卸売業か)を分かつ、言わばビジネスの根幹部分です。

  • 一般の消費者向け(ネット通販や実店舗など)
  • 飲食店向け
  • 他の酒類販売業者向け(酒販店や酒販卸売業者への卸売り)

「飲食店向け」は小売?それとも卸売?

ここで多くの方が混同されるのが、「飲食店への販売」です。

「小売店や飲食店への販売は『業務卸』って言うよね?」「飲食店はビジネス(プロ)だから卸売りなのでは?」と思われがちですが、酒税法上、飲食店は「お酒を消費する場所(最終消費者と同等)」とみなされるため、飲食店へワインを売るには「卸売業免許」ではなく「小売業免許」が必要になります。

一方で、他の酒販店さんにワインを卸したい、あるいはワインECサイトを運営する業者さんに卸売りしたいという場合は、完全に「酒類卸売業免許」の領域になり、申請のハードルや要件がガラリと変わります。

では、具体的にどのように免許を組み立てていけばよいのでしょうか。よくある3つのビジネスモデルを例に見てみましょう。

パターンA【ネット通販メイン】

海外のワインを、まずはWEBサイトだけで全国の個人へ届けたい

「通信販売酒類小売業免許」だけを優先的に申請します。

パターンB【実店舗 兼 地域の飲食店への配達】

ショップを構えて店頭で売りつつ、近所のレストランにも直接納品したい

「一般酒類小売業免許」を申請します(※飲食店への対面販売もこの免許でカバーされます)。

パターンC【独自ルートで仕入れ予定の特別なワインを、いずれは卸売りまで】

最初は小売で始め、軌道に乗ったら他の酒販店や卸売業者にも卸したい

小売が軌道に乗ってから「酒類卸売業免許」を条件緩和で追加取得する。もしくは仕入れと卸売先の酒販店がすでに決まっているなら、最初から同時申請する。


「自分がやりたいのは、この3つのうちどれだろう?」

そう考えたとき、実は選んだパターンによって、税務署に提出する事業計画書の書き方や、満たすべき要件の順番が180度変わってきます。

最初の段階である程度しっかりとしたビジネスのロードマップを描いておかないと、後から「このプランだと、欲しい免許の申請が下りない!」「この免許だと、思っていた売り先に販売できない!」といった事態になりかねません。ビジネスプランとライセンス設計をカチッと一致させることが、失敗しないための大原則です。

4. 【どこで売る・保管するか】販売場と倉庫の「場所的要件」

お酒を扱う「場所」も、税務署が最も厳しくチェックするポイントの一つです

自宅、賃貸オフィス、外部倉庫、あるいはレンタルオフィスなど、どこを販売場にするかによって、必要な書類や物件の契約条件(賃貸借契約書の特約など)が変わってきます。物件を借りる前の段階から知っておくべき注意点があります。

賃貸契約書の「使用目的」を必ずチェック

特に注意したいのが、借りる物件の賃貸借契約書にある「使用目的」の欄です。ここが「居住用」や単なる「事務所以外の使用を認めない」となっている場合、そのままでは税務署に販売場として認めてもらえません。

オーナー様から「酒類の販売場(または店舗・倉庫)として使用することを承諾する」という旨の「使用承諾書」を個別にいただく必要があります。

レンタルオフィスやバーチャルオフィスの壁

近年増えているレンタルオフィスですが、「独立した個室(壁で仕切られ、施錠できること)」がないシェアオフィスやバーチャルオフィスの場合、場所的な要件を満たせない可能性が非常に高くなります。ただし、個室タイプで独立性が保たれており、税務署による現地確認(実地調査)に対応できる契約内容であれば、可能性がゼロではないケースもあります。物件決定前に必ずご相談ください。

また、ワインの品質を保つために外部の定温倉庫を利用する場合、その倉庫から使用承諾書を発行してもらって申請手続きに備える必要があります。

5. 【いくらで回すか】初期の資金計画と「財政的基礎」

最後は、ビジネスを持続・運営していくための資金計画です。
酒販免許の審査には「財政的基礎」という要件があり、直近で税金の滞納がないか、ビジネスを健全に継続できる見通しがあるかという、資金的な安定性も審査の対象になります。

「お酒の仕入れ」特有の資金の波を予測する

ワインビジネス、とりわけ輸入卸などは、「買い付けから現金回収までに時間がかかる」ビジネスモデルのため、その間の資金需要をどうするかが最初の大きな課題となります。

商品が入る前に発生する先行費用とその内訳

海外への商品代金支払い

初回取引では、前払い送金を要求される場合が多いです。そうでなくても欧州便などは輸送期間(リードタイム)が長いため、商品が日本に到着する前に支払期限を迎えることが珍しくありません。

海上輸送費

ワイン輸送は品質保持のために「リーファーコンテナ(冷蔵コンテナ)」を使うことが多く、輸送費が高くなりがちです。この輸送費を支払わないことには、港で商品を引き取ることができません。

通関時の関税・酒税・消費税の支払い

経済連携協定(EPA)等により、輸出国の原産地証明書などの書類を提出することで関税が免税(0%)になる場合もありますが、関税が免除されても、酒税と消費税は必ず課税され、通関時に支払いが求められます。

その他、輸入にまつわる諸経費

通関手数料、国内の倉庫費用、海上保険料などが順次発生します。

ワインを発注してから日本に到着し、出荷(販売)できるようになるまでの所要期間は、輸出(仕入)国にもよりますが、数ヶ月単位かかるのが一般的です。

さらに、国内で無事に通関が切れ、販売できる状態(内貨)になって順調に酒類業者に販売できたとしても、一般的な企業間取引の支払いターム(例:末締め翌月末払いなど)の関係で、実際に現金が回収できるのはさらに2ヶ月先ということも普通にあります。

これらを踏まえ、手元のキャッシュ(運転資金)がショートしないような、ゆとりを持った資金計画をあらかじめ書面(収支・資金繰りシミュレーション)に起こしておくことが、税務署への説明(=財政的基礎の証明)において強力な武器になります。

後編のまとめ

「攻めのビジネスプラン」と「守りのライセンス設計」を両輪に

2回にわたり、ワインビジネスを始める前に整理すべき「5つのステップ」をお届けしました。

1.【何を売るか】扱う「お酒」の種類

2.【どこから買うか】仕入先の想定と「具体性」の壁

3.【誰に売るか】販売先の形態と免許のルート

4.【どこで売る・保管するか】販売場と倉庫の「場所的要件」

5.【いくらで回すか】初期の資金計画と「財政的基礎」

これら5つは、バラバラに存在するのではなく、すべてがパズルのピースのように噛み合っています。

理想のワインビジネスを形にするためには、「こんなワインを、こんな風に届けたい!」という攻めのビジネスプランと、「その形なら、この免許をこの要件でクリアする」という守りのライセンス設計を、最初から同時並行で組み立てていくことが一番の近道です。

当事務所では、ワイン業界の現場を熟知した行政書士が、単なる書類作成にとどまらず、お客様のビジネスの未来を見据えたライセンス設計をご提案いたします。

「自分のやりたいプランだと、どの免許が必要?」「この物件で進めて大丈夫?」と迷われた方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。


酒類販売免許の手続きは、公的書類の収集をはじめ、要件を満たしているかどうかの税務署との事前確認、そして申請書一式の作成など、想像以上に時間と労力がかかります。

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